第136話 ジョニーと祭りの渦中
「……結局、話さなかったな」
「悪い悪い。でも、俺から言ったら本当にヤバいんだよ。俺だって命は惜しいんだって」
色々と問い詰めたが、ゴーリーから何も聞くことは出来なかった。
これ以上時間を無駄にするのもよろしくないという事で、ここで話を終わらせて入る事に。
「ああ、そうだ。アレイ」
「ん?」
「中に入るけど、ビビるなよ?」
「……何があるんだよ」
そんな不穏な言葉に嫌な予感を感じながら、俺はそのまま冒険者ギルドの中に入り……そして、思わず圧倒される。
「質問は一人に一つだけですよー! 列になってくださいね! 詰め寄らないでくださいねー!」
「そこの人! 勝手に販売しないでください! 冒険者ギルドの中では許可の無い売買は禁止ですからね!」
「はいはい! ギルドに用事がある人はこっちで受け付けますのでこちらにどうぞー! 不便をお掛けしますが、協力をお願いします!」
「ちょっと! トイレはこっちですから! ズボンを脱がないでください!!」
……まるで戦争かと思うくらいの騒動だ。外の喧噪も確かに凄かった。だが、冒険者達が所狭しとぎゅうぎゅう詰めになっている光景はこのまま回れ右して帰りたい気分になる。
見れば、今までに見覚えのない冒険者達も多く居る。さらに、中には冒険者とは見えないようなパリッとした服を着た男達や、何らかの商店を経営しているらしい人間達もいる。
その惨状に、思わず俺はゴーリーに質問をする。
「……これ、どうなってんだ?」
「あれだよ。リート達が帰ってきたんで、興味本位で詰めかけてる連中だな。まあ、そりゃ俺達は多少知ってるからゆっくり聞けば良いとは思ってんだが……外から来たような冒険者達からすりゃチャンスがいつ来るか分からないってことで、こうして押しかけてんだよ。あいつらは冒険者の定石よりも少ない3人チームで、全員が人間で魔種不在のままとんでもない速度で銀等級冒険者に成り上がった新人だからな。コツの一つでも聞き出せれば最高ってもんだろ。それに、王都でもアイツら面白い騒動に巻き込まれて解決したらしいから非公式のファンクラブなんてもんもいるらしいぜ」
「へえ、その王都の騒動ってどんな事があったんだ?」
「いや、知らん。又聞きだから騒動があったことだけは知ってるんだ。なにせ、数日前からずっとあの状態だからなぁ。俺達も聞けてねえんだ。疲れてるのにわざわざ時間取るのも可哀想だろ?」
……数日前からあの状態なのか。
有名税というのは仕方ないとは思っていたが……流石にここまでとは思わなかった。思わず同情してしまう。
(……そういや、ラトゥ達もファンだのがわざわざ大集合してたよな。銀等級冒険者で、話題性があるとこのレベルの騒動になるのか)
活躍をしている冒険者自体が、衆目の目を集めて人気が出たりすると考えるとこの騒ぎも当然か。
……しかし、折角だから話でもしようかと思ったのにその機会は作れなさそうだ。
「ルイ達と話でもしようかと思ったんだけどな」
「まあ、今日は諦めて良いんじゃねえか? 流石にあの中に割って入るのは――」
「召喚術士さーん」
と、そこで聞き覚えのある声で呼ばれる。
……まあ、誰かは分かってる。
「受付嬢さん、アレイです」
「ゴーリーさんと一緒とは珍しいですねー。それで、今日はどんなご用事でー?」
「いや、ルイ達と話でもしようかと思ったんですけど……この様子なんで、出直そうかと思って」
というと、ニコニコと笑みを浮かべる受付嬢さん。
「そういうと思ってましたー。では、こちらへどうぞー」
「えっ」
「先約ですからねー」
そういって、受付嬢さんは俺の手を引いて奥の部屋へ連れて行こうとする。
しかし、バンシーも連れていって良いのだろうか? 聞いてみる。
「あ、バンシーは……」
「召喚獣さんですか? んー、どうしましょうかね。アレイさんだけなんですよね、こっちの部屋に呼び出せるのは。送還して貰うしかないかなーと」
「あ、それなら私はいったんお屋敷に戻ってます。ちょっと、やりたいこともあるので」
と、バンシーがそんなことを言う。
「やりたいこと?」
「はい。ただ、アレイさんのサポートが出来ないのは申し訳ないですけど……」
「いや、大丈夫だ。ここまで来たら多少は調子も戻るからな」
しかし、やりたいこと……か。
「バンシー、気をつけろよ。無理をしたらダメだからな」
「はい、分かってます。アレイさんも無理をしないようにしてくださいね」
そう言って、頭を下げて冒険者ギルドを出て行く。
……逆に気を遣うようなことを言われてしまった。バンシーのことだから、そこまで無茶をしないだろうが。
「そろそろ良いですかー?」
「あ、分かりました。それじゃあ行きましょうか……ところで、また俺を使って賭けしましたよね?」
「えー、何のことでしょうかねー? 誰から聞きましたー? ゴーリーさんとかですかー?」
すっとぼける受付嬢さんだが、どうやら図星な様だ。背後で違うと叫ぶゴーリーの声にこれ以上追求をするのは可哀想なので辞めておく。主にゴーリーが。
……まあ、また何らかの形で受付嬢さんにはお返しさせて貰うか。そう心に決めるのだった。
――アレイと別れて帰ってきたバンシーは屋敷の庭にやってくる。
そこには、いつものように一人で魔力を使って魔法を使っているジャバウォックが居た。バンシーの気配に気付いて、そちらを見る。
「ふむ、バンシーか。アレイはどうした?」
「アレイさんは用事があったので、冒険者ギルドで別れてきました」
「なるほど。それで、我に何の用だ?」
単刀直入なジャバウォックの質問に、バンシーは答える。
その表情は、アレイの前では見せなかった強い感情……それは、執着とも呼べるような黒い衝動の籠もった表情だ。
「……私は、強くなりたいんです」
「ほう」
「ずっと、召喚術士さんには迷惑をかけて……だから、私が強くなるにはどうしたらいいのか考えて……それで、貴方を頼ろうと思ったんです。貴方のせいで、酷い目に合ったから嫌いです。でも、貴方が唯一頼れる相手なんです」
バンシーの記憶は、あの咆哮を操る強大な竜の姿。
モンスターである己が、どうすれば強くなるのかは分からない。だからこそ、同じモンスターであり圧倒的な強者であるジャバウォックを頼るという発想になった。
「だが、我は教えるという行為はしたことはない。お前が強くなる方法は知らぬぞ?」
「それでもいいんです。手がかりなんてないんです。なら、何だって利用します……召喚術士さんの役に立つために。竜である貴方から、何かを奪えれる可能性があるならそれに賭けます」
その覚悟を見て、ジャバウォックは面白そうだとばかりに頷いた。
「ふむ……ならば、良かろう」
「……えっ、いいんですか? こう、提案してなんですけど……」
「我もまだ完全に体と力が馴染んでおらぬのでな。召喚術士を頼ってもこればかりはなんともならん。故に、死んでも消滅しても何とでもなる召喚獣は丁度良いからな。そちらも遠慮をしないというのであれば、むしろ最適な相手だ」
それは、ジャバウォックの力を馴染ませるために死ぬような被害が及ぶという宣言だ。
その言葉でも怯むことなくバンシーは真っ直ぐに見つめて頷く。
「……分かりました。例え消滅するとしても、強くなる切っ掛けが見つかるなら私は構いません」
「では、交渉成立だな」
「はい」
覚悟を決めたバンシーを見てジャバウォックは笑みを浮かべるのだった。
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