第139話 ジョニーは準備を進める
――さて、冒険者ギルドでの馬鹿騒ぎを尻目に外へ出てから、人の波をかき分けて裏路地に入っていく。
周囲を一応確認。間違えて、俺に付いてきている人間が居たら追い返すためだ。貧民窟は俺は今でこそ慣れて住民からもすっかり無視をされるようになった。だが、本来はこんな簡単に入って良い場所ではないのだ。
(まあ、俺の場合は騒動が起きてた時に色々と動いたのと子供たちに懐かれてる事。それにストスがあるからな……)
言わば、触らぬ神に祟りなしとばかりの扱いなのだ。実際、何度か迂闊に踏み込んだお登りさんのような観光客が連れ去れていく場面には何度か遭遇しているので俺が警戒されているのだろう。
実際、外の大騒ぎなお祭り騒ぎとは無縁で静ではあるが、普段に比べるてもゴミも多い。更に、身ぐるみを剥がされたのか何かしらの実験やらに使われたのかボロボロになって転がっている人間もいつも以上に多い。
(確かに、これはルイも心配するだろうな)
子供たちは安定して仕事をもらい、ストス経由ではあるが現状は守られているとはいえ馬鹿な事を考える奴は決して少なくないだろう。
子供たちのアジトに顔を出すと、アジトの前で見張りをしていたらしい子供が俺を見て目を輝かせる。
「アレイにーちゃん! 来たんだ!」
「よう。元気にしてたか?」
「うん! 皆呼んでくる!」
呼びに行った子供を待ちながら、少し物思いにふける。
ティータが元気になったら、俺はどうするか。冒険者を続けるだろうが、ティータを一人にしたくない、連れて行くわけには行かないが、この広い世界を見せてやりたいという気持ちもあるのだ。
借金が無くなった後の目標も問題だ。燃え尽き症候群みたいにならないかの不安もある
「アレイにーちゃんー!」
「ひさしぶり! 元気だった!?」
「暇だから遊んでよー!」
「おう、久しぶり。あんまり元気じゃなかったけど今は大丈夫だぞ」
相変わらず元気な子供たちに囲まれる。顔ぶれは変わらないが、ちょっと背が伸びたり顔が大人びてきただろうか? こうしてみると時間の経過を感じる。
……そういえば、ティータはあまり見た目の変化がない。恐らく妖精種である事も原因の一つなのだろうか? そんな事を考えて待っているとと
「運んでた奴、あれ最後の奴は持って帰ったよ!」
「ルークがちゃんと連絡しろって怒ってたよ!」
「今日も運んだけど、もう必要ないのー? 余ってる奴はこっちで食べてるけど」
「……あ」
……そういえば、街に出るのを控えるために指定の地点に荷物を置いて貰っていたのだが……俺がぶっ倒れてからは忘れていた。
今までずっと持ってきてくれていたのか……本当に申し訳ない気持ちになる。何せ、わざわざ危険を冒して俺のために運んでくれているわけだ。今度にお礼をしておくべきだ。
「忘れてたの!?」
「悪いんだ! 酷いんだ!」
「あー、悪い。ちょっと俺が寝込んでたせいでな……その事から伝えるのを忘れてた。本当にごめんな。ルークにもちゃんと説明したいんだが……今は?」
その言葉に子供たちが顔を合わせる。
「えっと、出かけてるよ。でも、今ならシリカが居るからルークに伝言は出来るよ?」
「ルーク、他にも色々するから、いつ帰ってくるかわからないんだよねー」
「そうか……なら、シリカに伝言を頼むか。呼んできてくれるか?」
「いいよー」
その言葉に奥まで走って呼びに行く子供たち。
ルイが居ない間、ルークとシリカがこのアジトの仕切り役となっているらしい。前に聞いたら、最年長の子供がリーダーとなって、他の子供たちを纏めるのだ。新しい子供たちが入りたいと行った時に、入れるかどうか。他の貧民窟の住人にどう対処をするのか。そういったことを任されるのだとか。
俺が同い年くらいの時は何をしていたか。学園に放り込まれてクソガキを謳歌していたような気がするなぁ……と物思いにふけっているとこちらに見覚えのある少女が歩いてくる。
「アレイおにーちゃん、久しぶり!」
「よう……シリカ、ちょっと大きくなったか?」
「そうかな? あんまり自分じゃ分からないや」
そう言って、楽しそうに笑う。前に見た時は、シリカはもうちょっと大人しい後ろで怯えている子供だったのだが……
しかし、今はしっかりとしていてすっかり大人びているように見える。やはり、子供たちのまとめ役をしていたから成長したのだろう。
「それで、どうしたの?」
「ルイに頼まれてこっちの様子を見に来たのと、お礼をな。俺の頼みで動いてくれただろ? 感謝を伝えたくてな。ただ、俺がちょっと怪我をして寝込んでたせいでもう大丈夫だって連絡忘れてたんだよ」
「怪我って……大丈夫なの?」
「ああ。今は完治して元気になったぞ」
それを聞いて、良かったというシリカ。
「アレイにーちゃん、いつも無理してるみたいだからね」
「俺は無理はしてるつもりはないんだけどな……ああ。それと、ルイがちょっと忙しくてここに来るのは出来なさそうらしい」
「うん。ルイねーちゃんも大変そうだから仕方ないよね。外が大騒ぎになって、わたし達も外に出るのが大変なんだよね。ご飯を手に入れるためにやっぱり外に出る必要があるんだけど、トラブルになったらわたし達が一番に狙われちゃうからね。ルークも頑張ってるみたいだし」
困った時には貧民窟の人間を犯人にすれば良いというのはよくあることだ。
だから貧民窟の人間は表に出てくる事が少なく、なるべく巣の中に籠もり金やら道具が必要になった時に外から調達をする時だけ外に出てくる……まあ、だから実際に犯人である事も多いのだが。
「まあ、今日は様子を見に来ただけだからな。ルイも結構お前達の事を気にしてるから、何かあったら相談してくれ。なるべくこっちに来るようにする。万が一にはストスにでも伝えてくれたらこっちに話が来るはずだ」
「うん、それじゃあアレイにーちゃんもガンバってねー」
「おう。じゃあな」
そのまま、ストスの店に足を向けながらふと思う。
(……まあ、いつまでも子供って訳じゃないもんな)
冒険に行って何度も死ぬような目に合いながら攻略している間にも時間は経過する。
貧民窟の子供たちも、自分たちだけで生きるために成長していくのだろう。
(ティータも成長したら、一人で生きていくっていうのかね……)
そう考えると、兄としては嬉しい反面ちょっと寂しい気もする。
思春期になれば、お兄ちゃんと一緒はイヤなんて反抗期になる事もあるらしい。
(……そうなると、俺のダメージ凄いな。絶対に崩れ落ちてしばらくは立ち直れないぞ)
なるほど。親馬鹿だのブラコンだの言われる人種がダメージを受けている理由が少し分かった気がする。
そんな、一人で勝手にまだ見ない将来を心配してしまうのだった。
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