妖精郷編
第166話 ジョニー達と傭兵達と
――さて、カミラからの提案を飲んだ俺たちはすぐさまに屋敷を出る準備を済ませる。
既にティータの命すら狙われている状況で待っている時間は足りない。そして、屋敷の外に出てブラドが声をかける。
「ラトゥ様、不在の間はこちらに関してはお任せください」
「苦労をかけるわね、ブラド。そして、リートさん達もありがとうね」
「いえ、別に構いませんよ。元々、こっちが付いてきましたからね。まあ、休暇がちょっとした仕事担ったと考えれば腕が鈍らなくて良いですよ」
ブラドとリート達は里に残る事になった。というのも、イチノさんも対応しているが里から様々な妨害や追跡がある事は予想できる。
全員が固まって動くよりも攪乱をするために指揮をする人間。そして、それに対応出来る人材が必要だと言う事になりブラド達がその役目を買って出たのだ。リート達も、馬車に乗り込める人数などを考えて里に残るという選択を選んだ。
「いやあ、騒動は予想してましたけど、命を狙われるのは久々ですねぇ」
「久々って……前にもあったんすか?」
「ええ。アレイさんには見せてませんがコレでも危ない橋を何度も渡ってきましたので」
ちなみに借金取りも俺達に付いてくることになった。イチノの雇用者である以上は身柄を狙って襲われる可能性が高いので、俺達に付いてきた方が安全であるという判断の下らしい。
俺と召喚獣、ラトゥと借金取り。そしてカミラ率いる傭兵達。そんななんとも言えないメンバーで妖精郷へと挑むことになった。ここで予定外の別行動になるリート達へ別れを告げる。
「悪いな。折角付いてきてくれたのに」
「気にしなくて良いよ。アレイは妹さんのために頑張るんだから、その手助けだよ……そうだな。全部終わったら、お酒でも奢ってよ」
「ああ、とびっきり美味いのを飲みに行こう。だから無理するなよ」
「それはこっちのセリフだよ。ちゃんと帰ってこいよ、アレイ」
そんな風にリート達に見送られ、俺達は傭兵団の乗ってきたという馬車へと移動をするのだった。
「――この地図は、エリザ様から受け取った物ですの」
里を出てから傭兵団が用意をしていた馬車に乗り込んで目的地まで移動をしている道中、カミラがその地図の経緯を説明してくれていた。
なんでも、自分たちの手柄だと言ってのけることは不義理になるからだということだ。傭兵なりのプライドなどがあるのだろう。
「エリザが……?」
「ええ、ラトゥ様。私達も別に裏切るつもりで依頼を受けたわけじゃありませんから。最初は真っ当……というには、キナ臭い依頼でしたけどもね。それでも、吸血種の里における三大名家であるラボラトリ家からの依頼なら断る理由に乏しかったですからごく真面目に依頼をこなすつもりでしたの。これが古巣であるドラク家なら別ですけどもね」
「ふふ。まずブラドなら、追放した吸血種に何かを頼んだら追放の意味がないと言いそうですわね」
苦笑しながらそういうラトゥ。
まあ、確かにそれはそうだ。わざわざ里を追放されたということは問題があったということだ。それでも、里から便宜を図るなら追放の意味がない……まあ、名目上の追放みたいな場所もあるだろうが。
「まあ、頭の固いブラドはそういいそうですね……それで、依頼を受けてからアレイさんを誘拐してから指示があるまで監禁して閉じ込めておけ……そう依頼されていましたの。アレイさん自体は、ラトゥ様が気に入っただけのただの凡夫でしかないと、わざわざ注釈を伝えて」
「……おかしいですわね。里の者には冒険者で知り合ったと伝えているはずですわ」
「ええ。当然ながら私達も依頼人を鵜呑みにするつもりはありませんから、ちゃんと調べましたわ。そして、アレイさんは冒険者として名前を上げていることもちゃんと知っていましたの。ただ、ラボラトリ家の意図を掴みきれなかったので問いただす事はしませんでしたけども私達は警戒をしてこの依頼に当たることにしましたわ」
……嘘の情報が混ぜられた依頼というのは傭兵では日常茶飯事らしい。だが、そういった意図的な嘘というのは本来はあり得ないのだという。
であれば、わざわざ俺を無力な存在であると伝えて誘拐させた理由を考え……思いつく理由。
「……もしかして、俺が逃げ出す事は依頼した奴らからすれば予定通りだったのか?」
「ええ、そうだと思いますわ。恐らく、逃げ出したアレイさんを捕まえるためにこちらでトラブルを起こしてどちらかに犠牲が出るような状況が一番好ましかったのでしょうね。禍根が生まれればお互いに止まれませんもの。そして、そんな騒動の渦中であれば幾らでも工作は出来ますわ」
なるほど。
俺が大怪我をしたりすれば、ラトゥ達からすれば婚約者を害した存在を許すわけにはいかなくなる。そして、カミラ達も俺が抵抗をして仲間を失うような事があれば敵討ちをするべきだと引っ込みが付かなくなる。
その状況になれば最善。そうでなくとも、幾らでもやりようはあるというわけか……そして、ふと疑問が湧く。
「……なあ、そこまで分かってて何で俺は脱走して戦う羽目になったんだ?」
「部下達には、殆ど事情は伏せて居ましたわ。流石にそこまで腹芸を出来る程の子はいませんし、監視の目はあったでしょうからね。とはいえ、丁重に扱って間違っても殺さないようにとは伝えていましたわよ? 調べ聞いたアレイさんの実力であれば、ちゃんと切り抜けるだろうと信頼しての結果ですわ」
「いや、そうじゃなくて」
信頼されたという言葉にも、言われてもあまり嬉しくない状況があるのかと思いながらカミラに問いただす。
「……そこまで事情を把握してカミラと戦った理由はないだろ?」
「趣味ですわ。噂に聞いた冒険者の実力なんて、味見をする機会はありませんもの」
思惑やら、裏に動いている策謀。そういった物を理解した上で俺は戦わせられたのかよ。
というか、多分途中から楽しくなって俺の事を気遣わずに本気で戦ってたんじゃないだろうか。
「まあ、それはそうと……それで、そこからどうして裏切るという話になったんですか?」
と、借金取りが気になったのか質問をする。
確かに。裏は感じ取ってもそこまで思い切る要素はないはずだ。
「そうですわね。依頼を反故にした理由はエリザ様から依頼をされたからですわ」
「……エリザの依頼というのは?」
ラトゥの質問にカミラは答える。
「妖精郷への案内と護衛。エリザ様が言うには、この機会にあの家で大暴れをしてやると意気込んでいましたわよ」
「エリザ、一体何をするつもりですの……」
ため息を吐いて頭を抱えるラトゥ。
そんなラトゥへ追い打ちをかけるようにカミラは笑みを浮かべた。
「ちなみに、ラトゥ様がいると無理をしてでも止めるので連れ出すようにという依頼も受けていますわ」
「……今から里に戻る事は――」
「当然ですけども、今から引き返すのは無理ですわ」
楽しそうにいうカミラと対照的に、胃が痛いといいたそうなラトゥ。
……何をするつもりなのだろうか。味方であるはずのエリザの所業にリート達が巻き込まれないように思わず祈ってしまう。
「――ふむ」
と、今まで沈黙していたジャバウォックが一言呟く。
「来るぞ」
その言葉と共に、馬車が轟音と共に揺れて止まるのだった。
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