第150話 ジョニーとグランガーデン家

「いらっしゃいませ、お客様」


 ――屋敷の中に入ると、数十人のメイド達から挨拶をされる。

 そこは広く広大な屋敷だった。

 屋敷の装飾は豪華でありながらも、嫌みでないように丁寧に配置されしっかりと手入れがされている。この屋敷に比べれば、俺の屋敷はゴテゴテとした成金屋敷だと言われても文句は言えないだろう。


(……やっぱり貴族同士でも、こう違うか……まあ、実際俺の家って大した事はないからな)


 貴族としては、言わば地方の富豪程度でしかない。

 ただ、親が貴族の地位で好き勝手やっている成金だっただけなのだから。


「すげえ……」

「わあ……本当に貴族……というか、もうこれは王族クラスだよね」


 リート達は圧倒されている。俺の屋敷では大して圧倒されてなかったを考えれば、それだけの差があるわけだ。

 と、ブラドはメイドの一人に声をかける。それはメイド達の中でも一番先頭で挨拶をしていた人だ。


「クロア、久々だな」

「お帰りなさいませ、ブラド様。お久しぶりです」


 よく知っている関係なのだろう。メイドと主人の友人という立場ながら、その言葉にはどこか親しげな空気がある。


「ラトゥ様はどうしている?」

「ええ。グランガーデン家に加えて、他家から怪談を申し出られた方々とお話をしております。少々面倒な事態ではありますが、それでもラトゥ様の現在の成果などを考えれば特に強くは出られないでしょう」

「当然だ。問題があればドラク家に伝えろ。戦力は惜しまない」

「畏まりました」


 ……何やら物騒な話をしている。

 少しだけ引いている俺達に、クロアと呼ばれたメイドはこちらへ歩いてきて挨拶をする。


「――イチノ様は既にご存じだとは思われますが、初めましてお客様。私はグランガーデン家のメイド長をしておりますクロアと申します」


 そう言って丁寧に頭を下げるクロア。

 その対応に、まず口火を切ったのは借金取りからだ。やはり、こういった場などになれているのか行動が早い。俺達としても、先に動いてくれるのは助かる。


「どうもどうも。私はフェレスと申します。こちらはイチノ」

「イチノ様がお仕えしているという方ですね、初めまして。以前にこちらへやってきたイチノ様には色々とお世話になりました。私達の不備もあってご迷惑をおかけしました」

「いえ、あの機会は貴重な物でした。こちらこそ、余計な手出しをされなかった事を感謝したいくらいでうs」


 イチノさんとクロアさんはそう言って親しげに会話をしている。会話の内容が物騒ではあるが、あまり以前に来た時にやった事は気にされていないのだろうか?

 ……と、気になって背後の並んでいるメイド達を見ると数人が明らかにイチノさんに対して怯えた表情を浮かべていた。そして、何人かは熱っぽい目を向けている気がする。


(……相当にやらかしたんだろうな)


 と、思った以上の影響を実感していると会話が終わりリート達が挨拶をする。


「どうも、リートと申します。こっちはヒルデで、こっちがルイ。今回はあくまでも護衛代わりなのであまり気にしないでください」

「初めましてリート様。ラトゥ様のお客様である以上は、歓迎致しますのでご安心ください」


 その言葉に困ったような表情を浮かべる。まあ、慣れていないと大変だろう。

 さて、次は俺が挨拶をする番か。


「どうも、俺はアレイです。今回は俺の妹と……」

「――貴方がアレイ様ですか」


 ん? 何やら、今までと違って反応が……

 メイドらしく、優しい笑みを浮かべていたはずのクロアさんの目は開かれて真面目な顔を浮かべている。


「ツナメ、ヒメホ。こちらに」

「はいはい!」

「お呼びですね」


 と、クロアが呼びかけた瞬間に背後で並んでいるメイドとは別に、突如として空中から二人のメイドが現れた。

 ……吸血種としての個性なのだろうが、驚いた。恐らく、体を変化させて一瞬で移動してきたのだろう。それだけで、吸血種としては相当に優秀だと分かる。


「こちらがアレイ様です」

「おお、これが噂の!」

「意外と普通?」


 ジロジロと、二人のメイドは俺を観察している。

 助けを求めるように背後のメイド達を見るが、そちらも興味深そうに俺を見て居た。まるで動物園の檻に入れられて客に見られているかのようだ。


「……えーっと、俺に何かあるのか? そんなに見られると、ちょっと怖いんだが」

「申し訳ありません。しかし、我々としてもラトゥ様の婚約者様ですので。何かしらの間違いが無いように、しっかりと覚えておかねばなりません」


 ……ああ、そうか。こういった立場のある貴族の場合、魔法や魔具による偽装や成り代わりの可能性がある。

 なので、そういった偽装を見分けるためにある程度力を持った使用人やそういった立場の人間が観察をして覚えるのだ。それの一環なのだろう。そうと分かれば納得が……


「うーん、なんだか凄い良い匂い! 食欲がそそられるっていうか!」

「魔力の質もわりとマシ」

「ただ、もうちょっと肉付きが良い方が好みかなぁ。骨っぽいよね」

「血の質を上げる努力が必要」


 ……顔を覚えさせるというか品定めをされている気分だ。

 思いっきり食欲をそそるなどの食料目線で語られている気がする。そして、俺を観察していた二人のメイドは満足したのか下がる。


「オッケーです」

「覚えた」

「お疲れ様、二人とも。それじゃあ、改めてアレイ様にご挨拶を」

「はいはーい。私はツナメっていいます!」

「ヒメホです」


 二人はそんな風に挨拶をする。

 クロアさんは、イチノさんに負けず劣らずの出来るメイドさんという見た目だが、ツナメとヒメホはどちらかと言えば子供と言った雰囲気だ。覚えたという発言から見るに……どちらかと言えば、客に対応するメイドではなく戦闘などをする武闘派メイドなのだろう。


「よろしく頼む……まあ、婚約者って言ってもラトゥから聞いてるかも知れないが、あくまでも仮だからな。あんまり気にしないでくれ」


 背後から殺意の籠もった視線を向けてくるブラドの圧を感じながら、そう答える。

 しかし、メイド達は首を横に振る。


「いえ、仮だろうとラトゥ様が良しとしたのなら我々にとっては大切な客人です。気にするなと言うのは無理ですので諦めてください」

「無視したら、むしろ私達が失礼だよー」

「普通に常識」


 ……そんな風に突っ込まれる。

 まあ、貴族である以上はその常識は分かっているのだが……本当にブラドの圧が強い。話を打ち切るようにブラドが話を締める。


「話はここまでだ。とりあえず。お前達は客人を部屋に通せ。明日。ラトゥ様とエリザを読んでこの屋敷で会議をする。今後の話もあるから、準備は怠るな。また声をかける。私は一度、家に顔を出さねばならないのでな。それに、エリザを呼ぶ必要性もある。以上だ」

「では、後はお任せを」


 クロアの言葉に頷いて、去って行くブラド。


「――では皆様、部屋にご招待致します」


 そして、俺達はグランガーデン家に宿泊する事となるのだった。

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