第154話 ジョニーと監禁と
「…………ぐ、うう……はぁ。あー、よく寝た……」
久々の熟睡だった。すっかり体の疲れも取れ、魔力も体に漲っている。
そして起き上がり……俺は周囲を見渡す。
「……どこだ、ここ?」
それは、薄暗い石の牢屋。
まず間違いなく俺の眠っていたはずのふわふわのベッドもない。
とりあえず、扉に向かって思いっきり手を叩き声を上げる。
「おーい! 誰かいないかー?」
……返事は沈黙だった。
どうやら、近くに人は居ないらしい。そして、考えに考えた結果……当然の帰結に行き着く。
(……うん、間違いない。浚われてるな、俺)
まあ、知らない場所に浚われている以上は誘拐されているのは当然だが……いつの間に浚われたのか。まったく気付かなかった。というか、どうやって運ばれたのだろうか。謎は多いが……とりあえずは、今の自分の現状を把握するところから始めなければ。
周囲を観察。牢屋……というよりも、どこかの個室だろう。扉を無理矢理に開けようとするが施錠されているらしく、ガチャガチャという音がして開かない。蹴破ろうとしてみたが、頑丈な作りだ。簡単には壊れない。
(ふむ、内部に錠前が付いてないから元々監禁なんかに使うための部屋か? 貴族の家だと、そういう部屋があるからここも貴族の家っぽいな)
となれば、ラトゥと同じような貴族の吸血種による仕業だろう。
……そして、現状の状況になった理由や原因を考えていく。
(まずは……浚った理由。そして、浚ってから俺を生かしている理由。それと、こうして閉じ込めている理由だよな……まあ、殺さないのは分かるが)
婚約者である俺を殺した……となった場合に、ラトゥには里の内部でも同情の流れが起きるだろう。さらに、帰ってきた当主に悲劇的な事が起きたと言う事実は意見を傾けるには十分だ。
恐らく、相手の目的は里へ外部の人間が流入してくる流れを止め、ラトゥから実権を奪われたくない事だろう。なら、俺を殺すというのはリスクが大きすぎる。不幸な事故を装うなら、場所を選ばなければならない。
(つまり……俺を生かしたまま、ここで監禁している間に何かしらの仕掛けを俺の居ないラトゥの屋敷とかで起こしている可能性が高いと)
それなら何を狙っているか……簡単に思いつく限りでは、入れ替わりで偽物を用意して評価を地に落とす。これはまあ、流石に見破られるだろうが上手くいけばといったところだろう。
次に、話し合いの場に俺を不在にする。仮にも婚約者を名乗る人間が不在の場合はラトゥ側に対する印象は悪いだろう。元々、俺達を呼び込むために里では相当な苦労をしたはずだ。例え、浚われたといったところで身内の話だ。問題になりきらない。
……婚約者という立場なら、俺の命を盾にしてラトゥに対して要求を通す場合もあるか。
「……つまり、このままだと不味いな」
俺を誘拐した吸血種達からすれば、俺の命などはどうでもいいはずだ。
ラトゥ達に対して俺を使って足かせにした上で、自分たちの望むように進ませる。これが目的だと考えれば俺のせいで妖精郷に対する話がこじれる可能性すらある。
(何せ、本来は妖精種に対して酷い事をしていたのは人間側だ。吸血種達からすれば、わざわざこちらに配慮する必要はない。むしろ、ラトゥが俺達に対して気遣ってくれている状態だからな)
つまり、兄を名乗る俺が不在な事で妖精種に対する扱いに関する糾弾。強いては妖精郷にわざわざ人間達を連れていかなくても良い。交渉するなら吸血達だけで十分だと主張し、人との関わりを断った上でメリットを享受する……なんて可能性が高いか。
なら、やる事は一つだ。まずは持ち物を確認する。
「……流石に魔具とかは没収されてるか。何もないな」
冒険者をしていた習慣で、余程気を許していない限りは何かしらの道具は使えるように隠しているが……普段持っているような道具に関しては、全て没収されていた。
とはいえ、もう一つ手段はある。魔力を集中させ……よし。
「呼び出せたか。これならなんとかなる。」
俺の手には召喚符が呼び出された。
「本当に便利だな。召喚符の召喚っていうのは」
これは、契約をした召喚符には魔力的な繋がりがある事を利用した方法だ。
言わば、魔力的な繋がりのある召喚符自体を呼び出すという荒技だ。召喚符を喪失したりした際の手段として使われる。エリザが呼び出した杖や、魔法使い達が魔具を呼び出すときはこの技術を応用しているのだとか。
そして呼び出すのは……当然ながら、俺の相棒だ。
「バンシー」
「はい! 召喚術士さん、お呼びですか? ……えっと、ここは?」
「閉じ込められたというか、誘拐された」
「えっ!? 大変じゃないですか!?」
驚いているバンシーに、頷く。そう、大変なのだ。
「ここがどこか分からないが、このままだと俺が不在のままでラトゥ達は話し合いを進めるんだろうだが……婚約者の立場の俺が居ないと色々と面倒な事になりそうだからな。このまま脱出して、屋敷に行きたいところだ」
「分かりました! ……それで、何をすれば?」
「まず、この屋敷の中を調べられるか?」
「えっと、調べるんですね?」
そういうと、バンシーは扉をノックするように叩いた。
音が響いていき……しかし、反応は無い。だが、バンシーにはそれで十分だったようだ。
「……ここの広さと部屋の構造は大体分かりました。でも、吸血種らしい人が数人まだ居ますね。大きな騒ぎにしたら多分すぐに駆け寄ってきますよ。今は多分意図的に無視してますけど」
「だよなぁ……吸血種なのは間違いないのか?」
「はい。間違いないです」
バンシーなら嘘は言わないし勘違いもないだろう。吸血種達か……人と違って優秀なハンターであり暗殺者の種族だ。間違いなく、正面から戦えば敗北は間違いないだろう。
……となれば、やはり潜伏しながら逃げ出すのが重要か。
「部屋から出る方法を探さないとな……」
「えっと、空かないんですよね?」
「そうだな。音を立てずに開ける方法があればいいんだが……」
「なら、私出来ますよ?」
「……ん?」
バンシーの顔を見返す。
「えっと、どうやって?」
「破壊します」
「いや、破壊をしたら気付かれるんじゃ……」
「音の壁を作って、聞こえないようにすれば破壊しても問題ありません。ただ、痕跡を見つけられると面倒ですよね……」
……そういえば、バンシーの音を操る能力は小回りが効くのだ。
冒険が多くて、こうした小技を使う発想が抜けていた。やはり、ちゃんと自分の足下をしっかりと確認しなくては、ジョニーとしての名折れだ。
いやまあ、久々に言った気がするが。
「そうだったな。よし、それじゃあやってくれ。見つかるまでの偽装も俺が考えておく」
「分かりました! じゃあ、ちょっと待っててくださいね! 準備をしますので!」
……さて、俺を誘拐したという吸血種達からの大脱走だ。
正直に言えば……ワクワクしている。こうして、逆境でなんとかするという状況に久々の命の危機もしがらみも薄い高ぶりを感じるのだった。
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