三種の酒のスーパーパワー
戦場と化したパーティ会場。招待客は恐れをなして全員逃げ出した。比奈もめいの意を汲んで、ホテルの外に出ていた。
「よくも高級ワインを……」
体勢を崩されていなければ、投げられたボトルをキャッチできたかもしれない。そうすれば一本百万の高級ワインは決して無駄にならなかった。無駄になった高級ワインが、めいの心に怒りの炎を灯らせた。
「がるるぁ!」
「許さない!」
再び襲いくるケダモノ女。めいは怒りに任せて、許されざる敵に拳を振るった。単調で力任せな攻撃だが、それがよかったらしい。ケダモノ女は左肩に拳を受け、その体をよろめかせた。
「やっぱ酒が足りない……かくなる上は!」
己の力不足を悟っためいは、開栓されているボトルを発見した。急いでボトルを取ると、そのままラッパ飲みした。一本百万の高級ワインとはいえ、じっくり味わえるような状況ではない。
「こ……これは……今までにないぐらい力がみなぎってくる! 追い酒パワー全開!」
高級ワインを飲み干しためいの体内で、不思議なことが起こった。昨日飲んだ虎鮫にスキットル内の安酒、そして今飲んだロマネ・ルカン。三種の酒が体内で奇跡的な反応を起こし、スーパーパワーを彼女に与えたのだ。
「酒……憎らしい! 滅べェ!」
一撃をもらった獣女であったが、闘志は折れていないようだ。腰を低くした姿勢から、一直線に突進をしかけてくる。めいは避けなかった。避けずにぎりぎりまで引きつけ、そして……
「せいっ!」
獣女の額に、めいの突きが炸裂した。獣女は後方に吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。
「お酒を嫌う気持ち、分かるよ。前の職場に嫌われ者のアルハラ上司がいたもの」
後方に倒れ込んでなお、獣女はよろより立ち上がり、めいを睨みつけてくる。なんともしぶとい相手だ。不屈の闘志とはこのことか。
「でもね……お酒には作った人たちの想いが込められてるの。そんなお酒を無駄にすることは、あたし絶対に許さない!」
「がるるるるっ!」
獣女はこりもせず向かってきたが、その足取りは明らかに鈍くなっている。闘志に体が追いついていないのだろう。
「
適当に名付けた技名を叫びながら、繰り出される旋風脚。顔面に蹴りを受けた獣女は、大きく横転した。
「はぁ……はぁ……」
あれほど戦意をむき出しにしていた獣女は、もう起き上がってこなかった。
終わった……今度こそ、戦いの終わりだった。
「あーどうしよこれ……警察に電話でもした方がいいのかな。正当防衛だとは思うけど……やりすぎちゃったからヤバいかも……お縄になったりしないよね?」
自分のスマホが入ったバッグを探そうとしたそのとき、目の前が急に煙っぽくなった。
「な、何コレ……?」
いつの間にか、パーティ会場は白い煙に覆われていた。煙に視界を覆われてしまって、何も見えない。床には皿やボトルの破片が散らばっていて、下手に動いて転んだりしたら危ない。
しばらくして、煙は晴れた。換気扇に吸い込まれたのだろう。
「いなくなってる……?」
煙が晴れたパーティ会場からは、さっきまで横になっていた獣女の姿が消えてしまっていた。まるで、最初からそこにいなかったかのように……
*****
戦場となったホテルから少し離れた道路に、一台の黒いワンボックスカーが停まっている。その後部座席で、鱶川ちひろは笑貌を浮かべながらノートパソコンの画面を眺めていた。
「ほぉう? なかなか
ノートパソコンには、めいと戮の戦闘の様子が映し出されている。会場内の防犯カメラをハッキングして、ノートパソコンで映像を見られるようにしてあるのだ。
少し前、アスクレピオス沖縄支部で飼育されていたダンクルオステウスが、沖縄支部を壊滅させた上で逃走してしまう事件が起こった。
このダンクルオステウスは化石から絶滅動物を復活させて兵器転用するプロジェクトの一環として復活させたものであった。それが逸出したとなれば大変な騒ぎになる。
組織は血眼になって行方を追いかけた……が、ダンクルオステウスを発見し回収した彼らは、何者かがダンクルオステウスを骨折させていたことを知った。結局ダンクルオステウスはその怪我がもとで衰弱し、やがて死亡した。
この事件について追ったアスクレピオスは、ある一人の人物に行きついた。それこそ他の誰でもない、酒呑坂めいである。
――酒呑坂めいとは何者だ。
組織の幹部たちの関心は、一見何の変哲もない一般人女性に向けられた。酒乱女の実力を測るべく送り込まれた刺客が、あの「アルコールへイター戮」だ。偽の招待状を送って誘い込んだ上で、あのケダモノ女を会場に突入させたのである。
「さて、
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