第138話 ジョニーと提案と
突然の、動向の申し出に対して戸惑ってしまう。
そんな反応を見せている俺に、ルイは詳しい説明をする。
「吸血種の里に行きたいのは、さっきの説明したオレ達が変に有名になった事も理由の一つなんだよ」
「……っていうのは?」
「まず、近隣の冒険者ギルドに問い合わせて貰ったんだが銀等級冒険者になったオレ達に出せる依頼がないらしいんだ。っていうのも、人が多すぎて依頼が足りないような状態になってんのと、ここ最近はダンジョンが見つかってるわけじゃないから銀等級冒険者向けの依頼もないしダンジョンも目ぼしいのがないらしくてな。そんで、遠くに行くにしてもちょっと目星が付けられてねえのも大きい」
「なるほど。でも、それならしばらく休むっていうのは……ああ、なるほど」
……言ってから気付いた。
そう、ラトゥ達も休んで良いかと思っても出来ない理由がある。
「外に居る追っかけ冒険者共がまだまだ元気だから、それを相手にしたくないって事か」
「そうなんだよ。オレ達も、こっちの冒険者ギルドに帰ってきたら王都に居た時よりはマシになるかと思ったらむしろ道中で人が増えてとんでもない事になってるからな……オレ達も、迷宮に行った時にラトゥの追っかけが退去してた惨状を覚えてたんで、追っかけてきてる奴らを撒くために下手なダンジョンにも行くのは難しいって事で困ってるんだよ。オレ達は面倒だとは思ってるが、別に目立った迷惑行為をしてるわけじゃないから止める事も出来ねえしなぁ……」
確かに、あの追っかけてきている集団を抑制をするには少々難しいか。
何せ、有名な【血の花園】という名前を持ったラトゥ達ですら、追っかけてきていたファンに対しては何かしらの対策をする事が出来なかったのだ。新進気鋭であるルイ達になにかできるわけがない。
(……そういえば、ラトゥ達の追っかけも来てるんじゃないか? ブラドとエリザがこの街に居るって事は隠してるわけじゃないし)
ラトゥ自身は、トラブルが起きた現状もあり場所を伏せて内密に移動した。だが、ブラドとエリザに関しては捜索はしていたが動向は隠していなかった。なので、二人がこの街に来た事でその追っかけも付いてきた可能性がある。
そして、ルイ達の追っかけと合流してこの大騒動というわけか。ルイ達だけにしては人数が多すぎると思ったが納得だ。
「だから、ちょうど渡りに船なんだよ。吸血種の里には、関係者から呼ばれてなけりゃ行く事すら許されないからな。追っかけ共も、命は惜しいだろ。別に所在地が秘匿されているわけじゃない。だが、無礼な侵入者は生きて帰れないと言われてるからな。そこでちょっとほとぼりを冷ましたいんだ」
「なるほど、そういう理由なら俺としては問題ないが……ラトゥ達次第かな」
吸血種の里に出入りをしていいものかは判断が付かない。
だから、ラトゥ達に確認をしなければイエスとは答えられない。
「そりゃそうだよな。まあ、分かったら教えてくれ。オレ達もこの状態が続くと冒険者としての仕事に差し支えるからな……」
「気が休まる時間もなさそうだからな」
「ああ、自由に動けないんだよ。下手な行動をしたり、変な奴と関わるだけで記事にされそうでな」
ルイのその言葉で思い出す。
「そういえば、貧民窟の方は大丈夫なのか? 俺は寝てたから行けなかったけどこの騒ぎだと街の方でもトラブルに巻き込まれる可能性が高いだろ」
「ああ。ちょっとオレも気にしてアレイの所にラトゥ達を連れていったひに見に行ったんだ。その時は大丈夫そうだったぞ。まあ、貧民窟に迂闊に入り込んでトラブルに巻き込まれるアホはいるけど、ガキ共も慣れたもんだからな。こんな時期に街に出る事は無い」
「……まあそりゃそうか」
あの危険な貧民窟出方を寄せ合って生きている子供たちが、そんな見えている地雷を踏んだりはしないか。
外からのトラブルが持ち込まれるわけでもないからな。
「それに、どっかのお人好しが定期的に様子を見に来てたらしいからな。アイツらもすっかり安心してたよ。わざわざ危険を冒して確認しなくても、来てくれるのが分かってるってな」
ニヤニヤと笑みを浮かべてこちらを見るルイ。
……ちょっと気恥ずかしい。俺がルイの居ない間にずっと子供たちを気にしていたのが見透かされているのも含めて。照れ隠しでぶっきらぼうに答える。
「まあ、子供たちが大丈夫そうなら良かった」
「……とはいえ、オレも今がこんな状態だから貧民窟に見に行けないんだよ。だから、帰りに余裕があったら見てきてくれるか?」
「ああ、いいぞ」
元からその予定だったからな。
……と、そこで不満げな顔を浮かべるルイ。
「……どうした?」
「いや、思い出してムカついてる。オレが久々に顔を出したらアイツら、一瞬オレのこと分からないみたいな反応したからな……アイツらのアジトの近くに行ったらガキ共が最初にアレイの名前を呼んで飛び出してきたのはちょっと寂しかった」
「まあ、随分と帰ってきてなかったからな」
……俺が顔を出し過ぎた気もするが。
「まあ、お前も一段落したら貧民窟に顔を出せば大丈夫だろ。子供たちもルイが帰ってくるのは楽しみにしてたからな」
「つっても、しばらくは貧民窟に寄れねえんだよな……あー、色々とガキ共に色々としてやろうと思ってたんだけどな。有名になっても良いことばっかりじゃねえな」
そんな風にぼやくルイに同意する。
「全くだな。出来れば、平穏な冒険者生活を送りたいもんだ」
「まあ、冒険者に平穏なんてもんはねえけどな」
「そりゃ違いない」
そう言って笑って、話が一段落する。
……と、何故か足音を殺しながら立ち上がったルイ。そのまま扉の近くに気配を消して歩いて行く。
「んじゃ、話はこんなもんか。オレ達を連れていってくれる件については話聞いておいてくれよ」
「分かってるって」
俺に、気付かないふりをしておけと視線で指示を飛ばしたので従っておく。
そして、突然ルイが扉を乱暴に開き。
「きゃあっ!」
「うおっ!?」
「ぐあっ!」
……まずは見覚えのある女の子の冒険者。その次にゴーリー。更にエルフの冒険者。扉の前で耳を付けて会話を聞いていたのか勢いに負けてなだれ込んでくる。
その後ろで、受付嬢さんがやっぱりとでも言いたげな表情で立っていた。
「バレてましたかー。流石にやりすぎでしたねー」
「……お前ら、言い訳を聞かせて貰うぞ?」
「ま、待て!」
と、ゴーリーが弁明をする。
「俺は止めてたんだ! この二人がそれでも辞めなくてな!」
「あ、ズルいわよ! アイツがデキてる疑惑を確かめようって言ったんでしょ!」
「はぁ!? なにを言ってんだ! そこのデカブツが言い出したんだろ!」
……弁明ではなくて醜い責任の押し付け合いが始まった。
ルイも、笑顔で見守っている。まあ、あれは嵐の前の静けさだろう。それに気付いた3人が助けを求めるように受付嬢さんを見る。受付嬢さんは、その視線を受けて笑顔で答えた。
「あー、ルイさんー。衆目の目がありますのでお仕置きならその部屋でお願いしますねー」
「裏切られた!?」
「おう。んじゃ、ちょっと入れお前ら」
そう言って俺の代わりに室内へ連行される3人。
「……まあ、頑張れよ」
「まて、アレイ! たすけっ――」
そのまま扉が閉じられた。
……バカだなぁという感想を抱きながら、それでも束の間でも日常に戻ってきたと思うと嬉しくなるのだった。
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