第161話 ジョニーと目覚めた者と

 その状態は、言うなら白昼夢を見ているような状態に近かった。意識はあるが、眠っていて夢を見ている状態。意識は起きれない状態。

 ――召喚獣という存在は、基本的に死ぬ事は無い。契約という形で縛られている限りは、その存在が消える事を魔力によって防いで繋ぎ止め続ける。だが、それでも死に近い状態になる事はある。

 最も分かりやすいのは、強大な敵によって魔力の核まで破壊された場合だろう。


(――)


 召喚獣とは、一つの器みたいなものだ。割れても、多少砕けても形を併せて直す事は出来る。だが、踏み潰されて、粉々にされたような状態になれば当然ながら元通りに直す事は困難を極める。

 確かに全ての破片は残っているだろう。だが、ヒントもなくその粉々になってしまった欠片をつなぎ合わせて、元々の形に戻す事が可能だろうか? 答えは、殆ど不可能に近いと言える。自然に戻るのを待てばそれこそ人間の一生涯よりも長い時間が掛かることになる。


(――――)


 だから、今までのアレイの方法では復活は不可能だったろう……ジャバウォックのアドバイスによって、ようやく漂っている召喚獣達にも復活する切っ掛けが見えた。

 とはいえ、それでも時間は掛かる作業だ。真っ白なジクソーパズルを延々と埋め続けるような作業。更に、どこが正解でどこが失敗かすらも分からない。そんな作業を繰り返して自分を取り戻していく。だから、ジャバウォックのアドバイスを貰ってからの期間では当然ながら復活する事は普通の召喚獣では不可能だった。


 ――だが、その中で一人だけ。例外に近い存在が居た。


(――――――)


 純粋な魔力……それも、召喚者の魔力によって誕生した存在。

 そして、それが進化した結果自分の形を自由自在に変化できる存在になったこと。それは、砕け散ったとしても他の召喚獣に比べれば圧倒的に簡単に、そして自分を取り戻す事が出来た。


(――ッ!)


 そして、必要だったのは目覚める切っ掛けだった。

 昏睡している何かが一瞬で目覚めるような衝撃。そして、本人が目覚めなければならないと思うほどの危機。

 それが今まで欠けていた物であり……その全てが揃った。


「――っ!!」


 大切な、自分の家族の危機。その言葉は、自分の意識を休息に目覚めさせる。

 そして、召喚された体に自分の意識を押し込んで復活する。多少、今までと形が違うとしても何なのかとばかりに現界した。

 ――シェイプシフターという、形を持って。



「あら」

「げほっ! ごほっ!」


 そう呟くと、カミラは飛び退く。

 不意打ちに近い一撃だが、あっさりと回避される。やはり、戦闘狂だけある実力を備えている。ここで不意打ちが決まれば話は楽だったのだが……そして、自分を襲ったその姿を見て笑顔を見せる。


「……面白いですわね。私と似たような召喚獣かしら? ふふふ、私でも同じようなタイプと戦ったことはありませんわ」

「シェイプシフター……!」

「!」


 再会を喜ぶ……と、同時に思わずその姿を見て困惑してしまう。

 そこには、俺の知らない姿を模倣したシェイプシフターの姿があった。

 ――いや、まて。見覚えがある気がする。だが、俺の脳裏に引っかからない……仕方ない。今は再会を喜ぼう。


「よく戻ってきてくれた!」

「……!」

(……なんだ?)


 俺の言葉に笑顔を向けるシェイプシフターを見て違和感を感じる。

 それは別段、大きな違いではない。しかし、久々に再会したからこそシェイプシフターの今までとの違いが気になっているだけかも知れないが。


(模倣先がどこであれ、問題は無いんだが……どこか違和感があるな)


 そんな俺を見て首をかしげて不思議そうな表情を浮かべる。

 ……やはり、今までのシェイプシフターとどこか違う気がする。今までの模倣であれば、それはどこか作った笑みだった。しかし、まるでシェイプシフターが心からの笑顔を浮かべているような……


「お話をする暇がありますかしら!?」

「……っ!」


 攻撃を仕掛けるカミラに対して、シェイプシフターは腕を振るって反撃する。

 ――その腕からは硬質的な音が聞こえた。まるで、堅い岩盤に打ち付けたような音だ。


「あら? 不思議ですわね。どういう原理ですの? その見た目から見ても、こんな堅い体をしている用には思えませんけども」

「……?」


 シェイプシフターも、不思議そうに手を見ている。

 なんというか、その表情にも既視感が――


(……そうか!)


 そう、違和感に気付いた。シェイプシフターの見た目は、そうだ。ジャバウォックだ! ジャバウォックが女性の体になっていたら、ああなるのではないかという見た目なのだ。だから、覚えがないのに既視感があるわけだ!

 ……しかし、何故だ? 模倣をする以上はソレは見たことのある姿になるはずだ。だが、今のシェイプシフターの姿は見たことがない姿だ。まず、ジャバウォックの人間体になること自体が謎だ。


(……いや、考えるのは後だ)


 そうだ。考えることは目の前の戦いが終わってからで良い。

 シェイプシフターも、不格好に戦っている。それは、恐らく自分の体をちゃんと把握できないからだろう。


「シェイプシフター! どこまで行ける!」

「――!」


 視線をこちらに向ける。

 ……恐らくだが、殆ど忘れたと言いたげな表情だ。つまり、ここから蓄積しなければならないのだろう。


「よし、リハビリ戦だ! 派手にやるぞ!」

「!」


 俺達の言葉に笑顔を向ける……しかし、笑顔は笑顔でもそれは威嚇や怒りを抑えた凶悪なものだ。


「――良い度胸をしてますね。私をリハビリ扱いなんて……ああ、後悔して泣きわめく姿を見たくなりましたわ!」


 そしてカミラとシェイプシフターが再度、激突するのだった。

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