第181話 ジョニーとスプリガン

「バンシー!」

「はいっ!」


 バンシーの魔力による攻撃は、スプリガンを巻き込み破壊しようと襲いかかる。

 しかし、その攻撃を受ける瞬間に巨石のように見上げる高さへと体を変化させたスプリガン。攻撃はあっさりと受け止められて、俺に向かって手を振り落ろす。


「くっ……アガシオン!」

「は、い!」


 盾を構えて受け止める。

 しかし、スプリガンの触れた場所から盾は腐り始めて破壊されていく。慌ててアガシオンは俺を抱えて飛び退く。


「く、呪い、ですか……!」

「助かった! しかし、スプリガンか」


 スプリガン。モンスターとしての情報は知っているが……かなり珍しい存在であり、見た目は醜い妖精と言うよりもゴブリンなど近いと言われていたはずだ。しかし、目の前に居るスプリガンは継ぎ接ぎだらけのアンデッドのような歪な見た目をしている。その顔は、普通の妖精に見えるように無理矢理形を整えているようだ。

 己の体を自由自在に大きさを変える事が出来る能力を持っている。魔力によって作られた体は非常に特殊であり、物理的な攻撃の効果が薄く体のサイズを巨大化させたスプリガンを倒すのは至難といわれている。


(……そして、ただ振り下ろしただけの攻撃だったのにアガシオンが持っていた盾が崩壊して消えた。アガシオンが呪いと言ったのが真実だとすれば……あの体は、呪いで構成されているんじゃないか? 恐らく、普通ののスプリガンではなくて、リンみたいな【守護】のような名前持ちか?)


 妖精が、想いや意思によって性質を変化させてしまうような生物である前提を考えれば、あの継ぎ接ぎの体は無理矢理呪いを固めた可能性がある。

 しかし……自身の体のサイズを自由に変える力を持ち、その体の仕組みから一撃でも食らってしまえば強制的な呪いを受けることになる。なるほど、なんとも性格が滲み出ているような意地の悪い能力の組み合わせだ。

 サイズを小さくして不意打ちをすることも出来れば、無理矢理サイズ差を活かして攻撃を加えることで押しつけることも可能ということか。


「性格が悪いが……まあなんとかなるか! バンシー! 音で壁を作れるか!?」

「は、はい! 出来ます!」

「なら、アガシオンを守るように音の壁を頼む! 攻撃は大丈夫だ!」

「――全力で守ります!」


 祭壇のように作られたこの空間において、スプリガンは一つの欠点を抱えている。

 それは奴の体のサイズの変化をする能力が制限されていることだ。


(このティータを儀式に使っている部屋には天井の限界がある。いや、それ以前に巻き込んではいけない存在が居る時点で無制限なサイズの変更をすることは難しいはずだ。つまり、今現在の俺の3倍ほどの身長が限界値だとすれば、バンシーには攻撃よりも呪いを防ぐ意味で壁に徹して貰う方が良い)


 スプリガンは腕をこちらに振り下ろす。その瞬間に、バンシーの声が壁となって弾き飛ばした。

 ……その瞬間に、魔力の壁が真っ黒になってグズグズになり崩壊した。呪いのせいなのだろうが、あんなのを体で受けたら俺がヘドロにクラスチェンジをしてしまうかも知れない。

 腕を音の壁によって弾かれたスプリガンは、そのままバランスを崩して後ろに倒れていく。急な体のサイズを変化させたことで、バランス感覚が伴っていないのかもしれない。


「んぐっ、けほっ!?」

「バンシー!?」

「だ、大丈夫……です!」


 攻撃を防いだバンシーだが、咳き込み顔を青くしている。

 魔力を消耗したという感じでは無い……もしかすれば、魔力の持ち主に呪いの影響を与えている可能性はある。


(……そうだとすれば、バンシーに何度も壁を頼むのはマズいか)


 スプリガンを打ち倒さなければ、ティータを助ける事は出来ない。

 そのために必要な手を考えていく中で間違いなくバンシーの壁は必要な瞬間がやってくるはずだ。


「アガシオン! 何か攻撃手段はあるか!?」

「攻撃、手段と、言うと?」


 その質問に、俺の推察を掻い摘まんで伝える。


「恐らく、あの体は呪いで出来てる! 呪いに有効な攻撃手段があれば、それでなんとかなるはずだ!」

「……は、い。なら、あり、ます。あれに、使える、手が」

「それが、スプリガンに有効か試せるか!」

「やって、みます」


 そして、俺と別れて立ち上がるスプリガンへと向かっていくアガシオン。

 その手に持っているのは、光り輝く旗だ。


「『光輝の旗』……!」


 それは一見すると武器にすら見えない。ただの輝いている旗だ。

 しかし、スプリガンはそれを見ると継ぎ接ぎだらけの顔を歪めて、嫌うかのように手でアガシオンを払いのけようとする。


「……っ!」


 飛び上がって回避する……少しバランスを崩して倒れそうになったが、旗を杖にして持ち直した。

 運動能力は、進化したことで大きく向上したようだがまだ振り回されているように見える。


「くら、えっ……!」


 そして『光輝の旗』と呼ばれたそれをスプリガンの指に突き立てる。

 瞬間、スプリガンの指が爆発したかのように弾け飛んで消滅した。


「……おお!」

「これは、解呪の、旗です。ただ、消耗品で……」


 見れば、旗の先から燃え始めている。

 呪いを解呪するが、それは回数限定。とはいえ、スプリガンのような正体不明の呪いすら解呪すると考えれば相当な貴重品なのだろう。

 ……なんとなく、アガシオンから本気で悲しそうな空気を感じる。まあ、しかし仕方ないと考えて貰おう。


(……手札は揃った。だが、チャンスは多くない)


 バンシーの壁は奴のバランスを崩すことに対して有用だ。しかし、呪いが浸食すればバンシー自体が危険になる。

 アガシオンの旗は、呪いで作られているであろうスプリガンを倒すコトが出来る武器ではある。しかし、それは消耗品であり、今も燃え続けて旗は壊れようとしている。


(……まだ、情報も足りない)


 あくまでも解呪はスプリガンに有効だったが、旗自体は壊される可能性がある。

 それに、解呪をしたとしても致命的なダメージを与えなければスプリガンは俺達を妨害し続けるだろう。

 だが、それでもやるしかないのだ。


「……いや、そうだ」


 だが、ふと思いついた天啓のような作戦。

 ――闇雲にやるよりは、試す方がいい。


「アガシオン、バンシー! 今から指示を出す! 全力で、こなしてくれ!」

「分かりました!」

「は、い」


 ――さあ、どうなるかは分からない。

 一か八かの作戦を始めよう。

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