第6話新ビジネス

「やあ、久しぶり」

「どうしていたんですか?」

帰り際の一文字は内村を見て立ち止まった。

「内村社長でいらっしゃいますか?」

「そうだよ」

「私、一文字大介と申します。

どうかお見知りおきを」

一文字は名刺を両手に持って差し出した。


「ああ、よろしく」

一文字は深々と頭を下げた

「一葉学園の理事長さんですか?」

内村は名刺を見て聞いた

「はい」

「いや、こちらこそよろしく。

うちにも卒業生がたくさん来て

もらっているよ、とても優秀だ」

「ありがとうございます」


内村は丁寧に一文字に名刺を渡し美也子に

案内されて奥の席に座った


「社長、さっき亮がここへ来たわよ」

「おお、亮君が」

「はい」

「やっとやる気になったな」

「そうなんです」

「あいつ今度は何をやる気だ?」


「明日、亮と一緒に新宿へ行く事になっているの」

「ん?」

「紹介したい人がいるんだって」

「ひょっとしたら、飯田さんか?」

「社長知っているんですか?」

「あはは、もちろんだうちの会社の株主だ」

「歌舞伎町のドンって本当ですか?」


「ああ、そうだよ。歌舞伎町や銀座や渋谷に

何十ヶ所もビルを持っている、大金持ちだ」

「すごい」

「ところで何のようだ」

「それは秘密です、うふふ」

「話が進んだら教えてくれ」

「はい」

「ところで、ママと亮君の仲はどうだい?」

「いつもの感じですけど」


「もし、ママと亮君がくっついたら大変な事になるぞ」

「大変な事って?」

美也子は驚いて聞いた

「いや、絵里子ママが亮のバックについたら、あいつは

日本のトップになる」

「はい?だってママの彼って黒崎さんでしょ」

美也子は小さな声で言った

「そうだだった」

「じゃあ、今は関係が無いでしょう」


「それがあるんだ」

「どうして?」

「この先は秘密だ」

「あん、教えて」

美也子が内村の手を握った

「じゃあ少しだけな」

「はい」

「黒崎さんはとても厳しい人で何かあると、

部下や取引先をすぐに切ってしまう」


「はい」

「今の関西経済界の連中は困って絵里子ママに

お願いして黒崎さんに取り持ってもらったんだ」

「はい」

「それで彼らはママに恩義を感じている」

「そうなんですか」

「もし、ママが亮君を気に入って

関西経済界の連中に協力を頼んだら」


「そうですね」

「うん」

「素敵だわ、亮」

「まあな、やつがその気になれば」

「私その気にさせます」

「あはは、頼むよ」

一文字大介は親しげに会話をする

内村と美也子をじっと見て帰った。


~~~~~~

翌日、1時に亮が新宿東口の改札で待っていると

黒いタイトスカートのスーツを着た美也子が出てきた

「ご苦労様です、美也子さん」

「昨日あの後内村社長が来たわよ。

たまには連絡しなさいよ」

「そうですね。そうします」

二人は歌舞伎町の東宝脇のビルの5階の飯田を訪ねた。


「こんにちは」

亮は事務所のドアをノックして開けると

窓際の椅子に座って飯田が待っていた

「おお、よくきたな」

飯田はうれしそうに笑った

「はじめまして、塚田美智子です」

「ほほう、美人だな」

「ありがとうございます」

美也子は頭を下げた


「塚田さんお仕事は?」

「銀座でホステスをしながらモデルのは

いジェントをしています」

「で、銀座の店の名は?」

「はい、クラブ蝶です」

「おお、絵里子さんのところか」

「はい、ご存知ですか」

「ああ、この世界で黒崎さんを知らん人はおらんよ」


「そうなんですか?」

「ああ、すごい人だった」

飯田は思い出を噛締めるように言った

「飯田さん、早速ですが仕事の件を話しましょう」

亮は飯田を催促した。

「ああ、そうだな」

「はい」

そう言って美也子は計画書を飯田に渡した


「ほお、スナックのチェーンか」

「はい、ママが引退して廃業したいスナック

にママを派遣するシステムです」

「人材はいるのかな?」

「はい銀座OBのネットワークで」

「新宿にはその候補が30軒、銀座には20軒

渋谷、池袋にもくらいあるぞ」


「はい、後はその店のオーナーさんとの話会いで

進めて行きたいと思います」

「亮はどうだ?」

「はい、チェーン化して同一料金で公明性をはかり、

しかもお酒等の大量仕入れで利益率を

アップできると思います」


「なるほど、面白い」

「ありがとうございます」

「運営会社を作り飯田さんの利益を確保します」

亮は飯田の顔を見た

「うんとりあえず新宿で5軒、銀座5軒をやろう」

「はい、ではオーナーさんを紹介していただけますか」

美也子が飯田に言った


「ああいいよ」

「ありがとうございます」

「亮、私が新会社の資金と運営資金の貸付もするぞ」

「ありがとうございます」

「とりあえず10億出す」

「はい、そんなにいりませんよ」


「いや、内装費で1店舗あたり1千万円で1億、

仕入れ物流の運営費で1億かかるぞ」

「はい」

「それとその資金でキャバクラをやってくれ亮」

「は?」

亮は飯田の突然の言葉に唖然とした


「もうやるんですか?」

「ああ、やってもらう」

「わかりました」

亮が答えると美也子が首を振った。

「キャバクラじゃ私は関係ないわね」

「そうですね、年齢が・・・」

「そうよ、年齢よ」

美也子が怒ったふりをした


「あはは、亮場所は六本木か

新宿か渋谷か。どこがいい?」

「では、新宿で」

「よし、私の歌舞伎町のビルにもうすぐ空く

キャバクラ向きの物件がある、そこに入れ」

「はい」

「塚田さんのスナックの方は直営で運営してください」

飯田は丁寧に話した

「新店舗ですか?」

亮が聞くと飯田は亮に頼んだ


「うん、スナックチェーンの

フラッグシップショップにするんだから、

できるだけいい物を作ってもらいたい」

「はい、なるほど10億円の使い方わかってきました」

「塚田さん、これが私の金儲けの方法だよ」

「えっ?」

美也子は首を傾げて亮の顔を見た


「私は仕事ができる人だけに投資するんだよ」

今度は飯田が亮の顔を見ると亮はどう返事をしていいか

分からずしばらく無言が続いた

「飯田さん、キャバクラをやるのならホステスに対して

マテリアの新宿店オープンを告知するか

ジュディに提案してみます」

「そうだな、それはいい」

「はい、もう1つ相談があるんですが」

「なんだ」

飯田は満面の笑みを浮かべ亮の顔を見つめた


「その、マテリア件で・・・」

「ん?」

「実はマテリアの名古屋店が苦戦しているんです」

「名古屋か?」

「はい」

「あはは」

飯田は急に笑い始めた


「どうしたんですか?急に」

亮は飯田の顔を見て聞いた

「それなら、力になれるかもしれないぞ」

「本当ですか?」

「うん」

飯田がうなずいた


「はい、早急にジュディと一緒に来ます」

「ああ、いいよ。亮お前が一人来れば」

「あ、そうですか」

「うん」

飯田はタバコに火を点けた。


それを見た美也子が亮に合図をすると

亮と美也子が立ち上がった

「ではそろそろ」

「うん、じゃあまたな」

「はい、失礼します」

「そうだ、塚田さん」

「はい」

「10店舗は私の店だからオーナー

との打ち合わせ終わっているからな」

「えっ?」

亮が聞き直すと飯田が言った。

「亮、明日お前の謄本と印鑑証明もってこい」

「は?」

「会社を作るのさ」

「僕がかかわるんですか?」

「当たり前だがね、私が金を出すんだ

それなりの責任を取ってもらう」

「は、はい」


亮が返事をすると飯田はニヤリと笑った。

「それから亮私と名古屋に行って貰うからな」

「はい、了解です」

亮は名古屋名物料理

ひつまぶしを食べられると思ってニコニコ笑った

亮と美也子の二人が外に出ると美也子が言った。


「ああ、飯田さん亮にほれている」

「そ、そんな馬鹿な」

「亮、女の気持ちわかっていないなあ」

「だって飯田さん、もういいお年だし」

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