一本百万円の高級ワイン。その真相

 その一週間後、再びめいの住まいで二人は宅飲みをしていた。


「めいちゃん、この間大変だったみたいだけど……体は大丈夫? 怪我とかしてない?」

「いやはや大丈夫大丈夫! この通り健康体そのものっすよ比奈さん」


 めいはわざとらしく、右腕をまくって見せた。その白い腕には、確かに傷一つない。


「さて、渡辺大権現さま。お待ちかねのこちらをご開栓しましょうぞ」


 そう言って、めいはテーブルの上に置いてあるワインボトルを手に取った。それはまさしく、あのパーティの参加者に配られていた「ロマネ・ルカン」であった。めいはこの間、パーティ会場で同じものを飲んだが、何しろあのときは戦闘中で、じっくり味わうことができなかった。今度こそ、高級ワインを楽しむことができる。


「あっそうだ、そろそろ江戸殿えどどのの四人が始まるんだった。見てもいい?」

「江戸殿の四人って大河ドラマだっけ? ひなちゃん見てるんだ」

「これが意外と面白くてね……」


 比奈はバッグからタブレットを取り出した。めい宅にはテレビがないため、比奈がドラマを見るにはこうする必要がある。

 動画配信サービスのアプリを開こうとした比奈であったが、ネットニュースの通知がその目にとまった。


「……え?」

「ん? ひなちゃんどうした?」

「ロマネ・ルカンの偽物を輸入してた業者が逮捕だって。もしかしてこの業者……」


 比奈はニュースを表示したタブレットの画面を見せてきた。逮捕された社長の名前は「八重三郎」だった。めいも比奈も、その名前には見覚えがある。


「確か招待状の送り主って……この……」

「めいちゃんもしかして……私たちが開けてるワインも……」

「あ……」

「やっぱりおかしかったんだよ。一本百万円のワインくれるなんて」


 比奈の言う通りだ。一本百万円の高級ワイン……そんなものがおいそれと手に入るはずもない。


「ロマネ・ルカン……百万円……最高級ブルゴーニュワイン……」


 めいはぶつぶつ独り言を言いながら、グラスを傾けた。おそらく偽物であろうロマネ・ルカンの味は、スーパーで売ってる赤ワインとそう変わらないものにしか感じられなかった。

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