第144話 ジョニー達と合流と

 ――時間をおいて、リートとヒルデが落ち着いたあたりでちゃんとした説明をする。

 これまでの経緯と、ルイに説明したのと同じような説明だ。聞いてすぐに納得をしてくれた。


「なるほど……そういう事情だったんだ。ごめんね、つい慌ててしまうと周りが見えなくなる事があって……」

「そうなんだよ。リートは不意打ちに弱いからな……ダンジョンだったら、テンパらないのになんで日常だとこうなんだよ」

「あはは……つい、気を抜いちゃうんだよね。ダンジョンでは常に気を張ってるし覚悟はしてるんだけど……まあ、その分ルイに頼るからさ」

「いや、もうちょっとオレのことも気遣えよ」


 仲の良いやり取りをするリート達を見て居ると、3人の関係性が変わらない事に少しだけ嬉しくなる。冒険者としての立場で関係が悪化したり変わる事も多いからだ。

 さて、それはそうと出発準備に関しては問題なさそうだと判断する。


「んじゃ、準備とかは大丈夫そうだな」

「元々、仮宿だからな。すぐにでも出発できるぞ」

「それじゃあ、明日の昼に。他のメンバーは【血の花園】と俺の妹。それと……あー、まあ今回手配してくれた関係者達が二人かな。それと俺の召喚獣だ」

「……思ったよりも大所帯だね」


 リートの言葉に頷く。

 気付いたらこんな人数になっていたが、10人を超える人数で移動するのはまあまあな規模だ。


「まあ、普通の冒険者達が運ばれるならこの人数くらいは少ないくらいなんだけどな」

「とはいえ、個人で出す馬車でこの人数だとやっぱり多い方だと思うよ。まあ、戦える人が多ければ道中の安全は保証されるけどね」

「そうだな……そういえば、ルイ。子供たちの所には顔出してるのか?」


 俺の質問に、苦笑するルイ。


「ああ、ちょっと顔出したけどアイツらも自分たちで独り立ちしてたからな。これ以上は手を出すのもアイツらのためにならないから、顔を出す頻度は下げるつもりだ」

「そうか……まあ、顔を出してるなら良かった」

「ガキ共も、成長するからな。それに、冒険者なんてどこかでくたばるかも知れないんだ。引退したら、ガキ共を面倒見る事を考えても良いけどな。その予定も今のところはないから手を離すのが良いんだよ」

「あー、なるほど。それもそうか」


 冒険者は、何時死ぬとも分からない。俺だって何度も死にかけている。一歩間違えれば死ぬかも知れない中で残された人間はどうなるかという話がある。

 ……なら、子供たちが頼りきりになって死んでしまえば、その後どう生きていくのか……という話に繋がるわけだ。と、真面目な話をしている俺達を何故かリートとヒルデが俺達を見てニコニコとして楽しそうにしている。


「……なんだ?」

「いやあ、仲よさそうだなぁって。いやあ、ルイって僕達以外には全然心を開かないから、友達出来ないんじゃないかって心配してたんだよね」


 頷くヒルデ。なんというか、それは妹が友達を家に連れてきたときのような感じだ。


「お前らな……真面目な話してるんだよ!」


 ルイが、不機嫌そうな表情で二人に文句を言う

 ……まあ、話も終わったしそろそろ切り上げた方が良いだろう。長くなると変な巻き込まれ方をしそうだし


「まあ、そろそろ俺も帰って準備をするよ。それじゃあ、明日は屋敷で待ってるからな」

「おう、じゃあなアレイ」

「うん、また明日」


 そして、ルイ達に別れを告げて俺も帰路につく。

 ――さて、ついに出発か。未だに目覚めないティータの回復が出来れば良い。たった一人の妹に出来る事を、俺は考え続けるのだった。



 そして次の日は忙しくしている。

 朝からやってきた馬車にティータを乗せたり、荷物の支度をしたりなどで屋敷の中ではバタバタと動いていた。ジャバウォックに手伝わせると物を壊しそうなので、一旦は放置してバンシーと俺も荷物を運んだりを手伝っていた。

 そんな中で最初にラトゥ達が。そして、遅れてリート達がやってくる。荷物の積み込みも終わって、仕切るように借金取りが声を張り上げた。


「さて、これで皆さんが揃ったようですね」


 屋敷の前に【血の花園】にリート達。そして俺が勢揃いだ。

 ……なんというか、迷宮以来の集まりだが、客観的に見るととんでもない状態だな。何せ、押しも押されぬ有名な銀等級冒険者チームと、新進気鋭の銀等級冒険者が揃っているのだ。これを冒険者ギルドの依頼で頼むとなると幾ら掛かるか……


「さて、初めて顔を合わせる方にもご挨拶をしますが……フェレスと申します。ちょっとした貸金業を本業に色々と手広く商売をしていますので、どうぞお見知りおきを。さて、本日はこの馬車にて吸血種の里まで行く予定となっています。期間はおおよそ半月ですね。順調に進んでではありますが」


 そして見渡して、用意した馬車の中でも一つだけ特殊な作りになっている馬車を指さす。

 それはティータを乗せている特注の馬車だ。


「あの馬車の中には、アレイさんの妹様が乗っています。彼女の状態は決して良いわけではないですので、もしも道中で盗賊やらの襲撃があった際には、あの馬車の護衛を第一に考えて頂ければと思います。質問などはありますか?」


 借金取りの言葉に、リートが手を上げる。


「では、馬車を用意したフェレスさんの護衛に関してはどうすればいいですか? こっちも用意して貰っている以上は出来る限りはしたいんですが」

「最優先はこの馬車です。余裕があれば他の助けでいいですよ。私には頼りになる部下がいますので」


 その言葉に、静かに頭を下げるイチノさん。


「なるほど。では、他にも聞きたい事が――」

「私からも、いいですの?」

「ええ、構いませんよ。今のうちに質問は終わらせてしまいましょう」


 ……リートと、ラトゥ達が真面目な話をしている間、手持ち無沙汰になってしまう。

 俺の後ろではジャバウォックは眠そうにしているし、バンシーもウトウトしている。ヒルデもあまり興味なさそうだし、エリザは何か別を見ている。


(銀等級になっても、あんまりこういう部分は変わらないんだな)


 最初ノ仕事の説明に関して、真面目に聞かない冒険者というのは多い。

 そんな失礼な事を考えていると、肩を叩かれる。


「よっ」

「ルイ、どうした?」

「いや、真面目な話してるんで暇になって来た」


 真面目な話をしている最中なのに……とはいえ、ルイもじっとしていられないタイプだろう。ならいいか。


「んで、お前の妹さんはどうなんだ?」

「ティータか? ……まあ、目覚めないけど容態は安定してる」

「目覚めないって……そりゃ安定してるっていうのか?」

「命の危機が常にあった時に比べれば安定してるよ」


 その言葉に、なんと答えれば良いのかと言いたげな表情を浮かべるルイ。


「まあ、こうして妹さんの体を治療する方法を探しに行くんだろ? 見つかると良いな」

「ああ」

「――さて、出発しますか。では、馬車に乗ってください」


 ……と、どうやら話が終わったらしい。

 ついに、吸血種の里へと馬車に乗り込んで出発するのだった。

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