早口娘の新堀月菜

 結局、試合は延期となり、馬を返却した選手たちはそのまま解散の運びとなった。


 その一週間後、比奈に誘われためいはファミレスのテーブルでメニューを眺めていた。比奈の隣には新堀月菜も座っている。

 比奈の従妹というだけあって、彼女もまたこざっぱりとした美人であった。現在高校二年生だそうだが、年齢よりも大人びた雰囲気をもっている。比奈だけならいいが、キラキラ美人が目の前にそろって座っていると、めいとしては少々落ち着かなくなる。


「 酒呑坂めいさんですよね!?」


 月菜は鼻息を荒くして、握手を求めてきた。こういうテンションの高い相手を、めいは苦手としている。渋々差し出しためいの右手をがしっと握った月菜は、強く握って上下に勢いよく振った。騎射競技選手というイメージからか凛々しい印象をもっていたが、素の彼女は無邪気で子どもじみているのかもしれない。


「デスワームに立ち向かって倒したのすごかったです! ええと……酔滅ジャイアントスイング! でしたっけ」

「あー……それはちょっと触れないでほしいかな……」


 顔から火が出そうだった。いつも技の名前は、その場のノリで適当に叫んでいるだけなのだ。

 

「わたし、戦う女の人が昔から大好きなんですよ! 騎射競技初めたのも巴御前とか板額はんがく御前とか、そういう女性の武人に憧れたからですし……」

「え、半額ゴゼン? お値段五〇パーセントオフ的な?」

「板額御前は源平合戦時代の女性武将でしてね、平家方についた越後のじょう氏の娘なんですけどこの人が本当に強くって! 鳥坂城とっさかじょうに攻め寄せる鎌倉幕府軍を相手に百発百中の矢で……」

「ちょっと月菜、めいちゃん困ってるから、その辺にしておきなよ」


 興奮のあまり早口でまくし立てる月菜を遮ったのは、ほかならぬ渡辺比奈であった。月菜は「あっ、ごめんなさい……」といって、気まずそうに引っ込んだ。


「めいちゃん。今日も本当にありがとう……今日は私のおごりだから、好きに頼んで」

「今日“も”!? もしかして今日みたいなこと、他にもあったんですか!?」


 比奈の一言が、ひとたび引っ込んだ月菜を再び発奮させてしまったようだ。比奈は両掌を合わせて、ばつが悪そうに小声で「ごめん」とめいに謝った。

 

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