私と私A

@mia

第1話

 私は真夜中が怖い。

 空腹な私が私から出て行ってしまうから。

 最初は夢だと思っていた。

『なんかお腹すいたな』と真夜中に起き上がったのは、空腹な私で私はベッドで寝たままだった。

 空腹な私が――長いので私Aと呼ぶ――家から出て近所を歩き回り戻ってくるという、やたらとリアルな夢だと。

 でも、前日に私が見たときには路駐してなかったのに、私Aが出掛けたときには止まっていて、翌朝に私が見たときには私Aが見たのと同じだったということがあった。

 似たようなことが何回かあって、夢ではないと思うようになった。(私は私Aの視覚だけ共有しているようだった。歩く方向を変えたりとかはできなかった。)

 私が夢ではないと思うようになってから、私Aの移動範囲が広がり、奇妙な行動をするようになった。

 それまでと同じように近所を歩いていたのに、いつの間にか車で三時間かかる従姉の家の近くを歩いていた。

 それだけではない。

 私Aは会社帰りと思われる男性に正面から近寄って相手を立ち止まらせ、自分の手の平を相手の胸の前にかざすように出す。

 相手も驚いているし、私も驚いている。

 驚いていないのは私Aだけだろう。

 

 翌朝、洗面所で見た私の顔は疲れていた。

 残業が続いた月でもこんなに疲れた顔ではなかった。

 困る、いくら相手に触れていなくても迷惑行為だよ、あれは。

 困るのは私だけで、私Aは迷惑行為を繰り返していた。

 私Aは相手が驚こうが怯えようが困ろうが怖がろうが気にしていなかった。

 何の意味があるのか分からない行為だったが、ある相手の胸からモヤみたいのが出て手の平に吸い込まれているのが見えたときに、相手のエネルギー?みたいなものを吸い取っているのではないかと思い当たった。

 そのうち真夜中の迷惑行為常習者で捕まるのではないかと思うと怖い。

 会社ではそこまで仕事が忙しくないのに疲れている私を心配している。


 私Aは迷惑行為を続けていたが、数年たっても幸か不幸か私は捕まっていない。

 

 私は真夜中が怖い。

 私Aの存在のせいでも、私Aの迷惑行為のせいでのない。

 私は私Aの迷惑行為で怯えたり怖がったりする相手を見て楽しむようになった自分が怖い。

 


 


 


 

 

 

 

 







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私と私A @mia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ