第133話 ジョニーと次なる行き先と
客間に通された俺とエリザは椅子に座り、ラトゥは横の椅子に座る。ブラドは立って横で見守っている。
そして、エリザは話し始めた。
「――さあ、こうして話すのも久々だね。それで、君が眠っている間に僕も許可を取った上で色々と調査をさせて貰ったよ。それで分かった結果に関して色々と君にも共有させて貰うね」
「ああ。頼む……変な事はしてないよな?」
「いやあ、好き勝手するにはちょっとラトゥの視線が厳しくてね。それがなければ、君の体も好きに調べてみたかったんだけどなぁ……」
じっと俺を見つめるエリザ……その目はキラキラと輝いて研究対象を見るようだ。
……色々と調査に含まれている情報がとんでもなく多そうな気もするが、研究者肌の冒険者の情報は色々と有用なのでそういう意味ではありがたい。
(まあ、マトモじゃないからこそ結果は疑う必要が無いからな)
理論を作り上げた上で、それを自分の手で試すために実証と実践と繰り返す。
単なる戦闘中毒な冒険者を超える狂人といえるタイプだ。世が世なら世界を揺るがす犯罪を犯すような可能性があると立場を追われるだろう。
「まず、妖精種である君の妹を診察させて貰ったけども……確かに、こうして見ると妖精種というのは不安定な生物だね。魔力によって体を維持しているのだけど、肉体と呼べる場所が普通の生物に比べると圧倒的に少ない。魔力によって擬似的な肉体を形成しているけども、かなりあやふやな物だったよ。まあ、相当に精査しないと違いなんて全然分からないけどね」
「……それでも、俺の妹だ」
「まあ、そういうのは本人の自覚次第だと思うよ。どちらかと言えば、どこまでがモンスターでどこまでが人間なのか……っていう難しい話の方になりそうだけどね……んー。もしかして、あの妖精種を腑分けにしたり実験すれば、どこまでが人であるかっていうのも分かるのかな? ……ああ、ごめんごめん」
その言葉に、俺が不快に思ったのが分かったのか謝罪をするエリザ。
……いや、背後からも俺以上の怒気を感じる……イチノさんが怒っているのか。背中越しでも怖い。
「まあ、関係ない話は置いておくよ。で、妖精種はそういった生物としての在り方が曖昧だから肉体を魔力で無理矢理繋ぎ止めているんだね。だから、ラトゥ達が持って帰ってきた吸血種が衝動で正気を失った時に使うような魔具を幾つか使ってみたら、妖精種の子の体調は一時的ではあるけど安定したわけだ。対処療法でしかないし、未だに魔力は消耗し続けているけども当面は問題無いんじゃないかな?」
「そうか、良かった……でも、なんでそこまで魔力を消耗するようになったんだ?」
「んー、詳しいことは不明だけども……予想なら出来るかな。まず、妖精種が感情によって体調が不安定になるのは肉体が変質しようとしているからだと思うんだよね。妖精種っていうのは、肉体そのものに対する依存度が低いからね。その性質を利用して、まさか血筋そのものをでっち上げるなんていう事を考えるなんて聞いた時には発想の柔軟さに本当に感動したよ。君の家族って凄いねー」
……身内の恥を褒められたが、どう言う顔をすれば良いのだろうか。
そんな複雑な気分の俺は無視して、エリザは話を続ける。
「まあ、そんなわけで肉体の変質による魔力の消耗を防ぐために、こうして隔離した部屋で療養させて外部からの情報を遮断する事で安定させてたんだろうね。後ろのメイドさんかな? その人から聞いた話で考えると、情報の遮断によって致命的な損傷はなかったんだろうね。でも、孤独だったからこそ心が満たされることはなく、体調は良くならなかった」
「でも、俺が来た時にはだいぶ元気になっていたぞ?」
「君の存在が大きかったんだろうね。自分の心の支え……まだ出会ってない、自分の家族が存在する。その人がもしかしたら自分の理想のお兄さんかも知れないという希望が彼女の孤独を癒していた。そして、実際に出会って君が理想のお兄さんだったからこそ、満たされたことで心と体が安定したんだろうね」
――その言葉は、少しだけ俺の気持ちを救ってくれた。
俺の存在が、ティータの一助となっていたのなら……それ以上に嬉しいことはない。
「ただ、そこから恐らくだけど君が原因で体調が崩れたんじゃないかな……妖精種だから魔力の動きには敏感だろうし、成長したことで彼女は本能的に感じ取ったのかもね。冒険者となった君と自分の差異を。離れてる時間も長ければ、久々に会うたびに違和感は大きくなるだろうからねぇ」
「……どういうことだ?」
「多分だけど、現実を知り初めてきたんだろうね。種族自体が違うことは本人に自覚はなくても分かるからね。そして、その違いを自覚してなお『自分の兄と、本当に同じ家族でありたい』と望んだんだろうね。まあ、普通は起きないだろうけど妖精種だからこそ起きる特殊な事例だ。妖精種の性質が、君と同じになろうと変化しようとする。でも、今まで積み重ねたでっち上げようとした血筋などが邪魔をして変化の負荷が大きくなる。それに、彼女は成長しすぎたのもあるかな。もっと幼ければ不安定だった肉体はもっと簡単に再構築出来るけど、今の彼女にとってもう純粋な妖精種と呼ぶのは難しい程に生物として成長してしまっている。いわば、半妖精と呼べるような存在になったんだろうね」
……エリザの話を纏めると、つまりは俺の存在がティータの不調の原因でもあったのだ。
俺がティータの求める兄であったからこそ、ティータは安定した。しかし、親しくなりすぎた結果、俺との差異に気づいた時にその違和感がどうしても認められなくなってしまった。だから、体が無理矢理修正しようとしてしまったのだ。その結果、自分の命を縮めようとしてしまっている。
「……なら、ティータを生かすためにはどうすればいいんだ」
「そう、その手段は分からない。だから、行くんだ! 妖精種達の里へね! まず、対処療法で解決策を見つけたとしても今後再発する可能性は高い。なら、妖精種達から直接聞いてどうすれば良いかを教えて貰うのが一番だろう!」
そういうエリザの表情はウキウキとして楽しそうなものだ。
……まあ、エリザからすれば今まで情報が少なく出会う事すら少ない妖精種と交流できる機会は楽しみで仕方ないだろう。
「まだ、誰も言ったことのない妖精達が暮らす里! ああ、なんという未知なんだろうね! 楽しみでたまらないよ!」
「……本当に、妖精種達から協力はして貰えるのか?」
「どうだろうね。それは分からないよ。もしかしたら、門前払いをされるかも知れないね」
エリザはバッサリと、期待も希望もなく事実だけを告げてくる。
だが、事実だからこそ嘘も何もない信用の出来る言葉だ。
「でも、これ以上の手段はないって分かっているだろう? それに、妖精種は同族や気に入った相手に対しては献身的とも言えるほどに優しいとも聞く。だから、やってみるしかないんじゃないかな?」
「……分かった」
俺は差し出されたエリザの手を取る。
――次なる行き先は決まった。妖精達の住む里である妖精郷……どうなるのかは分からないが、それでもそこに希望があるなら行くしかないだろう。
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