古代魚獣VSアルコールファイター

 めいは大きく跳び上がり、空中で一回転。そのまま脚を振り上げて、海中のダンクルオステウス目がけて降下した。


酔滅すいめつ前転かかと落とし!」


 ダンクルオステウスが頭を水面から突き出してきたのと、落下エネルギーの乗ったかかと落としがその額に命中したのは、ほぼ同時のことだった。


「っ! 硬いっ! より硬い!」


 比奈の言う通り、ダンクルオステウスの頭部はさすがの硬さだった。こちらの骨が折れるのではないかと思うほどの強烈な反動が、めいのかかとを襲ったのである。

 とはいえこの怪魚の方も、等しく衝撃を受けていたのだろう。蹴りによって押し返されたように、ダンクルオステウスの頭は海中に引っ込んだ。

 めいはそのまま、岩礁を挟んで反対側の海に没した。そこにゆっくりと、ヘルメット状の丸みを帯びた巨大な頭部が迫ってくる。海の中ではあまりにも不利だ。とはいえ一旦岩礁にあがって体勢を立て直そうにも、岩礁にあがる間が隙になる。その間に脚でも噛まれれば終わりだ。

 

 ――そこだっ!


 めいは逃げなかった。逃げるどころか、ダンクルオステウスに向かって泳ぎ出したのだ。巨躯の捕食者は、待ち構えるように大きな口を開けた。めいはバタ足で水を蹴り、口を裂けるように右へ逸れた。

 ダンクルオステウスとすれ違う形になっためい。獲物を逃すまいと、巨大魚はゆっくりと体をくねらせて方向転換した。そのとき、めいは敵に急接近した。そして……尾びれの付け根を、むんずと抱えた。

 常人ではありえないパワーを、めいの腕は発揮した。めいはそのまま水中で、八メートルはありそうな巨体をジャイアントスイングしたのである。巨体がぐるぐるとぶん回され、めいを中心に渦巻きができあがった。

 めいはその巨体を、岩礁の下部に思い切り叩きつけた。脇腹が岩礁にぶつかり、体がくの字に折れ曲がったダンクルオステウスを見届けためいは、そのまま海面へとあがっていった。


「ぷはっ!」

「めいちゃん大丈夫!?」

「うん、こっちは何とかね」


 海面から顔を突き出しためいは、ぐっとサムズアップして見せた。比奈の伸ばした手をとっためいは、そのまま岩礁の上まで引っ張りあげられた。

 上から水底を覗き込んでみると、巨大魚がふらふらと何処かへ泳いでいくのが見えた。軟骨しか通っていない胴体を打ちつけられたのだ。この弱った様子を見る限り、内部へのダメージは決して小さくないのだろう。


「ダンクルオステウス……何でこんなところに出たんだろうね。今の地球上にいるはずないのに……」

「それよりあたしはホテルに戻って飲みたい……」

「えっまた飲むの?」

「酒は必須栄養素だから……」

「もう、めいちゃんったら」


 その後二人は無事に、岩礁から砂浜まで泳いで渡ったのであった。

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