第148話 ジョニー達と到着と

 ……ようやく頭痛も治まった当たりで、もう一度繰り返す。

 ただし、今度は魔力の量に気を遣ってコントロールする。流石にあのレベルの苦痛だと一瞬で魔力が霧散してしまう。だから、多少効率が落ちるとしても魔力量を絞って確実に送るのがいいだろう。


(……確かに、負担はデカいが……今までよりも、確実な効果を感じるな……)


 ジワジワと蝕んでくる頭痛を堪えながら、魔力によって記憶を送り続ける。

 今まで形になる事もなく霧散した召喚獣の形を保つ時間が少しだけ増えている。それは、間違いなく込めている魔力量が増えただけではない。


「とはいえ、そろそろ寝た方が良いだろう」

「……そんなに時間が経ったのか?」

「アレイが思っているよりもな。例え無理をしたとして、馬車の移動をしている最中に眠っても疲れが取れまい。魔力の回復には、ちゃんとした休息が必要だ」


 ……もっともな忠告に頷いて召喚符をしまう。


「助かった、ジャバウォック。おかげで本当に元に戻せる切っ掛けが掴めそうだ」

「我も勇士を失い二度と会う事が出来ないのは心残りなのでな。お互いに得のある提案だ」


 そういって、先に戻っていくジャバウォック。


(……まだ吸血種の里に辿り着くまで時間は掛かる。ゆっくりとでも、それぞれに呼びかけて切っ掛けを作らないとな)


 まだ先は長い。

 それでも、シェイプシフター達が戻ってこれる可能性が現実になった事は大きな一歩なのだった。



「――皆さん、いったん止まってくださりますこと?」


 ラトゥの言葉に馬車が止まる。

 ――出発してから14日目の昼を過ぎた当たり。順調な道を進んできた中で、ラトゥが唐突にそう叫ぶ。そして、馬車から降りた借金取りが首をかしげてラトゥに聞き返す。


「どうされました? まだ山の中ですが」

「そろそろ吸血種の里が近くなりましたの。だから、ここで確認事項や注意点について伝える必要があると思って止めましたの」

「なるほど。では、ここでいったん休憩を挟むとしましょう。では、ラトゥ様。説明をお願いします」


 馬車を止め全員が集まり、テキパキと休憩をするための準備を終える。

 元々旅慣れしている冒険者達が集まっているのでスムーズなものだ。そして、準備を終えてからラトゥがお茶を手に話を始める。


「まず、吸血種の里ですが……排他的であり、基本的に外部からの人間を歓迎する事は本来はありえませんわ」

「王都なんかでは、吸血種は外部の人間を嫌っていて、里を探しに行った人が殺されてそのまま処分された……なんて噂もありますね」

「半分は事実ですわね。完全に外部との交流を立っているわけではありませんわ。それでも、里へ迎え入れる他種族の方は殆どいませんの」


 リートは半分は事実という言葉にちょっと引いていた。 

 どこまでが正解でどこまでが不正解なのかを考えると、闇が深そうなので掘り下げないでおくとしよう。


「今回、まずは私達が先行して里に入ってから、客人であるアレイさん達の話を通してから里に来て貰う事になりますわ。気をつけて欲しいのは、里に居る吸血種に迂闊に話しかけない事ですわね」

「話しかけるだけでダメなのか?」

「ええ。私達に対して好意的な吸血種もいますが……それでも、中には私やブラド、エリザを快く思わない吸血種も居ますわ。そういった吸血種がどういう形で近づくか分かりませんもの。だから、警戒をして損をする事はありませんわ」


 その言葉に、借金取りが質問をする。


「では、会話をする相手の名前をそちらに伝えれば個人的な商売をする上での交友に問題はなさそうですかね」

「……まあ、貴方はそれで付いてきていますものね。トラブルにならなければ、問題はありませんわ。流石に大っぴらな襲撃をするほど勢力は強くありませんもの」


 ……勢力が強ければ、大っぴらに襲撃されるのか。

 思った以上の血の気が多い吸血種という存在に恐れおののきながらも話が終わったのかカップを片付けるラトゥ。


「では、これから私達が吸血種の里に行きますわ。終わったら、ブラドを使いに出しますから、それまではこちらで待っていてくださるかしら」

「ええ、分かりました」


 そしてラトゥ達は馬車を動かして先行して里へと向かっていく。


「吸血種の里かぁ……こうして、前にすると緊張するね」

「そうか? 吸血種って言っても、魔種だろ? なら、冒険者で関わる事も多いんだから緊張するような事でもないだろ」

「昔、実家の仕事で前に魔種の里に行った事があるんだけどね……その時も大変だったからさ。排他的な魔種って、種族全体が頑固な武器職人くらいとっつきにくいんだよね……」


 そんな会話をしているリート達を尻目に、俺は一つの悩みを抱えていた。


「……ジャバウォックとバンシーをどうするかな」


 魔種の里に連れて行くにはバンシーはまだしもジャバウォックは刺激が強い。

 竜人種というだけでも目を引くのだが、それを交流を断っているような異種族の中に放り込むのは波風を立てたいと言わんばかりの蛮行だろう。


(とはいえ、問題があるんだよな……ジャバウォックを送還出来ないっていう)


 そう、実は前から試しているがラトゥと同じように特殊な召喚契約になっているらしくジャバウォックを送還する事は出来ないのだ。

 モンスターと違って肉体を持っているからだろうか? とはいえ、隠す事が出来ない以上は仕方ないか。


「なあ、ジャックだけ待機させた方が良いか? 吸血種の里に竜人種が入ってきたら変な騒ぎになりそうだからさ」

「いえ、気にしなくとも良いと思いますよ」


 借金取りは、気楽にそんな答えを返す。


「むしろ、竜人種という存在は一種の圧になるでしょうね。ラトゥ様達を敵視する集団がむしろ動いた方が……」


 と、そこまで言って言葉を句切る借金取り。

 ニコリと、作り笑顔を向ける。


「ラトゥ様達もそれは織り込んでいるはずですので、むしろティータ様を気にかける方が大切かと。イチノに護衛はさせていますが、それでも吸血種という存在が本気で狙ってくれば守り切れる保証はありませんので」

「……そうだな」


 借金取りは借金取りで不穏な事を考えているようだが、実際にティータという存在を狙われる可能性は十分にある。

 覚悟を決めた当たりで、突如として空から降り立つ影……それは、ブラドだ。


「里に入る準備が整った。馬車に乗れ」


 その言葉に片付けて全員馬車に乗り込んでいく。

 ――おそらくは、殆ど人間の入った事がない未踏の地である吸血種の里に入る事になるのだった。


「あの里に入るのも久々ですね。大きく変わっていなければ護衛なども楽なのですが」


 ……そういえば、イチノさんはラトゥと一緒に入ってたな。

 ほんのちょっとだけ、気分的に出足をくじかれたのだった。

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