第140話 ジョニーと今後の計画と

「こんにちわ……げ」


 入った瞬間に思わず呻きが零れてしまった。


「やあ、いらっしゃい……もしかして、アレイくんが来るタイミングを狙っていたのかい?」

「いえいえ、偶然ですよ。むしろ、良い所に来たものだと驚いていますよ」


 ストスの店に入った俺を出迎えたのは店主のストスと……借金取りの二人だった。和やかな談笑をしている空間だったが、どこかピリピリとした空気を感じるのは気のせいではないだろう。

 ……とはいえ、借金取りと一度は話をしておかなければとは思ったいた。不意打ちのタイミングで話をしたい相手ではないが、それでもタイミングが良いのか悪いのか……お膳立てをされたなら話をするべきだろう。

 と、逡巡している俺にストスがすぐさま椅子を用意して座るように促していた。


「……どうも。それで、何の話ですか?」

「まずは最初に感謝ですかねぇ。吸血種の里の件に関しては、アレイさんも尽力ありがとうございました。ラトゥさんにも伝えましたが、おかげ様で今回の吸血種の方とお話をした結果、中々に面白い販路が生まれましてねぇ。結果的にはティータさんの暗殺も防げて、更には王都での勢力も変わり、吸血種の里との繋がりもとメリットが大きかったんですよ」

「……あー、そりゃ良かったですね」


 どうやら、借金取りも借金取りで色々と行動を起こしていたらしい。まあ、それが商売に繋がるというのはどういう経緯なのか分からないが。

 にこやかでご機嫌そうな借金取りは事実、機嫌が良いのだろう。普段よりも身振りが大きい。


「これも、アレイさんが粘った結果ですので感謝を伝えたいと思いまして。色々とあるんですが、最初にこれを言おうと思いまして。いやあ、吸血種とのコネなんて真っ当な手段で手に入る事なんてないので本当に助かりました。」

「いや、俺は俺のためにやってたんで……別に、感謝される理由はあんまりないですから。別にいいですよ」

「お礼なんてタダですからね。言って損はないですから、とにかく使うべきタイミングでお礼は言っておくと得ですよ。お礼を伝えた分、相手の心情的にはそれなりの価値が生まれてますので」


 そんな風にケロッと言う借金取り。

 ……まあ、それはそうなのだが。なんとも身も蓋もない事を言うものだ。


「とはいえ、アレイさんにそれだけで済ませるには、あまりにも報酬との釣り合いが取れていませんので……ちゃんとした報酬もあります」

「報酬?」

「ええ。まずは今回の騒動でのアレイさんの治療費。そして、吸血種の里へと行ってティータさんの治療方法を探すために掛かる様々な費用を全てこちらで持ちましょう!」

「おお……! それは普通に助かる」


 心の底から嬉しい。最悪、自分でなんとかする方法を考えなければいけない所だった。

 まず、旅をする上で金は掛かる。更に、ティータを連れていく事を考えればただ普通に運んでいく事は出来ない。それこそ、病人を厳重に運ぶような手段が必要となるだろう。

 資金的にも、ツテの問題もある。はっきり言えば、妖精種の里へ連れて行くためにどうするのかというのは完全に考えていなかった。最悪、ラトゥ達に相談して頼むのも手ではないかと考えていたほどだ。それを全面的に借金取りに任せられるのなら願ったり叶ったりだ。


「とはいえ、少しだけ条件というかお願いがあります」

「条件?」

「ええ、今回の旅には私も同行しようと思うのですよ。妖精郷とやらには行く予定はありませんが吸血種の里には少々用があるので、そこまで一緒に行きます」

「……まあ、その程度なら」

「いやあ、助かりました。護衛の手間や費用なども考えると、こういうタイミングじゃないと面倒なんですよねぇ」


 ……なるほど。

 ついでに、俺達を護衛代わりにすれば高いのは高いが結果的に安く済むという訳か。無駄の無い話だ。


「では、手配を進めますが……ティータさんを運ぶためには色々と準備がいりますので、そうですね。最短でも一ヶ月は待って貰うことになります。何せ、この街へやけに冒険者達がやってきたせいで色々と手配をする手間なども掛かりますのでねぇ」

「まあ、そうですね……それは分かりました。最短で一ヶ月ですね」

「ええ。準備が完了したら、屋敷の方へ顔を出します。それまでは色々とこの街での用事を済ませておいて盛られれば。では、私はここで失礼します」


 にこやかな笑顔を浮かべ、そのまま去って行った

 ……残された俺はストスに話しかける。


「……えっと、借金取りはストスとは何を話してたんだ? さっきまで俺の用事だったけど」

「ああ。まあ口止めはされてないから言うけど、フェレスがしばらくは不在になるからこっちでやる事を色々と詰めていたんだよ。子供たちに頼んでいた仕事も一段落したからね」

「あ、そうなのか……いや、そうだよな」


 借金取りが子供たちに頼んでいたのは、例のティータに関する情報を回収する目的だった。

 一段落したので、そちらの捜索などは打ち切っても良いと考えているのだろう。


「まあ、どうせ一時的な仕事だったからね。子供たちもここらの治安が安定するまでは仕事を定期的に貰えて幸運だったろうね。とはいえ、こう言って不安定な仕事に頼り切りになると今後が大変だから丁度キリが良いタイミングだったろう」

「でも、いきなり仕事が無いってなると大変じゃないか?」

「別に気にする事じゃないよ。子供たちだって、貧民窟で生きている以上は覚悟はしてるだろう? 慈善事業じゃないんだ。それに、貧民窟に生きるなら運に頼って生きてたら勘違いして死ぬ可能性の方が高いからね」


 ……まあ、そうだな。

 言わば、色々と積み重ねやら付き合いで子供たちに肩入れしていたが、本来なら下手に手を貸してしまうべきじゃない。お節介とは言わないが、俺も顔を出しているが何かを手助けするのは良くないだろう。


(まあ、何が変わるって訳じゃないが)

「それで、アレイくんはどういう用事かな? 元々、別件でこっちに来たんだろう?」


 と、ストスに言われて思い出す。


「そうだった。おかげで魔具を使ってなんとか暗殺者に対処を出来たからお礼を言いたくて。ありがとう、見繕ってくれた魔具も完璧だった」

「ほう、それは良かった。君から譲って貰った魔具に関しては少々価値の釣り合いが取れていなかったからね。流石に、魔具に対して嘘は吐きたくないのでこれで役立たずだった時のことを考えていたが……役に立ったなら良かったよ」


 そう言ってから、思い出したように俺に何かを差し出すストス。

 それは、以前に渡した……というか、取引で売ったはずの宝剣だ。


「……これは? 俺が売った宝剣?」

「うん。君はこれから妖精種の里に行くんだろう?」

「ああ」

「なら、それが役に立つだろう? 魔種に対して、魔力を封じる魔具は本来の性能以上に有用だ」


 ……突然の提案に困惑する俺に、苦笑していうストス。


「なに、フェレスから必要になるだろうという事でそれ相応の品を譲り受けてね。いざと言う時の切り札として持っておくといいよ」

「……そういうことなら。ありがたく」

「それに、コレクションをするよりも使われてこそ魔具は幸福だからね。それがこのタイミングだったんだろう」


 なるほど。確かに、妖精種の里でトラブルが起きた時……この魔具は想像以上の力を発揮するだろう。

 受け取り、店を出て行く俺にストスは笑顔で告げる。


「それじゃあ、健闘を祈ってるよ……新しい魔具と帰ってくるんだよ。今度は同士も一緒にね」

「……ああ、分かった」


 まあ、そりゃそうか。お土産に期待しているとストレートに言われて苦笑しながら俺は店を後にして屋敷へと戻るのだった。

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