第163話 ジョニーと救いの手と
「ジャバウォック!」
「アレイ、元気そうだな」
「……元気じゃないけど、助かった」
敵だったときは、あれほど恐ろしい存在だったが味方にすればこれほどまで心強い存在もない。
「よく、この場所が分かったな……」
「同族らしき声を聞いたのでな。アレイと共に戦っていた召喚獣か? 竜の叫びというのは、同族にはよく通る。アレイの場所と助けを求める声だったので迷わずに済んだ。あの叫びを届けた者に感謝をするといい」
「……そうか。シェイプシフターのおかげか……」
無理をしてまで使った咆哮は、ジャバウォックを呼び寄せるための咆哮だったのか。シェイプシフターが、無理をしてまで残してくれたのは俺を助けるための叫びだった。
カミラは、ジャバウォックを見ながら息を吐く。
「はぁ……時間をかけすぎましたわね。予定ではさっさと捕まえてくるつもりだったんですけども……」
そんなことをいうカミラに俺は思わず突っ込む。
「……部下を呼んで囲めば、すぐだったろう」
「ええ、そうですわね。確かに部下達を読んで囲んで捕らえれば貴方を捕縛すること自体は難しくはありませんでしょうね」
そう言ってから、笑みを浮かべるカミラ。
そこには後悔も何もない。自分はこうなのだという自信に溢れている。
「ですが、自分の在り方には逆らえないんですのよ。私が里を出たのは戦いを楽しむため。あの暗闇で殺すだけの生き様に納得が出来ないからこうして傭兵として生きてますもの」
まるで歌うようにそういうカミラ。
……なんというか、敵であり俺を誘拐した相手だが……シンパシーすら感じる。
「戦う事は人生の目的ですし、こうしなければ私は生きている意味はありませんわ。だから、時間が掛かったことは残念ですけども後悔はありませんし、何度繰り返しても同じ選択をしますわ」
「……まあ、それは分かる」
「あら、ご理解頂けて何よりですわ」
自分のどうしようもない在り方は、死んでも治らない。俺にも冒険者になる上で様々な選択肢があった。それでも、召喚術士になろうとしたのは自分がどうしようもない程に前世からの業を引き継いでいるからだ。
もしも、他の要因で冒険者になったとしても俺は召喚術士を選ぶだろう。
そういう意味では、俺もカミラも同類のどうしようもない人種なのだろう。
「ふむ。話は終わったか? では、捕らえるとしよう」
ジャバウォックはあまり興味が無かったのか、そう言って立ち上がり戦う準備をするように体を動かしてカミラを前に構える。
しかし、カミラは先程の言葉はどこへ行ったのかというほどに戦うような準備をしていない。
「あら、それは困りますわね。捕まって契約不履行というのは少々醜聞が悪いですわ」
「……ふむ、我と戦わないのか? 戦う事が人生の目的なのだろう? どうにも、アレイに化けていたときも思ったが雲を掴むようだ。我に挑もうという気概が感じられん」
「申し訳ありませんけども、私が好んでいるのは戦いですのよ」
そう言ってから、体を変化させて跳躍して木の上へと飛び乗る。
不意を打って攻撃されないための退避であり、もはや戦闘をする意思はないといっているも同然だった。
「貴方だったり、ラトゥ様やブラドのような化け物へ立ち向かうのは趣味じゃありませんのよ」
「……ふむ。お前は勇士ではないか」
「ええ。生憎ですけども私はただの趣味人ですから。では、ごきげんよう」
そういうと、カミラは一瞬で木の上から消え去った。恐らくは逃げたのだろう。
カミラを見送ったジャバウォックは少し悩んでから、俺を掴んで抱える。
「うおっ!?」
「この場はアレイを持ち帰る方が先決だろうな。追いかけたところで、召喚獣は既に倒れているのだろう? 燃しも我の居ない場所で襲われれば本末転倒だ」
「ああ。助かった……本当に来てくれてありがとうな、ジャバウォック。俺も気付かないうちに浚われて申し訳ないな……」
「構わん。我も気付かなかったのでな。誰にも気付かれずに入れ替わっていたのだ。恐らく、こうしたやり方にも慣れているのだろう」
ジャバウォックからフォローされながら荷物のように運ばれていく。
「しかし、おもしろい吸血種だった」
「……ジャバウォックの求める勇士じゃないのにか?」
「在り方の筋が通っている。割り切って己を分かっている者は好感が持てる」
……まあ、カミラ自体は確かに浚われて戦いに付き合わされたが余り悪い印象はない。
多分、裏がなくシンプルな奴だったからだろう。
「む、来たか」
ジャバウォックの言葉に、足音が聞こえてくる。
そちらの方向を見てみると、ラトゥが歩いてやってきていた。その表情は、ジャバウォックに抱えられている俺を見て安堵をしているようだった。
「アレイさん! ……良かった、無事でしたのね! ジャバウォックが、先に行くから慌てて追いかけてきましたんですけども……本当に無事で良かったですわ……」
「ああ……心配かけてごめんな」
「そんな! こちらこそ、監視が行き届かずにアレイさんに被害が及んでしまって申し訳ありませんわ……」
「いや、俺も襲われる可能性があるんだから気をつけるべきだったから――」
「いえ、でも――」
ラトゥに謝罪されるが、俺にも非はある。あまりラトゥに気を遣わせたくないのでそう伝える。だが、ラトゥも謝って堂々巡りとなっていた。
と、そこに空から飛来してきたのはブラドだ。どうやら、上空から探していたらしい。降りてきて、胡乱げな表情を俺達に向ける。
「……何をやっているんですか、お嬢様」
「あ、ブラド。アレイさんが見つかりましたわよ!」
その言葉に俺を見て。少しだけ眼を細める。それは安堵しているのだろう。
「ええ。無事に見つかったのは喜ばしいですね……それで、誘拐した奴らはどうなった?」
「ああ。奴なら我を見てすぐに撤退を判断したな。生憎、アレイを捨て置いて追いかけはしなかった」
「そうか……まあ仕方ない。出来れば、裏で糸を引いた奴らの名前を直接聞き出したかったが無事に確保できただけでマシか」
そう言ってブラドは俺を見る。そして、頭を下げた。
ラトゥでなく、ブラドが俺に向けて頭を下げると思わず動揺してしまう。
「な、なんだ!?」
「……済まなかった。私の手落ちだ」
「い、いや。俺も浚われたときに気付かなかったから、そんな頭を下げなくても……」
「私が護衛としての仕事を全うできなかったのだ。お前が許しても、私自身が許せない。お嬢様にだって顔向けは出来ない。だから、この謝罪だけでは足りないだろう。だが、それでも今は謝らせて欲しい。」
そう言って深く頭を下げるブラド。
……根が真面目なのか。今までは冒険者としての活動だったが、今は吸血種の里の貴族としての立場だから本来の性格が出ているのかもしれない。
とはいえ、このままでも埒が明かないので提案する。
「……まあ、謝罪は受け取った。それじゃあ、とりあえず帰らないか? まだ、会談が待ってるんだろう? それに、ルイ達も俺を探してくれてるんじゃないか?」
「そうですわね……私達とは別方面を探していますから、すぐに合流しないと……」
そうして、俺達はルイ達と合流するために道を戻っていくのだった。
……俺はその間、ずっとジャバウォックに抱えられて荷物のように運ばれているのだった。
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