第164話 ジョニーと想定外の客と
森を抜けて街の方に出てルイ達と合流をする。
心配をかけたのは、ルイだけではなくルークやヒルデも心配そうだ。ヒルデは兜で表情は見えないがそんな雰囲気をしている。
「アレイ! 怪我はないよな!?」
「ルイ、心配かけたな。一応ピンピンしてる」
心配そうな表情を浮かべているルイに、そう伝えるとホッとしたように安心する。
「いやあ、良かった。こっちが空振りだったからアレイが見つからなかったらどうするか……って思ってたんだよね」
「……というか、お前なんて格好してんだよ」
冷静になったのか、ルイにそう突っ込まれる。
というのも、俺は未だにジャバウォックに土嚢のような格好で抱えられたままだ。どこかのタイミングで降ろして貰おうかと思ったのだが、思ったよりも楽だったのでついついそのまま連れてこられたのだった。
……確かに、言われるとこの格好恥ずかしいな。
「ジャック、ありがとうな。もう大丈夫だから降ろしてくれ」
「ああ」
そう言ってポイッと本当に土嚢のように放り投げられる。
……いや、そんな雑に投げ捨てられるのかよ!? 一応は心配して抱えられていたと思っていた俺は受け身も取れずに重力に従って地面へと盛大に叩き付けられた
「いてぇ!」
「……はぁ……アレイ、もしかしなくてもバカだよな?」
「……流石にこの醜態だと否定は出来ない」
思いっきり地面に激突した痛みで呻いている俺を見て呆れたようにいうルイ。
しかし、そのおかげか全員の空気が和らいだ。緊迫した状況で、緊張が続いていたのだろう。ルイだけではなく、後ろに居たラトゥ達も苦笑しつつ緊張が解けたような表情になる。
そこまで考えて俺を投げたのか……? と思ってジャバウォックを見た。そこには、全く俺のことも周囲も気にせず何も考えてない顔をしていた。うん、そりゃそうだよな。と、痛みも消えてきたのでそんな独り相撲を切り上げて立ち上がる。
「……とはいえ、本当に悪いな。心配をかけて。俺も眠って気付かないまま浚われたからな……油断してたといわれても仕方ない」
「いや、今回は別にアレイには非はないと思うぞ。オレだって、侵入者がいたなんて気付かなかったんだからな」
「ルイも、吸血種の里に居る奴らが敵味方が分からないからって起きて警戒してたんだけどね。それでも分からないって言うんだから相当だよ」
……カミラは戦闘狂という悪癖があるものの、俺の想像を超えて優秀な吸血種だったようだ。
これだけの監視やら警戒をくぐり抜けて俺を誘拐したというだけで、下手な冒険者では太刀打ち出来ないだろう。これが暗殺依頼なんかだったら俺の命がなかったのかと考えるとぞっとする。
とはいえ、結果的に生き残ったのだ。どうあれ、それが正解だったのだろう。
「ですが、これで会談に無事に望めそうですわね。それでは――」
「お嬢様!」
と、そこに走ってきたのは……ラトゥの屋敷のメイド達の筆頭であるクロアさんだ。
その表情は、余裕のある物ではなくて険しい表情だ。
「どうしましたの? クロア、そんなに慌てて」
「その、異常事態というか……判断を仰ぎたいので、こちらへ!」
慌てるクロアに俺達は首を捻りながら付いていく。使えているラトゥに対しても、礼儀を正すような言葉を使えないような事態とはなんなのか?
「それで、クロア。異常事態というのは?」
「……客人です。それも、とんでもない」
緊迫した表情でいうクロア。既に足取りは全力で走っているのに近い。ソレを見て、時間の猶予はないと感じた俺達も慌てて付いていく。
そして、ラトゥの屋敷に入ってからクロアは迷い無く客間へと行く。そこについて中に入ると……
「あら、遅かったですわね」
「……カミラ!?」
そこで俺達が見たのは、襲撃して襲ってきたはずのカミラが優雅に座りながらお茶を飲んでいる姿だった。
来客用の椅子に腰掛けて、そこで優雅にお茶を飲んでいる。
周囲では怯えたメイド達がどうするべきか分からず見守っていた。
(……というか、ここまで毎回のように軽く潜入できるっていうのは本当に噂で聞いた暗殺者としての吸血種そのものだな)
とはいえ、本人の性質とはかみ合いが悪そうだが。
……しかし、カミラはまるで招かれた客人のようにくつろいでいる。
「やっぱり、良いお茶ですこと。傭兵をしていると、こういう嗜好品を楽しむ余裕はあまりないんですのよね。ああ、そうそう。アレイさん、先程は楽しい時間をありがとうございますわ」
楽しそうにそう語りながら、笑顔を向ける。
敵地だと感じさせないような態度に、ブラドが背後で敵意を強めて叫ぶ。
「貴様……!」
「ブラド、待ちなさい。ここは堪えて」
「……ぎっ……わかり、ました……」
ラトゥは飛びかかろうとするブラドを抑える。それをにこやかに見つめるカミラを見て、歯ぎしりをする音が聞こえてくる。なんなら、バキリと堅い物が壊れるような音すらしている。どれだけ歯を噛みしめているんだ。
……とはいえ、ブラドからしてみれば自分をコケにした相手が、更に舐めた真似をして来ているのに何も出来ない状態にされているので当然の反応か。
ラトゥは、カミラの座っているソファのに、ツメナとヒメホが目を回して倒れているのを見つける。それを見てからラトゥは険しい目を向けた。
「二人をどうしましたの?」
「ああ、怖い顔をしないで欲しいのですけども……正当防衛ですのよ? 私に襲いかかってくるから、今回は客人として出向いたので丁寧に眠らせましたの」
「……確かに、意識を失っているだけ見たいですわね」
……確かに、調度品も壊れてないし部屋も荒れてない。
目を回している二人も、確かに気絶しているが目立った外傷はないようだ。なら、言葉に嘘はない。それを見てラトゥは息を吐く。
「……カミラ、貴方は客といいましたわね?」
「ええ」
「では、その要件は?」
そのラトゥの質問に対して、カミラはにこやかに答える。
「ええ、今回の依頼主とは決裂したのでこちらに情報を売りに来ましたの」
……とんでもない事を言い出した。
傭兵だというのだ。依頼者を裏切るだの、そういった行為は御法度だ。信用が何よりだというのに。
そして、そんな裏切り者を信じる取引相手は居ない。だが、カミラはそれを分かった上で提案しているようだ。
「……その言葉を、信用出来ると思いますの?」
「別に私はあくまでもどっちでもいいんですよ? ただ、傭兵である以上はここまでわざわざ足労してまで報酬も無しの大赤字……なんて目にあうなら買ってくれる相手に話を持ちかけるのは当然でしょう? それに、元々依頼者からは不義理をされてこちらも少々腹に据えかねる事があったのですから」
……カミラの言葉を信用できるかどうか。
そして、ラトゥは悩むように考える。そして、ため息をはいた。
「……分かりましたわ。話を聞きましょう」
「寛大な措置、ありがとうございますわ。じゃあ、ここからはお話といきましょう」
そして、先程まで俺を誘拐していた犯人とその被害者達による対面しての会話が始まるのだった。
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