暗殺者
「させないっ!」
男が銃口に指をかけるより早く、めいは銃を蹴っ飛ばした。ライフルは高くかち上げられ、空中でくるくる開店した後、生い茂るササの中に落ちた。
銃さえなければ、こっちのものだ。めいはまるで刑事ドラマにおける犯人確保のように、男を力づくで取り押さえた。
「あっ、この間の!?」
捕まえたこの男は、前に拳銃で襲ってきた青年と同じ顔をしていた。本山金二郎の息子を
「どうした」
「こいつです。さっきの銃声」
傍にやってきた本山に、めいは説明した。
「どうしてあたしを狙ったのか……吐いてもらうから」
「オレは金もらってやってただけだ」
その言葉が真実だとするなら、やはり裏に黒幕がいるのか。しかし同じ男が出張ってきているということは、めいの命を狙う敵は大きな組織ではないのかもしれない。
「お、お
「……ちっ……爺さんもいたのか」
「え、本山さんこいつと知り合いなんですか?」
「一年とちょっと前まで猟友会にいた奴でな、面倒見てたことがある。
「母さん死んだし、親父はギャンブル中毒者になっちまったんだよ。貯めてたお金、親父がほとんどスッちまったんだ。そんなときに声かけられたんだよ。弟の学費払うにゃあ誘いに乗るしかなかったってわけ」
「それであたしの命を狙ったっていうの?」
「そうだ。でもしくじっちまった。あーあ、もう終わりだよ」
めいは寺島と呼ばれた青年を解放したが、この青年は抵抗したり逃げ出したりする素振りを全く見せなかった。銃がなければ立ち向かうことも逃げることもできない、と諦めたのだろう。めいと本山は軽トラックを停めている場所まで寺島を連行した。
「娘っこ、お
そう言って本山が寺島を脱がし始めたので、めいは背を向けた。何か隠し持ってないか探るためだろう。脱がされて寒いのか、寺島が奥歯をガチガチと鳴らす音が聞こえてくる。
「それにしても娘っこ、ほんとにお
めいの背後から、本山の声がした。めいは振り向くことのないまま返事をした。
「すみません。早く決着つけたくてウズウズしてたもので……」
「お
「肝に銘じます」
本山の忠告を、めいはもっともだと思った。「自分は何にでも勝てる」という驕りが、心の片隅にあったのは事実だ。めいは素直に頭を下げた。
「それにしても……逃げられちゃったヒグマどうしましょう」
「クビオリは根に持つ類のヒグマすけ、また戻ってくる」
再び服を着せた本山は、獣道の方を見ながら言った。
そのときだった。
「グワッ!」
寺島の声に、めいと本山は振り返った。見ると、寺島の右ふくらはぎに深々とクナイが突き刺さっていた。
「えっ、何!?」
めいはがくっと膝を追った寺島の後ろに、三人の太ましい男たちを見た。三人とも、そのでっぷりとした腹に似つかわしくないニンジャ装束を身に着けている。真ん中の男は真っ黄色で、両横の二人は灰色の装束を着ていた。
「ははは、その者は勝手なことをしでかした故、我らの手で
真ん中の黄色ニンジャは、大声で言い放った。八割島アクアミュージアムで戦った寡黙なニンジャと違って、よく舌が回る奴だ。
「またニンジャ!? 何でまた!?」
「ははは、礼儀として名を名乗ろう! 我らは地獄のコマンダーニンジャ部隊第五小隊、人呼んで“グリズリー小隊”!」
「ぐ、グリズリー小隊!?」
「そして全世界のニンジャ業界を震撼させた“下っ腹の佐藤”とは拙者のことよ」
得意げにそう叫ぶと、“下っ腹の佐藤”と名乗った黄色ニンジャは、ニンジャ装束からはみ出した白い下っ腹を平手で思い切り叩いてみせた。下っ腹を分厚くコーティングしている贅肉が、ぽよよんという効果音が聞こえそうなほど波打った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます