【KAC202210】クロノス様、ご乱心【真夜中】
なみかわ
クロノス様、ご乱心
〔はあ……〕
女神のため息、とすれば甘美なものかもしれないが。
〔串カツ、食ってみたい……〕
〔クロノスよ、欲望が小さすぎないか?〕
宇宙を統べる神デウスは、銀河系にある些末な惑星のさらに些末な生命体のもっと些末な文化文明に触れたいとつぶやく
もっとも膨大な宇宙空間や次元の狭間をカバーするように存在する巨大な思念体の神や精霊なのでため息という概念も無いが……実在したらしたでその息は凄まじい嵐となり国一つ滅ぼせる。
〔てなわけで近々ワヘイに聞いてみようと思うのよね、人類の好きな串カツってどんなものか〕
〔人類ではなく局所的では……というか、遊ぶのもほどほどになさい……〕
俺は海瀬
土曜日の夜、俺は久しぶりに大阪に遊びに来ていた。しかしそれは表の理由、本当は異界『アナザー・ヘイブン』から現れる魔物の手下をせん滅するために電車のつり革を握っている……あちょっと待って、ブラウザバックダメゼッタイ! 非常ボタンとかも押さないで!!
『アナザー・ヘイブン』の奴ら、普段は学校に現れるのに、今度は微妙なところを突いてきやがった。さらに俺のスマホに、
〔真夜中に1ビルのそばで待つ〕
とかSMSを入れてきやがった……真夜中っていつやねん、あと君ら異界生命体がなんで1ビルとか略称使うねんとかツッコミもやまやまに、とりあえずヨドバシに寄ってから1ビルの居酒屋にでも行ってオーダーストップになったら適当に探せばいいのかなと思っていた。もしも間に合わなかったら少々手荒だがその場で
電車がトンネルに入り、俺の顔が窓ガラスに映る。あれ、俺156センチなのに、なんか顔が高い位置にあるよな……?
「ぶほっ」
それは顔じゃなく、異界の門だった。空間をカッターで切ったように縦に割いて、紫の光がちらついている。
(お前ら、1ビル言うてたやんか?!)
俺は慌てていつもの詠唱を開始する。はたから見れば窓ガラスに映る自分の顔を見つめながらぶつぶつ言っているあやしいやつではあるが……。
<アナザーヘイブン>
〔ハチワレ参謀、いくら何でもおかしいですよ! さっきも、かっこよさそうだからって理由で『真夜中』で時間指定しろって言っておきながら、何時くらいがいい? とかあいつに聞くの絶対におかしいです!〕
〔まあ、そうなんじゃが……シャム=サバトラ閣下からのご命令じゃからのう……あと、閣下は戦いの前に宝くじをお買い求めになりたいとのことじゃが、キジトラ、お前どこで買えるか知ってるか?〕
〔知るわけないでしょ?!〕
<現代>
俺の意識はまず詠唱直前に世界の時を司る精霊、クロノスとコンタクトし、世界の時間を止める。ここで世界は『静止』する。その次に俺の
〔待ってました!!!!〕
〔ぐおっ〕
意識をクロノスに接続したとたん、歓喜の声がのしかかってきて俺はのけぞる。みんな、つり革はしっかり持っておきましょうね!
〔ワヘイ、串カツ食べたいんだけど〕
〔俺はカズヒラです! それとこの時になんですか?!〕
〔ちゃっちゃと叩いておしまい〕
訳が分からないがとにかく現実の時間が止まっている間に、俺はシュッとスキル・
〔うぼあー!〕
〔これでは宝くじ売り場の場所がわからぬままじゃ! 閣下に怒られる!〕
〔よくわからんが宝くじなら4ビルの特設売り場に行けーー!!〕
--能力を使うと、魔物や異界の奴らとの接点も発生するため、謎の会話や思念が俺の脳にこだましてくる。秒で返したが……。俺は用事が終わったから時間を再稼働させようとしたが、
〔ワヘイ、串カツ食べたいんだけど〕
(あ・ほ・か!!)
私は佐藤
土曜日の夜。家にいても落ち着かなくて、ふと大阪の街に出た。普段なら親友の田中
さみしいな。……その気持ちは、単純に親友と会えないそれ、というレベルではなかった。もしもこのまま会えなくなったならば……全身がじわりと熱くなり、涙が出る。……私は、美桜が好きだった。
気を紛らわせるかのように無駄遣いして、ユニクロやらダイソーやらの袋を両手に抱えて、それでも虚しさをおぼえながら、地下街を歩き戻っていた。このまま家に帰っても、さみしいままだけど……家族同伴を除いて23時までに帰宅するという校則違反を誰かに見つかってしまうと学校に行けなくなってしまう--美桜に会える時間が減ってしまう。
この夜我慢して、日曜日我慢すれば……と考えていたら、視界のむこう、たくさんの通行人の中に、見たことのある人がいた。その青年は……スーツなら担任のワヘイこと、海瀬和平に似ていた。全部ユニクロに売ってる服っぽいな……いや、あれ本物じゃ……!
まずい、見つかったら、と慌てて近くの店に飛び込んで、先生が通り過ぎるのを待った。ところが……。
「ワヘイー、早く~連れて行って~」
「ちょっ、こんなところで変な声出さないでくださいよ!!」
同伴者の女性といちゃつきながら(少なくとも私にはそう見えた)、私にはまったく気づかず、北新地の方に消えていく……!
(ワヘイ……あっちの出口は……大人しか行けないムフフな場所がいっぱいあるところじゃないの?……きゃああ……!!)
ロングヘアーで前髪をがっちがちに固め、肩パットの入ったピンクのスーツ、赤のハイヒール……の完全に202x年から見ると時代遅れの格好をした女性は、はしゃぎながら俺の腕をとってぎゅっと胸に寄せる。一体この精霊は何を参考にして日本人に変身しているのか小一時間問い詰めたいところであるが、ハイヒールを選択した事は許されない。身長158cmの俺にとって、ハイヒールとかシークレットシューズの類は忌むべき存在だからだ。
「とりあえず真夜中ってのが何時かわかんないですから、あいつらをいつも通り片づけてからでいいですか? それと串カツ食うなら
「ちっ」
今「ちっ」って言った?
「だったら~ワヘイ今すぐ時間をいじって
「そういうやり方ありなんですか?! あとそのしゃべり方どこでラーニングしたんですか?!」
<アナザーヘイブン>
〔閣下、地球の検索サイトにアタックできました。真夜中というのはだいたい夜の真ん中のことらしいです。そろそろ出撃してよろしいでしょうか……?〕
〔キジトラ、閣下を刺激するな。閣下は宝くじが買えなかったのでふて寝しておる。今日の出撃は中止じゃ〕
〔ハチワレ参謀……〕
<現代>
たぶん叶わない恋を抱えて帰路の電車に揺られる少女。
やがて来る異界からの魔物を打ち砕くため、約束の場所に向かう青年。
人の世で刹那の快楽を求めようとする時の精霊。
さまざまな想いが交錯し、--この国は真夜中へと動き始める。
神々が集い、様々な、そしてすべての世界を統べるこの空間には、昼夜という概念が無い。
〔はあ……〕
女神のため息、とすれば甘美なものかもしれないが。
〔思ったより美味しくなかったな……〕
〔クロノスよ、貸した本は役立ったかな?〕
〔
【KAC202210】クロノス様、ご乱心【真夜中】 なみかわ @mediakisslab
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