第129話 ジョニーと危機と

「……けほっ……間に合いました」

「……助かった、バンシー」


 音の障壁によって、爆発は防げた。……爆発によって部屋の中がボロボロになっている。しかし、窓は割れず爆音も大して聞こえなかった……いや、これはバンシーによって防がれたからか?


(……いや、何だこの音? 爆音と違うキンキンした音が響いてるのか)


 どうやら、普通の爆弾とは違うようだ。爆音の代わりにこのキンキンとした音が響いて部屋の中で収まっている。暗殺者が使うための爆弾といったような物か。

 ……しかし、爆弾を利用するような手段をとるとは思わなかったので虚を突かれた。


「バンシー。今、敵はどこに居る?」

「えっと……ご、ごめんなさい。爆発の影響か音がよく聞こえなくて……」

「……なるほど、爆発はそれが狙いか!」


 バンシーが音で判断していると読んだ敵は、音による索敵を妨害するために自分の人形を犠牲にしてでも俺達の耳を防いだのか。

 慌てて部屋を出ると、暗殺者は俺達の横を通り抜けていく。やはり、俺達の動きを遅らせるための手段か!


「クソ! バンシー! 攻撃を……!」

「はい……けほっ、けほっ! ごほっ!」


 しかし、攻撃を指示したときにバンシーは喉を押さえて咳をしていた。

 その表情は苦しそうで、目に見えて魔力が体がから漏れ出ている。


「バンシー! 大丈夫か!?」

「ご、ごめんな……けほっ!」

「いや、俺のミスだ」


 何度も無理をさせていた事のツケがここで回ってきた……ジャバウォックとの戦いは色々と忙しかったがまだ二ヶ月前ほどの出来事なのだ。

 バンシーの体の限界がやってきたのがいつでもおかしくなかった。無理をするバンシーのことは俺が気にするべきだったのだ。


「後は俺に任せてくれ、バンシー」

「けほっ……私、まだ出来……」

「無理はダメだ。お前まで倒れた方が困るからな」


 ――送還して、俺は暗殺者を追う。

 どこにティータが居るのかは既に予想は付いている。そして、部屋を開けて探している暗殺者に先駆けて俺は部屋に飛び込んだ。


「――やっぱりか」


 そこはジャバウォックに用意された客室。

 そこのベッドで、ティータは眠っていたのだった。



(――そりゃ、暗殺者達からすればここを探すのは最後に回すだろうな……ジャバウォックが寝泊まりしている部屋にティータを隠しているなんて思わないだろう)


 シンプルだが、分かりやすい隠し場所ではある。

 恐らく、ギリギリになってからティータをこの部屋にフタミは移動させたのだろう。散々警戒されていたであろうジャバウォックの部屋だからこそ、相手はリスクを冒して何度も確認はしない。だから、ティータが居ると予想をさせなかったわけだ。


「……よく眠ってるな」


 ティータは騒動が嘘のように眠っている。

 まあ、こんな血なまぐさい騒動とは無縁でいて欲しい。起きないように祈りながら、俺は持っている魔具を準備する。


(……ストスから受け取った魔具は3種類ある。これを使って、どこまで戦えるか)


 今回の冒険で見つけた魔具を売って、代金の代わりに今回の騒動で使えるような魔具を受け取った。

 そして、罠だけではなく俺が使うための魔具も準備していた。


「来たか」

「……まったく、しつこいな」


 合成音声だが、呆れたように人形遣いの暗殺者はそう呟く。

 ……まあ、向こうからすれば仕事を邪魔する厄介な冒険者だろう。だが、こちらだって引く理由はないのだ。


「そりゃそうだ。家族を守るのに、諦めるなんて選択肢はないんだからな」

「……」


 そして、動き出す暗殺者に俺は魔具の一つ目……手に持つ、ロッドのようなそれを起動する。


「!?」


 突如として、俺の正面に現れたのは……モコモコとした泡の壁が暗殺者の体を包もうと襲いかかってくる。予想外の泡に暗殺者は急ブレーキを踏む。


「突っ込んでくれてもいいんだぞ?」


 ……実は、この泡自体には何の効果も無い。ストス曰く、子供をあやすのに使えるオモチャに近い魔具だという。

 しかし、暗殺者は今までに仕掛けられた罠などの事を考えて警戒している。当然だろう。子供だましかもしれないが、それによって時間を作ることは重要なのだ。


(これは一瞬だけ隙を作り出すための魔具だ。次に使う魔具は……)


 残る魔具は二つ。

 そして次に使う魔具は――


「……ぐッ!?」


 泡の壁を突き抜けて暗殺者を打ち抜いたのは……魔力による電撃だ。

 これは雷撃の腕輪と呼んでいた。込めた魔力に応じた雷撃を飛ばす事が出来る……しかし、地上で人間が使える魔力では言うならスタンガン程度の威力しか出ない。

 それでも無力化をするという意味なら問題は無いのだが。


「これだけか?」

(……やっぱり効果は無いか)


 そう。バンシーがわざわざ咆哮によって足止めをしても意に介さず俺の命を狙ってきたのだ。

 この程度の威力の雷撃で、この暗殺者を止める事は出来ないか。やはり、魔力によって擬似的に肉体を憑依で作っている中身は人形なのだ。だから、真っ当な生物の肉体を動けなくするような方法では相手の動きは止めれない。

 だが――


(それなら、これが有効だ)


 既に電撃によって泡の壁は霧散して消えている。雷撃から追撃が来ないことで既に俺に手がないと判断したのだろう。暗殺者はティータを狙って飛び込んできた。

 ――この部屋に仕掛けられている魔具。それを起動する。


「く、らえ!」

「何をしようと、意味は……っ!?」


 突如として、暗殺者の動きが止まり地面に倒れ伏す。

 ……成功だ。


「なに……を、し、た」


 口が回らないのか、片言で苦しそうにいう暗殺者。


「お前の体が魔法によって動いてるなら、効果的な魔具だよ。魔力によって妨害する魔具だ」


 ――それは、この部屋に仕掛けられた魔力の流れを狂わせる魔具だ。

 何故これを仕掛けていたのかというと……ジャバウォックが暴走をした際の保険だった。この部屋で無ければこの方法は使えなかった。それに、範囲もそこまで大きくない。ベッドの近くでなんとか発動できる程度だ。

 だが、二つの魔具を見せたことで相手の位置は誘導できた。だが――


(ここからどうする?)


 魔具を起動させ続けておけば、恐らくこの人形遣いは動けないはずだ。それに、これが発動する限りは同じように人形を使って突撃するわけにはいかない。二の舞になるからだ。

 ――本体がくれば、本体に魔具は有効だ。だから――


「けほっ! けほっ!」

「っ!? ティータ!?」


 咳き込むティータを見る。その顔は苦しそうに歪められ、発作のように体が痙攣している。

 突然、こんな――いや、待て。


(この魔具は魔力の流れを――ああクソ! 俺はバカか!)


 ティータの命を繋いでいるのは、魔力なのだ。

 それを狂わせたという事は……ティータをまさに死に至らしめようとしている事に他ならない。

 そして、慌てて解除する。


「――」


 暗殺者は一瞬で動く。

 ……ティータが調子を崩したのを見て、好機と判断したのだろう。俺が解除するタイミングを狙ったのだ。

 俺も、そう動くのは理解していた。だから、ティータの壁になるように覆い被さる。


(――せめて、ティータだけでも)


 そして、俺の背中に冷たい刃が当たる感覚が襲いかかった。

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