第146話 ジョニーは疲弊する
「――というわけで、容態としては大丈夫だね。とはいえ、魔力の消耗は止められないしそろそろ魔具や魔石ノカバーも限界が見えてきているからね。タイミング的には丁度良いって感じかな」
「やっぱりそうか。分かった。ありがとう」
エリザとのティータの容態に関する話が終わった当たりで馬車が止まる。どうやら、日も暮れてきたので野営の時間となったようだ。
この馬車には御者がいない。魔具によって管理されてそれをコントロールしているらしい。どれだけの金が掛かっているのか……と考えるが、どうせ自分で払うわけではないので気にしない事にした。
そして、【血の花園】は周囲の確認に走ってくれた。
「――少なくとも、周囲には人らしき存在の気配はありませんわ」
「私が空から見て回って来ましたが、怪しい物はありませんでした」
「ブラド様にラトゥ様は確認助かります。では、野営の食事はイチノが準備していますので、少々お待ちを。馬車で疲れたでしょうから、ゆっくりと羽を伸ばしてください。」
借金取りの言葉にそれぞれが寛ぎながら体を伸ばしたりしている。快適とは言え、馬車の移動にはやはり負担がかかる。
そんな中、ラトゥとリートは借金取りの元へと確認をしに言っているようだ。
「ここでの野営に関して、日が暮れてからの見張りはどうしますか? こっちも人員を出す準備はしてます」
「吸血種である私達に任せる形で構いませんわ。日中の間に眠っていれば十分ですし、日の高い時間帯よりも日の暮れた時間の方が力は出せますわよ」
「ふむ……ですが、割り振りに関しては公平性を保つ必要もありますので均等にお願いしましょう。それに、吸血種といえど、休息は十分に必要でしょう? どうせ、襲撃者が来るなら時間帯なんてものは選べませんし全員で対処する事になるので、全員が同じ程度に疲労を溜めない方が重要ですよ」
「なるほどですわね……それなら――」
リートとラトゥは借金取りに進言して、借金取りもそれを聞いて更なる改善案を提案している。
……真面目な話をしているなぁ。俺は何もしてないけどいいのかなぁと思っていると、バンシーとジャバウォックがやってきた。
「おう、バンシー。ジャバウォック。馬車の旅はどうだ?」
「はい、快適です! 借金取りの人も、よくしてくださっています!」
「退屈だ。風景を見るにも風情がないのでな。まあ、吸血種の里やらに着くまでの我慢ではあるか」
……全く真逆の感想を貰った。
とはいえ、元々は戦う事が好きであろうジャバウォックは平和な旅路というのは退屈だろう……というか、我慢をするという発言といい、意外と空気を読んでくれるな。
「まあ、色々と我慢をさせて悪いなジャック。ちゃんと出番が来たら頼るよ」
「ああ、分かっている。アレイの意向を無視するほど不満をためてはいないのでな」
「そうか、ありがとうな。バンシーは大丈夫か?」
そう言ってくれるジャバウォックに感謝しつつ、バンシーにも聞いてみる。
「はい。私も問題はないです。ちゃんと、時が来たら召喚術師さんのお役に立ちますからね!」
「……まあ、張り切りすぎないようにな?」
念のためにバンシーにそう言って注意をしつつ……咄嗟に背後を振り向く。
背後では、リートとラトゥ、そして借金取りが相談をしているだけで他に誰もいない。やはり気のせいか。
と、そんな過剰反応をしている俺を見てバンシーは首をひねる。
「どうしたんですか? 召喚術師さん」
「いやな……なんだか、なにかに狙われてるな感じがしてるんだよ……気のせいかとは思うんだが」
「……んー、でも吸血種の皆さんがちゃんと見てくれているんですよね?」
「ああ。だから間違いないはずなんだが……」
でも、何故か俺にはじっとりと観察されているような感覚がつきまとっている。
……ジャバウォックなら、気配に関して何かが分かるかもしれない。
「ジャバウォック、別に俺を狙ってる敵はいないよな?」
「そうだな。アレイを狙っている
ジャバウォックの言葉なら嘘はないだろう。まず、竜であるジャバウォックにとって嘘を吐くという意味が無いからだ。
……ならば、この感覚は俺の気にし過ぎなのかと納得する。
「皆さん。料理ができました」
「ああ、食べに行くか」
食事でもすれば気分は晴れるかもしれない。
そう考えて、イチノさんのもとへ食事を貰いに行くのだった。
「うおわっ!?」
思わず跳ね起きて、朝日が昇った事に気付いた。
……目覚めは最悪だった。なにか巨大な化け物に食われるような悪夢を見た気がする。詳しい夢の内容は覚えていないが、何故かその印象だけは残っている。
「……あー、嫌な夢だったな……ここまで俺、神経細かったか?」
寝付きも良いはずなんだが……と思いながら、他の面々も起きて野営の後片付けをして馬車は出発する。
今回はリートたちと一緒の馬車に乗っていた。日替わりなのは、
「アレイ、大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「大丈夫だ。ちょっと夢見が悪かっただけだから」
「珍しいな。お前、旅先でも毎回快眠だったろ。見てるこっちが感心するくらいだったのに」
「そうだね。アレイが羨ましかったよ」
迷宮の時は、俺は毎回ぐっすり眠っていたら起きたときに眠りの浅かったリートからは羨ましいと言われていた。
ルイですら、どこでも寝れるがそこまで熟睡はできないと言われたくらいだった。
「あんまり酷いようなら、フェレスさんにでも相談しておけよ。ティータちゃんの事もあるんだからお前は元気じゃないとダメだろ」
「分かってる。まあ、すぐに慣れるとは思うんだけどな……」
まあ気にしすぎても仕方ないと割り切る。
と、そこでリートが俺に質問をしてきた。
「それで、アレイの妹さんは大丈夫なのかな? 容態が悪いなら、馬車の旅は不安も多いと思うんだけど」
「ああ。昨日寝る前に様子を見たけど今のところは大丈夫そうだ。エリザも見てくれているし、お世話はイチノさんがしているから多分大事はないと思う」
その言葉に、心からホッとしたような表情を浮かべるリート。
「そうか……僕も兄弟が居るからね。もしも、家族が重病だとしたら手を尽くしてでも治療方法を探すから他人事と思えなくてさ」
「そういえば、リートの実家は鍛冶屋だっけか? でも、冒険者になるときに色々あったんだろ?」
「ちゃんと納得させて冒険者になったからね。今回、ちょっとだけ顔を出したら銀等級冒険者になったって言う事で大騒ぎでね……僕の名前を関した武具を作って売ろうなんて言って、止めるのが大変だったよ」
「……良い家族なんだな」
「あはは、ちょっとお調子者な所もあるけどね。ルイもヒルデも受け入れて仲良くしてくれる大切な家族だよ。また、アレイも紹介していいかな?」
「ああ。俺の召喚獣のグレムリンも鍛冶に興味がある奴でな。その話を聞かせて貰う機会にもなりそうだから是非」
「……僕の家族、腰を抜かすかもなぁ」
そんな風に和やかな会話をしていると、感じていた悪寒は不思議と無くなっていた。
やはり、ティータの事で神経か過敏になっていたのだろう。安心して、俺はリート達の話を色々と聞くのだった。
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