第135話 ジョニーと街の様子と

 屋敷を出てから、街を歩いて思わず呟く。


「……本当にお祭り騒ぎだな」

「ですね。こんなに人がいっぱい居る場所は初めて見ました」


 ブラドが過度のストレスによって倒れてしまったので、介抱するためにラトゥとエリザはいったん連れて帰るという事になり、そのまま真面目な話をする空気ではなかったのでいったん解散になった。

 そして、手持ち無沙汰になった俺は冒険者ギルドに顔を出そうと思って屋敷を出てきたのだが……


「……」

(……バンシーが静かすぎて気まずいんだよな)


 まだ病み上がりな事と、常に召喚をして魔力を扱う訓練をするためにバンシーを召喚して連れてきたのだが……


「…………」

「…………」


 今までなら、もっと目新しい光景にバンシーは興味を持って色々と話をしたのだが空気が重たい。どうにも、この前の襲撃の際に途中で力尽きて送還されたことを気にしているようだった。

 先程から、俺の顔を伺うようにチラチラと見ている……まあ、流石にこのままで居るわけには行かないので俺から声をかけるべきか。


「なあ、バンシー」

「は、はい。なんでしょうか」

「この前の、襲撃のことを気にしてるのか?」

「……はい」


 力無く頷く。

 やはり、予想通りか……バンシーは元々真面目なのだ。それに、役に立ちたいと言っていた。なのに、自分が役立てなかったことが重荷になっているのだろう。


「あんまり気にするな。お前に負担をかけていたのを忘れてたのは俺の責任だ。だから、俺が悪い」

「……いえ、私がもっとお役に立てるはずだったんです……そのせいで、また召喚術士さんはまた生死の境を彷徨うような羽目になってしまって……」


 そう言ってバンシーは顔を伏せる……バンシーという種族は、元々悲観的な傾向がある。これは種族としての特性みたいな物だ。だが、フェアリーから進化したことで性質がバンシーらしかぬ状態になっていたのである意味はこちらの方が正しい在り方なのだろう。

 とはいえ、こう凹んでいる状態が続くのは良い傾向ではない。あと、ツッコミ所としては……


「……落ち込むのは仕方ない。だけど、役立たずなんて事は無いさ。バンシーの不調も、召喚をし続けたら治るかもしれない。もっとプラスに考えて行けばいいさ。ティータのために妖精郷に行くまでは時間があるんだ。そこまでに、どうにかすればいい」

「はい……そうですね」

「あと、俺が死にかけたのはブラドのせいだからあんまり関係ないぞ」

「えっ……?」

「勘違いで俺がアイツに本気で蹴り飛ばされたのが原因なんだよ」


 困惑しているバンシーだが、俺の本気の表情に引きながら納得したようだ。一旦はこれでいいだろう。

 俺にとってバンシーは大切な戦力なのだ。だから失敗を引きずってしまい、そのまま悩みこんだ結果でパフォーマンスが落ちてしまうのは避けたい。

 このまま、バンシーを考えさせすぎないように連れ出す方が良いと考えて、俺はバンシーの手を引く。


「じゃあ、そろそろ冒険者ギルドに行くか。まだ本調子じゃないから、バンシーも頼りにしてるぞ」

「は、はい! 頑張ります!」


 ……ちょっとまだ元気はなさそうだな。

 そう思いながら、人混みの中に飛び込んで冒険者ギルドへと向かうのだった。



 人混みが普段とは比べものにならない程の規模だ。なにせ、こうして歩いているだけで肩がぶつかるほどに人野波が大きいのだ。さらに、そんな人に売り込もうとそこらで露店が開かれている。価値がありそうな魔具から本当に役に立つのかと思うようなゴミまで様々な物が並んでいる。

 酒場や食事処も、ゆったりとしている普段と違って行列が出来、戦争かと思うほどに忙しそうに店員が走り回っている。なんと、行列に並んでいる人に対して屋台を引いて売り込みに行くような人間までいる。なんとも混沌とした状況だ。


「商魂が逞しいな」

「あれって、怒られないんですか?」

「まあ、普段だったら怒られるだろうけど今は店も回ってないからな。今日だけは目こぼしをされてる感じだろうな」


 街を歩く警備の人間も普段よりずっと多い。それでも人混みに上手く行動が出来ていないようだ。大きなトラブルでもなければ動けないだろう。


「だからバンシー、はぐれないように――」

「あわわ、と、通してください……!」


 ……バンシーは早くも人混みに飲まれてしまった。

 助けに行くかと歩き始めるが、人混みのせいで俺も自由に動けない。


「バンシー、こっちだ」

「は、はい……あわわわわ」


 既に人混みで目を回している。押しのけてこっちに来れないらしい。

 どうやってバンシーを呼び戻すかを考えていると……バンシーは誰かにぶつかる。


「きゃっ!? ご、ごめんなさい」

「おっと、嬢ちゃん。大丈夫か? なんか困ってそうだな」

「あっ、えっと……はぐれちゃって……」

「そうか。この人混みだからな。んじゃ、俺が先導してやるよ。図体がデカいから俺には楽なもんだからな。それで、誰が連れなんだ?」

「あー、こっちだ」


 俺の声に反応して、その男はこちらを見て驚いた表情を浮かべた。


「……アレイじゃねえか!」

「ああ。久しぶりだな。えーっと、名前は……」

「そういや、自己紹介してなかったな。俺はゴーリーだ。いやあ、最近顔出さねえからどうしたのかと思ったぜ」


 賭けの時だったり、俺に話をしてくれた強面の冒険者だった。

 バンシーを連れて俺の元にやってきて、少し通りからズレて話をする。


「しかし……アレイ、お前はまた女連れかよ! クソ! 顔か!? 顔なのか!?」

「いや、そいつは俺の召喚獣だよ」

「は、はい。バンシーです」


 その言葉に、バンシーの顔を見ながらぼそりとゴーリーは呟く。


「……俺も、召喚術士になるべきか……?」

「そういう職業じゃねえぞ。あと、普通に見た目がモンスターな仲間も多いし」

「そうか……そう上手い話はねえよな……んで、今日はどうしたんだ?」


 そんなツッコミをしながらも、ゴーリーはそんな風に聞いてくる。


「いや、冒険者ギルドに行こうと思ったんだが思った以上に人が多くてな。バンシーが人混みに飲まれてなぁ」

「まあ、この人の量だと面倒だろうな。まあ、俺が先導すれば簡単にいけるから付いてこい」

「いいのか?」

「ああ。折角だからな。俺も冒険者ギルドに行く所だったからな」


 その言葉に甘えて、ゴーリーの後ろについていく。

 ……なるほど。人混みが避けていく。ゴーリーの凶悪な面とガタイの良さのおかげで、他の通る人間が警戒をしてしまうのか。本人からすればちょっと悲しいだろうが。


「しかし、露店は面白そうだな」


 色々と並べている店を見て居ると、つい買いたくなる。

 しかし、そんな俺にゴーリーは忠告する。


「まあ、見る分には良いが買うなら露店には気をつけた方がいいぞ。騙されても普段と違って取り返したりすることが出来ないからな。それに、殆どはスカだぞ」

「そうなんですか……? 掘り出し物とかありそうな気もするんですけど」

「見つかる可能性を考えるなら、適当なダンジョンに潜った方がマシだろうな。ロマンだけはあるがな」


 バンシーの質問に答えるゴーリー。

 露店で売られている魔具やらは、売れない物を在庫処分とばかりに売っているものが多い。まあ、良い魔具を見つけられる可能性はそれこそ宝くじを買うような物だろう。


「さて、そろそろ到着だ」

「ああ。案内ありがとうな」

「気にしなくていいぞ。なにせ、この前は大儲けしたからな!」


 ……ん?


「なあ、お前……俺に関する賭けをしたのか?」

「あ」

「あ?」


 ……俺は冒険者ギルドに入る前に、迂闊なことを言ったこの男を問い詰める事から始めるのだった。

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