第174話 ジョニー達は奪還する
『……ふむ?』
戻ってくると確信していたのであろう、リンはラトゥを見張りながら周囲を警戒していた。
そんな彼女の目の前にやってきたのは……一匹の精霊だった。
『止まりなさい。今はここは立ち入り禁止です。例え小さき同胞であろうとも、容赦はしませんよ』
しかし、その妖精は何も喋らずにそのまま突撃してくる。
違和感を感じたリンの行動は早かった。
『警告はしました』
その言葉と共に、リンは手に持っていた槍を振るう。
真っ直ぐに伸びた斬撃を食らった妖精は真っ二つになる。処分したことを確認して視線を切り、魔力を感じて振り向くとそこには健在な妖精が居た。
『――回避された? ですが、当たって――』
真っ二つにした手応えが合ったというのに健在だった妖精に様々な可能性を考慮する。
しかし、その思考が結論に向かう前に、そのまま妖精は上空へと向かって飛び上がっていった事で打ち切られる。
『……まさか!』
それは、妖精郷における最も価値のあるものであり、大切な者。
リンという妖精は『守護』を存在意義として定められている。だからこそ、この妖精郷に対する脅威に対しては無視をすることが出来ない。
『手応えがないなら――消し飛ばせば良い』
先程の攻撃で何かしらの回避をしたのなら、回避すら不可能な攻撃をしてしまえばいい。そう考えて上空に向けて爆撃のような全てを破壊する爆撃によって飛び上がった妖精に攻撃をした
魔力による爆撃を喰らった飛んでいた妖精らしきものは、消し炭のようになって落ちてくる――
『――なっ』
そうして、魔力によって落ちてきた妖精らしき物は――突如として爆発をした。
爆発したそれは辺り一面を真っ白な煙で覆い隠していく。それに合わせて、二つの影が飛び出していった。
「――さて、俺の作戦はこうだ」
煙の中を走りながら、俺は脳裏で自分の考えた作戦を思い返す。
「まず、グレムリン。魔力に反応して爆発する煙幕を作れるか?」
「アア、簡単ダ」
「シェイプシフターには、妖精を模倣して欲しい。出来るか?」
その言葉に力強く頷いたシェイプシフター。
そして、第一段階の説明をする。
「まず、魔力で爆発する煙幕をシェイプシフターに運んで貰う。妖精に模倣すれば見た瞬間に攻撃をされることはないはずだ。そのまま警告を無視して突撃をして欲しい。その爆弾を盾にして魔力による起爆をする。そうすれば、第二段階のラトゥの救出として俺とバンシーが動くわけだ。何か意見とかあるか?」
聞くと、早速声をあげたのは……協力者である妖精だった。
『それだと、失敗するわよ? だって、魔力を使った攻撃は基本的にリンはあまり使わないもの』
「……なんだって?」
魔法を使わないという言葉に目を白黒させる俺に自慢げに説明をする妖精。
『妖精郷を守る守護の妖精にとって、妖精に害意を持ってやってくる外部の生物が魔法への対策をしてるのは想定内よ。だから、基本的に妖精郷の中では守護の妖精は「魔法を使わず、魔術を打ち消す効果を持った武具」を使って攻撃してくるわ。だから、そのえんまく? っていう物を起動するにのに魔力を使うなら失敗するわよ』
「嘘だろ……? いや、そりゃそうか……敵のやってくることを想定して守ってるはずだよな……」
考え直すべきか?
とはいえ、ここから新しい方法を考えるとしても時間が掛かる。
「煙幕ヲ投ゲ込ムノハ駄目ナノカ?」
「ダメだ。あのリンって妖精は場慣れしてる。考える余裕を与えると冷静に対処されるはずだ」
逃げる俺達を追いかけてくることはなく、愚直にラトゥを守る選択肢を選んだ。つまり、ブレることはなく優先順位を間違えない。
ラトゥ達を中に連れて行く時に、杓子定規ではなく自分で考えて行動をしていた。つまり、自分で考えて柔軟に対応することが出来る
総合的に考えれば……相当に厄介な敵というわけだ。
「だから、相手に考える暇を与えず混乱させていくのが最上なんだ。だから起爆をさせるのも魔力による攻撃が良かったんだが……」
『――なら、良いことを教えてあげましょうか?』
そこで妖精が楽しそうに俺の耳に囁く。
「良いこと? ……対価って奴が必要なんだろ?」
『あら、妖精付き合いをもう覚えたの?』
「まあ、短い時間でもそりゃ分かるさ。それで、対価が何かを教えてくれるか?」
『んー……それならいいわ。だって、コレは悪戯だもの。悪戯を楽しむのが妖精ってものだもの』
……恐らくだが、俺を困らせて楽しみたかったのだろう。
だが、思った反応ではないから諦めたというのが正しそうだ。気まぐれで悪戯好きという妖精らしい言動ではある。
『妖精達にとっては、実は一番大切なものがあるの』
「一番大切なもの?」
『あれよ、妖精郷の核』
そう言って指さしたのは、妖精郷の上に輝く太陽のような球体の物質である。
『この妖精郷が成り立つのもアレのおかげ。明かりを照らし、魔力を満たして、植物たちを育てるの。妖精郷で一番大切で必要なものね』
「……そんな重要なことを教えて良いのか?」
『ええ、隠してるわけじゃ無いもの。それに、どうこうできるような物でもないし。ただ、リンは冗談でも核に関する悪戯をしようとしたらとんでもなく怒るの。だから、違うだろうと思っても核に向かったら守るしかなくなるはずよ』
……なるほど。
確かに有用な情報だ。しかし、それでも他に気になる事はある。
「でも、魔力を使わない攻撃をしてきたらダメじゃないか?」
『万が一でも核を傷つける可能性があるなら魔法を使うと思うわよ? 核は魔力を吸収するし』
「へえ、吸収するって不思議な物体だな」
『不思議よね。名前持ちでもないと詳しいことは教えてくれないのよね』
謎は多いが、それでもその情報は作戦を実行する決断の後押しになった。
「……分かった。なら、それを狙う。ただ、普通に上に向かうだけじゃ無理だろうからまずはやられたフリが必要だ。シェイプシフター、妖精に模倣をするなら頼みがあるんだが……」
首をかしげるシェイプシフターに説明したことが出来るか聞いてみると、頷いて出来ると意志を示してくれた。
そして、時間のない中で作戦を決行する準備をすぐさま進めたのだった。
――シェイプシフターの模倣。そして、妖精に手伝って貰った幻惑魔法。
グレムリンは、爆弾の形を可能な限り妖精に見えるような形にして貰った。急ごしらえだが、仕方ないと妥協して作戦は結構された。
(両断されるタイミングでシェイプシフターはわざと攻撃を食らう。まあ、死ぬほどキツいだろうが魔力で補強はしたから消滅はしない。そして、幻惑魔法で爆弾を妖精に見せかけて空に向かって魔法で飛ばす。あとでシェイプシフターには色々とお礼をしてやらないとな)
違和感を感じながらも、咄嗟に攻撃をしたリンは爆弾を起爆。
思考を遮られながら、視界を塞がれて混乱しているだろう。そして、ここでバンシーが動く。
『――アアアアアアっ!』
それは、バンシー本来の泣き声だ。
聞いているだけで悲しみを感じ、命を削られると言われるバンシーの声を聞いた妖精は精神を揺さぶられる。
妖精は精神の生き物である以上、こうした感情を揺さぶる攻撃に弱い。リンも例に漏れないはずだ。最後に体を張るのは――俺だ。
(掴んだっ!)
拘束されたラトゥに触れる。
ガシャリとした鎖の感触だが、無理矢理持ち上げる。
(さあ、あとは逃げるだけだ!)
――そして俺はラトゥを引きずり、その場から逃げ出すのだった。
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