第126話 ジョニーと厄介な敵と
「アレイ様、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ」
夜が明けて屋敷に来たフタミが、俺の顔を見るなりそう質問する。大丈夫だとは答えたものの、実際はそこまで大丈夫ではない。
あの後、罠を鳴らした存在は襲いかかってくることはなかった。念のためにバンシーと共に外を確認しに行ったのだが、それでも影も形も見えないという状態のまま夜を明かしたのだ。気が抜けず、いつ来るのかも分からない状態が続いたせいで普段以上に疲労が溜まり抜けきらない。間違いではないか、念のためにフタミへ質問をする。
「昨日鳴ったんだが……警報の誤作動って訳じゃないよな?」
「それはありえません。私も来るときに罠を確認しましたが、間違いなく誰かが踏んで起動しています……ですが、厄介ですね。恐らく、罠を鳴らした暗殺者は意図的に存在を伝えていました。位置は変えましたが、すぐにバレるでしょう」
「だよな……」
その可能性は考えていたが……やはりそうか。
俺が敵だとしても、同じようなことをする可能性は高い。
「恐らく、前回の襲撃の情報を聞いて私のような罠を仕掛けたらしい存在が居なかった事に気づいたのでしょう。だからこそ、その罠を利用してアレイ様達を消耗させようとしていると思います」
「まあ、俺も逆の立場なら似たような事をするだろうから分かる。こういう時、待つ側としては、警報が鳴る以上は気にしないわけにはいかないからな。鳴らした奴は、どこかで観察してるのか?」
「ええ。恐らくは気配を消して監視しているはずです。暗殺者であるなら技能として出来ますので。ただ、屋敷の中に入るまでは出来ないでしょうが。それでも、外部からアレイ様達の調子を伺うことは余裕です。そして、間違いなくアレイ様達が憔悴して対応出来なくなった瞬間を見計らってティータ様を狙ってくるはずです」
こちらの様子をうかがいながら、チャンスを待つ。相手からすれば、時間制限に関する情報無いからゆっくりして問題は無いのだ。
だから、こうして時間をかけても俺達を消耗させるという手段を取る事が出来る。
(……まあ、やられる立場になると思った以上に有効だなこの手は……ラトゥ達がいつ帰ってくるか分からない。相手からすれば、このままの調子で俺に警戒をさせ続ければ大きく消耗していく。そうすれば、いずれ俺が疲れからミスをするときが生まれる。そこをゆっくり待てばいいわけだから余裕があるんだろうな)
待てばいずれ来るというのは、それは帰ってくるであろう日が決まっていたらの話だ。
今の俺達はゴールは見えているとはいえ、その終わりが見えない一番辛い状態になっている。
(バンシーやジャバウォックは今回に関しては、頼れないからな……)
能力が足りていないというわけではなく、向き不向きの問題だ。
バンシーは、俺の指示がない限りはあまり動かない。そして、今回のような状況に任せるのはどうしてもバンシー自体が慌てやすいのも大きい。見張りくらいは良いだろうが、複数の敵がやってきた時に対処で悩んでしまうだろう。それに、俺自身の疲労を抜くためにバンシーは送還しておかなければ意味は無い。
そしてジャバウォックは……未だにこちらのルールを完全に把握していない。というよりも、元が元なせいで大雑把すぎるのだ。大規模な破壊などを起こすのはよろしくない。というか、そういう事態になると借金取りとの関係悪化は免れない。そして、見張りをするには本人のムラッけが強すぎる。正直、面白そうな暗殺者と戦っていてティータが狙われた……なんて場合も考えられる。
(フタミに頼るのは……いや、難しいな。元々、日中から可能な限りで常に警戒しながら屋敷の事をして貰っている。24時間、フルで休みなく警戒したらフタミが優秀だとしても潰れるだろうからな)
つまりは可能な限り、夜中の間は俺が頑張るしかないのだ。
「まあ、日中はしばらく休ませて貰う事にする。フタミには悪いけど、頼んだ」
「分かりました。アレイ様も、ゆっくり休んでください」
その言葉に手を振って返事をしてから、俺は部屋に戻り眠りについた。
(……ん、そろそろ時間か)
――起き上がるが目覚めは良くない。
安眠というのは、悩み事などが無い状態ではないと無理なようだ。多少は回復したが、それでも調子はよろしくない。
「……そろそろ日が落ちるくらいか」
「アレイ様、失礼します……起きていましたか。大丈夫ですか? あまり休めていないようですが」
「大丈夫だ。ダンジョンの中よりは快適だよ」
そうは言うが、精神状態の使い方は大きく違う。
本来休める場所で休めないのは、どうにも感覚が狂う。
「あまり休めず、調子が悪いようなら私にお伝えください」
「何か方法があるのか?」
「私の家で使っている眠り薬があります。これを使えば、少なくとも体力を回復するまで意識を失ってゆっくり休めることは間違いありません」
「……それ、危険性は?」
どう考えても危ない薬にしか聞こえないんだが。
「大丈夫です。私やイチノ姉様、他の人間も実際に使っていました。修行中は、どうしても厳しすぎるせいで眠れるような精神状態ではなく、無理をすると精神が壊れるので強制的に休ませるために使うものですから安全ですよ」
「……困ったら頼ることにするよ」
心強いような、ヤバイ薬を使われそうで怖いような……そんな気持ちになるのだった。
――そんな会話をフタミとしてから数日が経過して、ついに限界が近くなってきた。
警報が鳴り響き、さらには窓や扉などをわざと鳴らしてこちらの注意を引くような動きが増えてきた。効果的だと分かってから、俺達の精神を削る戦いにシフトしたようだ。
そのたびに俺は神経を使いながら、警戒を続け……流石に疲れが見えて眠りで疲れが取れなくなってきた
(……こりゃ、明日の朝になったらフタミの薬を頼らせて貰うしかないか)
そう思いながら、警報が鳴り響く。
その音を聞きながら、少しだけ俺は判断が遅れ――
「……召喚術士さん! 敵です! もう侵入してます!」
「なっ!?」
その瞬間に、バンシーの叫ぶような声で俺の意識は現実に引き戻された。
「――このタイミングかよ!」
「ふむ。アレイの限界を見極めていたか。巧みだな」
「感心してる場合か! バンシー、場所は!?」
その言葉に、バンシーは相手の位置を探る。
「――もう、既に一階は突破して二階に行ってます!」
「早すぎる! 急ぐぞ!」
そして、俺達は侵入者を追いかけて二階へと駆け上がっていく。
――そして、ティータの眠っていた部屋の前に既に侵入者が待っていた。
「へー、報告にあった竜人種か。強そうだね」
「アレイ。奴は我が戦う。面白そうだ」
その一言だけを残して、ジャバウォックは戦闘のために飛びかかり扉の前から侵入者を退かす。
奴は任せ、俺達は部屋の中に入り――
「――」
侵入者が、ティータのベッドへ刃を突き立てていたのだった。
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