第143話 ジョニーと出発前日と

 冒険者ギルドは相変わらず盛況であり……というか、人が増えている。

 入ろうかと思ったら、まず入る事が出来なかった。


(……これは予想外だったなぁ)


 二ヶ月の間にちょっとは落ち着くかと思いきや……むしろ、どんどん人が増えていく。

 というのも、ラトゥ達がこの街に居たという情報まで伝わった事も大きい。そのせいで、どんどんと人が増えてきてお祭り騒ぎが延々と終わらない状態だ。


(ルイ達も、最近は逃げ回ってるような現状らしいからな……)


 ラトゥ達は街の外で被害を出さないために隠れている中、やってきたファン達派新しい時代を感じさせる銀等級冒険者達に興味を持つのは当然の流れだろう。

 というわけで、ラトゥ達の追っかけまで加わった事でルイ達は今や時の人である。


(……まあ、現状は正直、困っているんだが)


 冒険者ギルドに入れないとなると、ラトゥ達を探せない。

 そうすると、今回の吸血種の里への旅へ誘う事の予定も立てれない。時間に限りがある以上は困った事に置いていく選択肢も視野に入る。

 と、冒険者ギルドの裏口が開いて誰かが出てくる。見てみると、それはよく知っている相手だ。


「あ、どうもー。召喚術士さんじゃないですか」

「受付嬢さん、お久しぶりです」

「はいはいー。それで、本日はどうされましたー? 何かありましたかー?」

「ちょっと用事があったんですけど、この人ですからね……帰ろうか悩んでいて」


 既に人が入りきらず、アルバイトであろう冒険者ギルドスタッフが列の誘導をしたりしている。

 ……わりとちゃんと並んでいるが、場所によっては荒っぽく暴動になったりするので治安の良さの賜物だろう。


「あー、なるほどですね。それで、用事というと……渦中のお三方にお話ですかー? あ、名前を出したらダメですよー? 下手に聞かれると色々となだれ込んで来ちゃいますのでー」

「……ええ、そうですね」


 直接名前を言うとバレて面倒な騒動になるという配慮からか。

 ちゃんと考えている。


「でしたら、メモを預かってますのでこれをどうぞー」

「メモ?」

「ええ。これを渡してから最近は冒険者ギルドに顔を出していなくてですねー。しばらく顔を出せないという話も通っているので、冒険者ギルドの中を探しても恐らく見つかりませんよー」

「ああ、そうなんですか」


 どうやら、ルイ達はこの騒ぎに辟易としたせいか身を隠しているらしい。そして、受け取った物を確認してみると……そこには、簡単な地図が書かれている。

 ……なるほど。ここに来てくれと言う訳か。


「ありがとうございます。俺は、ちょっとしばらく行く所があるので不在になりますが……帰ってきたら、またどこか良いダンジョンの紹介お願いします。頼りにしてますんで」

「あははー、相変わらず召喚術士さんは忙しい人ですねー。応援してますから、頑張ってくださいねー」


 そんな優しい言葉にありがたく思いながら……遅々として進まない列を見る。

 そこで、ふと気になって聞いてみた。


「そういえば、受付嬢さん。これからどこかに行く予定があるんですか?」

「ええ。これから良い仕事をするために、他の方似仕事を任せて一人でノンビリと気力を充実させてくる予定なんですよねー。これは大切な事なので、他の人には内緒ですよー?」

「……あー、はい。分かりました。誰にも言わないです」

「流石は召喚術士さん、いい人ですねー」


 笑顔のまま、受付嬢さんは街へと消えていった。

 ……それは一般的にサボるという事では? そう思っても口に出さない程度の賢さは俺にあるのだった。



 ――そしてメモに書かれている地図を頼りにやってきた。

 やけに人目に付きにくいルートを通りながら、辿り着いた場所は見覚えがある場所だった。


「なるほど。ここなのか。地図で見ると分からなかったが……」


 懐かしい場所……と言っていいのかは分からないが、思い出深い場所だ。


「もう、今は掘っ立て小屋みたいなもんだな」


 そう呟きながら、応急処置で修繕された扉を前にして、ノックをする。

 すると、すぐさま扉が開いて中から見覚えのある顔が現れた。


「……はぁ……アレイ、やっときてくれたか。本当に先に見つけたのがお前で良かったよ」

「ルイ……もしかして、リート達もここに居るのか? 貧民窟に連れてくるのは嫌だって言ってなかったか?」

「その主義主張が曲がるくらいに面倒だったんだよ。おーい、アレイが来たぞー」


 その言葉に、後ろから顔を出すのは久々にあうリートとヒルデだ。


「やあ、アレイ。久しぶり……ちょっと痩せたかい?」

「よう、リート。痩せたかもな……そういうお前は、目に見えて痩せてないか?」

「あはは……流石に冒険にも行けないし、本当に色々と追いかけ回されて大変だからねぇ……ついつい食事も喉を通らなくて……」

「……まあ、ちゃんと飯は食えよ?」


 恥ずかしそうに言うリートにそう突っ込む。何せ、前に見た時よりもかなり痩せている。

 とはいえ、実力が落ちたかというとそんな事はない。むしろ、前に見た時よりも研ぎ澄まされて実力を感じさせる立ち振る舞いとなっている。これは王都から帰ってくるまで経験を積んだ結果なのだろう。


「ヒルデの方は……ちょっと鎧が新しくなったか? 前よりも強そうだ」


 その言葉に頷くヒルデ。鎧は前に見た時よりもちょっと豪華になっている。

 ……なんというか、ルイとはよく話したがこの三人とちゃんと再会したのは久々だ。


「どうも時間が掛かってな……でも、準備は出来たから声をかけに来たんだ。明日の昼にでる予定だけど、準備は大丈夫か?」

「大丈夫だけど……そっちは問題ないのかな? ルイの案内で貧民窟に非難してるけど、正直外を歩いてバレると面倒になると思うんだよね」


 ……そう、ルイ達が隠れていたのは……以前に俺が子供たちを救出に来た時に襲撃した屋敷だ。

 破壊された後に放置されていたのだが、どうやらルイが簡単に修繕をして仮の宿代わりにしたらしい。


「アレイ、集合場所は?」

「ん? 俺の家の前だけど」

「なら大丈夫だ。街の奴らに見られずに移動出来るルートを知ってるからな」


 流石、貧民窟を長い事過ごしてきたルイだ。

 と、そこで不思議そうな顔をするリートとヒルデ。まあ、ヒルデは首をかしげている訳だが。


「どうしたんだ?」

「いや、アレイさんの家ってどこだろうって……馬車が来れるスペースが会って気付かれない場所というと限られると思って」


 頷くヒルデ。

 ……そういえば、二人にはまだ説明してなかったか。


「この街の上にある屋敷があるだろ? アレが俺の家だよ」

「えっ!? 貴族!?」


 リートが驚き、ヒルデも慌てている。


「いや、別にもう貴族じゃ……」

「……あー、これテンパってるから落ち着くまで待った方が良いぞ」

「どうしよう!? 貴族だと、失礼な口をきいちゃったけど大丈夫かな!? それに、ヒルデは貴族って……」


 二人してテンパっている姿を俺とルイは生暖かい目で見守るのだった。

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