第162話 ジョニーと復活した仲間と

「――っ!」

「甘いですわよ!」

「――!?」


 振るった腕は地面を破壊する。しかし、カミラはあっさりと回避。

 その攻撃力自体は恐ろしい物だが、それでも当たらなければ意味は無い。シェイプシフターも自分の攻撃がイメージと違って当たらなかったようで首をかしげている。


「っ!」

「ふふ、いくら威力が優れていても、当たらなければ意味が無いんですのよ?」


 シェイプシフターの攻撃は、まるで昔のスライム時代に戻ったかのように荒っぽいものだ。

 腕を振るい、突進して戦う。そこには、今まで模倣で築き上げたような技術の蓄積なども何もない。カミラからすれば、それは子供がじゃれついている程度にしか感じられないだろう。

 そして、反撃を加えるカミラだが、その攻撃はまるで硬い石に刃物をぶつけた用に弾かれる。


「なっ!?」

「っ!」

「ぐっ、うう!」


 すかさず、腕を大ぶりにして攻撃を加えるシェイプシフター。

 咄嗟に弾かれた勢いのままに飛び退いたカミラだが、腕の一部に掠ったらしくダメージがあるのか違和感を確かめるように動かしている。


「……思った以上に厄介ですわね」


 そう呟くカミラ。シェイプシフターには今までの蓄積が消え去ったかのように原始的な戦い方しか出来ない。それだけであれば、あっさりとやられていただろう。

 だが、今の模倣をしている肉体がカミラにとっては致命的だった。絡め手などの存在しない純粋な能力による暴力。カミラの戦闘スタイルは、己の吸血種の能力を十全に活かした上での戦い方だ。トリッキーであり一瞬で戦いを終わらせる火力ではなく、相手に併せて戦闘スタイルを変えて追い詰めるスタイルだ。

 その戦い方は幅広い相手と戦う事は得意だが、純粋に能力の高い怪物を相手にする事は向いていない。


「ですが、火力を特化させれば!」


 腕を変化させるカミラ。それは、鋭い槍のような形となる。

 全力を持って、その攻撃をシェイプシフターへと打ち付け……しかし、それは腕の鱗に阻まれる。


「嘘でしょ!? ああもう! 堅すぎる!」

「!」


 そして、そのまま腕を振るったシェイプシフターによって弾き飛ばされる。

 変化をさせる能力の強さは確かに有用だ。しかし、その能力の欠点は確かに存在する。


(……とはいえ、己の変身出来る能力以上の出力を出せないってのが欠点と呼べるかどうかは難しい所だけどな)


 武器や魔具に頼る事は時として、自分の力や実力を超えた結果を出すことがある。

 しかし、変身能力には自分の力を超えた結果を出す力はない。あくまでも己自身の能力によって戦う力でしかない。種族として圧倒的なまでの強さを持つ竜人種とは元々相性が悪いのだろう。


「こういう化け物相手は苦手ですのに……でも、時間は味方をしてくれているようですわね」

「……!?」


 ――しかし、問題はこちらにもあった。

 シェイプシフターの体が徐々に崩れていく。自覚がなかったのか、ソレを見て動揺するシェイプシフター。


「――? っ!」

(……やっぱり、リスク無くっていうのは無理か)


 あの竜人種の模倣をしているシェイプシフターは俺が送る魔力以上に消費をしている。例えば10の魔力を送っているとして、その倍以上の量を消費しているのだ。

 俺がジャバウォックの本体を召喚出来ないように、恐らく相当な無理をしているのだろう。そのせいで、徐々に魔力が不足した分だけ体はボロボロと崩れている。

 俺が魔力を送れば良いという問題ではない。魔力の繋がりを通して送る事の出来る魔力の限界はある。俺が幾ら魔力を送ろうとしても、その限界を超えた魔力は送る事が出来ない。シェイプシフターという所属自体が魔力をそこまで必要としないが故のエラーのようなものだ。


「シェイプシフター、無理をするな! 送還する!」

「――っ!」


 こちらを見て首を横に振るシェイプシフターではあるが、それでも今の状況を考えれば送還する以外の選択肢は取れない。

 最悪、俺がここで捕らえられたとしてもすぐさま命を取られるようなことにはならないだろう。だが、シェイプシフターが無理をした結果復活することすら出来なくなればそれは取り返しが付かない。

 それを理解しているであろうシェイプシフターだが、送還を拒否して必死に立ち向かおうとする。


「――!」

「麗しい主従愛といったところですわね。ですが、仕事である以上は遠慮無く戦わせてもらいますわ。これ以上、遊んでいると部下からも怒られますもの」

「……やっぱり趣味で戦わせられてたのかよ」

「あら失礼。先程の言葉は聞かなかったことにしてくれると嬉しいですわ」


 息を整えながらも、余裕の表情を浮かべてそう言ってのけるカミラ。

 シェイプシフターの限界まで待っているのだろう。こうして喋っているのは、手負いの獣こそが最も警戒すべきだと分かっているからこその警戒だ。

 ――ここから逆転の手はない。だからこそ、この後のことを考える。


(……召喚符は取り上げられるだろうが、魔力のパスが繋がっている以上は問題は無いはずだ。時間は作った。後は、ラトゥ達に任せるしかない……とはいえ、また違い場所に連れて行かれるなら俺を発見するための手がかりを残すべきか……?)

「――っ」

「シェイプシフター!?」


 体が崩れていき限界近くになったシェイプシフターは天を仰ぐ。

 慌てて送還しようとする俺を振り向いて笑みを浮かべてから、大きく叫んだ。


『AAAAAAA!!』

「うおっ!?」

「きゃっ!?」


 それは、ジャバウォックと戦った時に聞いたドラゴンの咆哮そのものだった。

 だが、そこに込められた魔力は決して多いものではない。硬直こそしたが、ダメージもなく驚いただけで限界を迎えたシェイプシフターは倒れ、慌てて送還した。


(最後の攻撃として咆哮を……? いや、攻撃とは違ったような……)

「――驚きましたけども、同じ手は通用しませんわよ?」


 カミラはそう言って笑みを浮かべる。

 そして、気付けば俺の背後に一瞬で忍び寄って首筋を掴んで持ち上げる。


「ぐっ、あああああ!」

「少々、乱暴な方法で申し訳ありませんわね。ですが、こうして反撃の手を潰しながら意識を刈り取る方が楽そうですので」


 そう言って、俺の首を絞めるカミラ。

 頭に血が上る感覚。必死に抵抗しようとするが、それでも解放されない。


(く……そ……)


 そして、意識を失う一歩手前で突如として俺は解放された。

 咳き込みながらも正面を向くと……まるで爆発と見間違うかのような衝撃が起こる。そして、目の前の土煙から出てきたのは――


「――なるほど、先程の叫びはこのためでしたのね」

「ふむ。間に合ったか」


 それは――味方になれば、そしてこの状況では誰よりも頼もしいジャバウォックの姿だった。

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