第149話 ジョニー達と吸血種の里と
ブラドの先導で馬車が進んでいく。俺はリート達の馬車に乗せて貰って一緒に揺られている。
外の風景はうかがい知れない。ブラド曰く、途中までの道を見せるわけには行かないという事らしい。吸血種の里の場所には特殊なルートを通る必要があり、目視をして記憶されるわけには行かないからだという。
揺られていると、馬車の外からよく通る声が聞こえてくる。
「吸血種の里でだが、ジャックとバンシーなら外に出ても良い。それ以外は外に出るな」
「……なんでだ? むしろ、竜人種とかモンスターの方が警戒されそうなものだけど」
馬車の中から俺は質問をしてみると、舌打ちをしてからブラドが答える。
……別に舌打ちは必要なくないか?
「元はといえば、そっちの馬車に居る女のせいだ。吸血種のグランガーデン家、ラボラトリ家、ドラク家の吸血種を襲撃の際に公衆の前で返り討ちにしただろう。そのせいで警戒されている。少なくとも、親ラトゥ様派閥ですら以前に来訪した女がいると言った瞬間に空気が凍ったのだぞ」
「……それって」
「イチノさんか?」
リート達は顔を合わせてコソコソと喋る……間違いなくイチノさんのことだ。
そう言われた本人の表情は見えないが、声が聞こえてくるが「ああ、その程度のことか」とでも言いたげなけだるい声で答えが聞こえる。
「それでは、やりすぎたと言う事でしょうか?」
「いや、やらかした事は別に良い……むしろ、あのクソ共に身の程を叩き込んだ事は見事だ。ラトゥ様に牙を剥く愚か者は牙を全て叩き折って翼をもぎ取るくらいはしてやってもいい私も溜飲が下がった。だが、関係の無い吸血種が怯えてしまった。そのせいで、子供の中にはトラウマになりかけた子もいる。それに関しては気遣えというだけだ」
「……確かに。余裕がなかった事と吸血種如きに劣ると思われたくないという気持ちが出てしまってしまいました。申し訳ありません」
……別に遣らかした事はいいのか。そして、煽るような言葉でわざわざ謝罪するのかとツッコミ所の多い会話だが、俺の中で何か口を出すと碌な事にならない二人なので何も言わないでおく。
と、そこで空気を読まずに口を出した男が一人。
「おやおや、イチノ。よくありませんねぇ。吸血種は今後の商売相手なのですから。あまり関係を悪化させるのは少々困りますね」
「――失礼しました。対応を改めます。ブラド様、失礼致しました」
借金取りの言葉で態度を変え、使用人であり借金取りの部下としての顔になる。
……今更ながら、イチノさんと借金取りの関係性はどういう経緯なのだろうか。借金取りに対して相当な忠誠を誓っているが、どのようなエピソードがあるのか少しだけ気になる。
(……多分、それだけイチノさん達と交流が増えたから何だろうけどな)
金だけの関係だと言われても別に納得はするが。
と、余計な事を考えている俺を置いてブラドの話は続いていた。
「別に気にしなくても良い。だが、今回も領内でラトゥ様に逆らうクズ共に関しては遠慮をしなくていい。だが他の領民や吸血種に対して余計な事はしてくれるな。それだけ守ればこちらも多少のトラウマ不問にする」
「……判断基準に困りますね。トラブルになる相手を見分けるほど、こちらも吸血種は知っていませんので」
「そうですね。僕達も気をつけたいので基準というか、どういう相手に気を付けるべきかは知っておきたいです」
イチノさんとリートは、ごもっともな質問をする。トラブルになる可能性は高いが、その相手がどちらなのかは俺達には判断出来ない。
そんな質問に対して、ブラドは簡潔に答える。
「判断基準は単純だ。お前達に屋外で話しかける吸血種は全て敵だ」
「分かりやすいですね」
「全てって……」
「全てだ、例外はない。屋敷の中で声をかけてくる奴に関しては味方だと考えても良いが外に連れ出そうとする奴には警戒しろ」
……それだけ警戒されて遠巻きにされているというわけでもあるのか。
とはいえ、確かに分かりやすい。まあ、旅先の楽しみというか出会いみたいなものはないが。
「……凄いなぁ。僕が前に言った魔種の里よりも厳しいや」
「オレとヒルデ、リートの魔種の里の話に関しては盛ってると思ってたんだが本当にこんな感じなんだな……」
リート達はリート達で魔種の里での対応に関して何やら実感をしてる。
と、そこでブラドが俺達へと声をかける。
「そろそろ里に入る。里の様子は気にはなるだろう。外を見るのは許可する。ただし、声をかけるな。街並を見るだけだ」
「分かった」
「ええ、了解です」
そして、馬車の中から外を覗いてみる。
「……おお。ここが、吸血種の里か」
里という名前のイメージとして牧歌的な農村のようなイメージをしていたが……どちらかと言えば洗練された街という印象だ。
街並の建物はレンガ造りであり、思った以上にしっかりとしている。閑静な住宅地といった風情だ。そして、道を歩く吸血種達は帽子をしていたりマスクをして顔を隠している人が目立つ。それが気になって呟く。
「……顔を隠してる人が多いな」
「まあ、一般的に吸血種っていうのは日光に弱いからね。なんでも、魔力が乱れやすいんだってさ。だから、日中でも普通に行動出来る吸血種って言うのはそれだけ優秀で凄いんだよ」
「ラトゥ達みたいに、日中に行動出来るってだけでその血の価値が分かる訳か」
リートの説明で、顔を隠している理由は分かった。街の外で顔を出して活動している吸血種というだけで、それだけ話題になるわけだ。
街を行く人々はこちらの馬車……というよりも、ブラドを見ると直立不動のまま頭を下げていく。
(貴族の立場が強いのか……まあ、魔種は人種に比べると身分を気にするらしいからな)
出奔していたとはいえ、ラトゥのグランガーデン家に対する誇りもそうだが貴族という立場に対して責任と義務を重要視している。
そして、住人もそのような貴族に対して敬意と畏怖を抱いているのだろう。
「しかし、なんだろうな……不思議な感じがする。なんというか、生活感がないというか……」
「多分だけど、生活の痕跡が薄いからじゃないかな? 特に、僕達みたいな食事をしないでもいいしあまり騒がないらしいからね」
……そういえば確かに。
住人の声などは聞こえるが生活に根付いた音がしないのだ。
「でも、ラトゥ達は食事を取ってたよな?」
「聞いたら、吸血種にとっては食事は娯楽みたいなもんらしいぞ。吸血種としての血が薄ければ食事に含まれる血液でも十分だが、血筋が良くなるほど品質の良い血でないと満たされないんだと」
……なるほど、確かにそれを聞くと吸血種の本能から解放されたラトゥが快適だというわけだ。
「そろそろ無駄話は終わりだ」
気付けば、どうやら屋敷にやってきたらしい。
――外を見れば、そこには重厚でオレの屋敷の数倍の大きさ……城のような場所に踏み入った。
「グランガーデンの本家だ。粗相がないように気をつけろ」
ここがラトゥの生まれ育った家か。
ブラドの言葉に、緊張しながら俺達は馬車から降りるのだった。
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