第137話 ジョニーと久々の邂逅

 それは、以前にも使った依頼を受ける時に使うような防音された部屋だ。


「じゃあ、呼んできますねー。座ってて待ってくださいね?」


 そう言って、俺は通された部屋の椅子で座って待つ事になった。

 ……さて、呼んだのはルイだろうか? もしかすると、リート達全員が俺を呼んだ可能性もある。どちらにせよ、ここまでしないと話をするのにも苦労するというのは本当に有名税というのは高いものだと他人事のような感想が出てしまう。


(……もしかして、俺が銀等級になるのを遠慮して譲ったことに対するクレームとかじゃないよな?)


 お前が押しつけたせいで、こっちに色々と面倒な奴が来てしまったじゃねえか。みたいなことを言われないだろうかとあらぬ不安を抱いてしまう。話が読めない段階での待つ時間はどうしても色々な想像をしてしまう。

 リートはそんなことは言わないだろうが、ルイは普通に言いそうな気がする。ヒルデは……まず喋らないから論外か。まあ、ルイが言うとしても冗談半分ではあるだろうが。


「――アレイ!」

「ああ、ルイ……うおっ!? なんだ!?」


 ルイが部屋の中に駆け込んで、俺の顔をベタベタと触る。突然の行動に呆気にとられて碌なリアクションが出来なかった。

 抵抗しようかと考えたが、ルイの表情は本当に心配そうな顔をしていて、これも真面目な理由でやっているのだろう。なので、仕方なく好きにされる。


(……いや、長いな)


 随分と念入りに確認された気がする。そして、終わったのかルイは深いため息を吐いた。


「……どこも怪我はなさそうだ……はぁ、良かった。ちゃんとアレイが生きてる」

「勝手に殺さないでくれ」


 俺の正面の椅子に座ったルイは、そう答えた俺をジトッとした目で見る。


「お前、オレと会った時にとんでもない勢いで蹴り飛ばされて昏睡したの忘れたのかよ。あの後、目が覚めないとか言われるから正直、マジで心配してたんだぞ。お前、自分のことだから分からないだろうけどあの時、ブラドだったか? 俺は本気で敵かと思って攻撃する寸前だったぞ」

「……そんなことになってたのか? というか、そういえばルイはあの現場にいたから多少は知ってるのか……」


 まあ、傍目から見ればブラドは俺を狙った刺客にしか見えないだろう。客観的に見ても、半月も昏睡するような一撃を加えたという事実だけでも味方にはどうやっても思えないな。


「でも、詳しいことは知らないからな。ラトゥに聞いても、アレイからじゃないと教えられないことが多いからって言うんで、聞けなかったんだよ。だから、説明してくれるか? 何があったのか」

「あー、どこまで説明すれば良いか……結構面倒な事情が絡んでてな。説明がしづらいんだよ」

「言える分だけでも言え。オレだってお前が面倒そうな事に巻き込まれて気にしてんだからな。多少はオレを頼れ」


 ……そう言われると弱いな。

 ならばと、俺はルイにあの屋敷で何が起きて、どんな戦いをしてどういう経緯があったのか……伝えれそうな部分だけを話していく。



「――というわけで、目が覚めた俺はティータの病気を治すために隠れ里みたいな場所があってな。そこに行くためにラトゥ達の生家がある吸血種の里へ向かう予定なんだよ」


 説明が終わった当たりで、ルイは呆れたような顔をしていた。


「……なるほど……いや、オレ達も銀等級冒険者になってから変な騒動に巻き込まれるわ、冒険者共のおっかけで苦労するわで大変だったけど……アレイはそれ以上に変な騒動に巻き込まれてんだな」

「正直、俺だってもっと平和に過ごしたかったんだけどな……」

「日頃の行いか、そういう星の下なんだろうな。まあ、冒険者である以上はむしろトラブル体質なら名をあげやすいだろうけどなぁ」


 ストレートな感想だが、否定出来ない。そういう星の下なのかもしれないな。

 それはそうと、俺の説明はかなり細部は伝えてない説明ではあるがそれでもルイは納得してくれたようだ。


「悪いな。ちゃんと説明できなくて」

「ん? 気にするなよ。元貴族なんだろ? なら、こっちの想像出来ないタイプの面倒ごとは色々とあるだろうからいいさ」

「分かってくれて助かるよ」

「でもな……」


 そう言ってルイは立ち上がって俺の横に来て……ヘッドロックをかけられた。

 それも、本気で頭蓋骨を砕きそうな力の入れ方だ。着込んでいるらしい鎧の鉄の部分が本気で痛い。


「いだだだだ!?」

「お前、俺を巻き込まねえようにとか考えたんだろうが、変な伝言残したろうが! 面倒な空気になったんだぞこのバカ!」

「ま、まて! そんな変な伝言は残してない!」


 ……俺は別の街に居るとしか言ってないのだが……一体どんな伝言なんだ?


「ほー、じゃあ聞いて判断してみろよ。リートとヒルデとオレが冒険者ギルドに入るなり、お前の担当の受付嬢と他に数人の受付嬢から囲まれてな! お前からの伝言だって言われて、「ルイさんと深い関係……あ、間違えました。ルイさんの友達のアレイさんから伝言です。『しばらく帰れないから、寂しいだろうけど我慢してくれ』との事でしたよ。ふふふ」とか言われる気持ちが分かるか!? そのちょっと前にお前がぶっ飛ばされて死にかけた場面を見た直後だぞ!?」

「……あの人はよぉ! それは、完全に誇張してるからな!」

「だろうな! ちゃんと釘を刺さないお前が悪い!」


 ……俺がこの街に居ないという情報だけ伝えれば良いという意味で受付嬢さんに伝言を任せたのが間違いだった。隙を見せた俺が悪い……とは思いたくないな。俺は悪くないと思うんだが。

 た分だが、賭けで自分が儲けるために俺からの伝言を捏造したんだろうな。あの人。


「すまん、受付嬢さんに釘を刺さなかった俺が悪かった。そろそろ離してくれ! もう骨が砕けそうだ!」

「……反省したならいい。ったく、まあ事情があるのは分かるけど忘れるなよ。この冒険者ギルド、厄介な奴が多いんだからな」


 ……とんでもない場所だと改めて思う。とはいえ、そのくらい愉快でないと人の死が身近な冒険者ギルドでは暗くなりすぎるのだろう。

 と、息を吐いたルイが空気を切り替える。


「んじゃ、真面目な話の方をするか」


 そんな風に言いながら、自分の席に戻るルイ。


「真面目な話っていうと?」

「まず、こっちの近況からだ。今回のやけに人が多い理由なんだが……銀等級冒険者になった後に、王都で面倒な事件に巻き込まれたんだよ。それはなんとかしたんだが、そのせいで変に話題になっちまってな」

「話題にって……そんなデカい事件だったのか?」

「ああ。まあ、王都で誘拐事件が発生してな。それで、偶然浚われる現場に居合わせた俺達が犯人達を追いかけたんだが……まさか、その誘拐されたのが王族だとは思わなくてなぁ。んで、その誘拐犯っていうのも話題になってた賞金首の犯罪者集団だったんだよ。それが原因で帰るのが遅れたんだよ」


 ……なるほど。それは話題になるな。

 王族を助け出した新鋭の銀等級冒険者。そして、賞金首の犯罪者を相手に大立回りをしたのならそりゃあ話題になるよな。


「なるほど……そっちも凄いな。王族絡みなんて新聞の一面になっただろ」

「そのせいで、王都を出るまで常に誰かしらがオレ達に色々と話しかけてきて大変だったんだぞ。見世物になった気分だよ」

「そりゃ、ご苦労だったな」


 物珍しいのもあるだろうが、王族を救出した冒険者はそれこそヒーローみたいな扱いになるだろう。

 ……とはいえ、まだ本題には入っていないようだ。


「んで、本題はなんだ? 世間話で終わりって訳じゃないだろ?」

「ああ。この場で内密な提案があるんだけどな」


 そして、身を乗り出すルイ。


「次にアレイがラトゥ達と行くって言ってた吸血種の里……そこに、俺達も連れて行ってくれ」

「……なんだって?」


 予想だにしなかった、とんでもない提案をしてくるのだった。

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