酒呑坂めいVSアルコールヘイター戮 秘密結社の刺客は剽悍無比な暴れん坊
秘密結社アスクレピオス
「秘密結社アスクレピオス」
この組織が出来上がったのは第二次大戦直後のことである。敗戦国の科学者たちが立ち上げた地下組織であったが、米英ソのような戦勝国で冷や飯食いとなったマッドサイエンティストたちも合流し、世界規模の地下組織とへと成長を遂げた。今でも学会での地位を失った危険な科学者たちが集っており、独裁国家やテロ組織、反社、カルト教団などを顧客に黒いビジネスを行っている。
相模湾をのぞむ神奈川県藤沢市に、企業所有の小さな研究施設が建っている。この研究施設こそ、「アスクレピオス」の藤沢支部であった。敷地の外縁にはぐるりと、まるで世間から中を隠すかのように木々が植えられている。
藤沢支部の地下の廊下を、黒のメンズスーツ姿の女が歩いている。彼女の名は
やがてちひろは、檻の前で立ち止まった。冷たい鉄格子の中では、目隠しをされた上で猿轡を噛まされ、チェーン付きの枷で手足を拘束された白Tシャツの女が床にへたり込んでいた。
「ヴーッ!ヴーッ ! ヴーッ!」
鉄格子の中の女は、人の姿を見るや否や獣のようなうめき声をあげた。檻の鍵をもつ部下は、その様子を見て顔をしかめた。
「ほっ、本当に解放するんですか?」
「うちのジジイがそう言ったんだよ。さっさと鍵開けろ」
ちひろは低い声で命じた。彼女のルビーのような赤い瞳に射すくめられた部下はひゅっと怯え顔になり、おずおずと鍵を鍵穴に差し込んだ。
「足も開けてやれ」
「えっ……大丈夫なんですか……? この
「いいか、利用価値のあるものってのはな、大体危ねェモンだって相場が決まってんだよ。分かってねェなぁ……ほら、さっさと」
「は、はいっ!」
檻の中に三人が入り、二人がそれぞれ腕と脚を押さえつけながら、一人が足枷を開錠してゆく。枷を外し、足が自由となったそのときであった。
「ヴーッ!」
墨付と呼ばれた女は、いきなり鍵をもった部下に頭突きを食らわせた。そして信じられないことに、この女は力任せに手枷の鎖を引きちぎったのだ。人間とは思えない力だ。
「ヴーッ! ヴッ!」
自由の身になった墨付は、鍵をもっている部下を石の壁際に追い詰めた。そして両腕で首をつかみ、ぎりぎりと絞めあげた。
「かっ……はっ……」
「だ、だめ! こいつ全然離れない!」
二人の部下が必死に引きはがそうとするが、墨付の力は相当強く、びくともしない。このままでは、仲間が死んでしまう。
……と、そのとき、背後からの手刀が墨付の首を打った。その一撃が効いたのだろう、墨付は気を失って床に倒れた。
手刀を打ち込んだのは、ちひろだった。
「テメェ、あれほど言ったのに酒飲んだな?」
「い、いえ、最後の飲酒は二日前です」
墨付の首絞めから解放された部下は、今度はちひろに胸ぐらをつかまれた。雄々しき女ボスに凄まれ、部下は冷や汗をかきながら首を横に振った。
そのため、檻を開ける部下たちには禁酒が厳命されていた。のだが……この部下はすっかり油断していたのか、それともアルコールヘイターの能力を侮っていたのか……
「ははっ、オレがいて助かったな。でなけりゃお前は今頃ホトケさんだったぜ?」
ちひろはもう済んだとばかりに部下を突き放した。部下は冷や汗をかきつつも、その頬はほんのり朱色に染まっていた。
「酒呑坂めい……ダンクルオステウスを打ち負かした最強無双の女……」
昏倒した墨付戮は、三人の部下たちによって担架に乗せられ運ばれていく。その様子を眺めながら、ちひろは不敵な笑みを浮かべた。
「この「アルコールヘイター戮」とどう戦うか……ひとまず見せてもらおうじゃねェか」
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