第125話 ジョニーと続く襲撃と
「……うん、居なくなってるな」
夜が明けてから、屋敷の外の捨てた場所を確認をしに行くと暗殺者達は既に撤退した後だった。
あんな扱いで良い物かは悩んだが、下手に関わると相手も困るだろう。こちらに敵対の意思はないが、火の粉は払うという意志だけは示さなければならない。
そんな俺を見て、ジャバウォックがぼそりと呟く。
「野生動物を扱っている人間のようだな」
「……言われてみれば、確かに」
ジャバウォックの言葉に思わず同意してしまう。
今の自分は、確かに傍目から見れば世話をした野生動物が自然に帰れたか気にしているような状態ではある。ちょっと笑いそうになるが、頬を叩いて自戒する。
「……まだ油断出来る状況じゃないからな……変に気を抜いても良くない。今後は昨日よりも強い暗殺者が来る可能性が高いからな」
「ふむ、楽しみだ。昨日の襲撃者では物足りなかったからな。次はやりあえるといいのだが」
「……まあ、頼りにしてるぞ」
ジャバウォックは、戦力としては頼りになるが……今回の防衛に関しては不安要素でもある。
なぜなら、ジャバウォックという竜人種であり飛び抜けた強さを持つ存在を警戒して、相手が形振り構わずに暗殺を遂行するため、人数を送り込んでくる可能性があるからだ。
(……出来るなら、対処できるだけの人数であって欲しいな。今の俺達の人数だと、人海戦術で来られるのが一番困ると言えば困るんだよな)
少数精鋭であればやりようはある。だが、複数人の暗殺者が自分たちの犠牲を厭わずに、ターゲットであるティータの命を狙うとなればこちらも執れる手段は限られる。
もしもそうなった場合に、ラトゥ達が帰ってくるまで持ちこたえられるかどうかで考えると……
(――いや、悲観的になっても意味が無い。とにかく、出来る事をやるしかない)
自分をそう鼓舞する。まず、今までならジャバウォックのような強い戦力が無かったことを考えれば現状は恵まれていると言っても良いのだ。
気分を盛り上げるためにも、俺は眠っているであろうティータの顔を見に屋敷の中へと戻るのだった。
――そして、眠っているティータの世話をしてから部屋を出ると屋敷に来たフタミと鉢合わせる。
「おっと、おはようフタミ」
「おはようございます、アレイ様。昨夜はお疲れ様でした」
そう言って頭を下げるフタミ。
……昨夜の襲撃があった事は把握しているらしい。しかし、どうやって知ったのだろうか?
「……もしかして、見てたのか?」
「いえ、見てはいません。ですが、罠の起動した後などを見たので襲撃があったことは分かります」
「ああ、なるほど」
言われてみれば、確かにそうだ。
侵入者の位置を把握するための音を鳴らす魔具や、屋敷の中で仕掛けた罠などは全てフタミからアドバイスを貰った物だ。その本人であれば、罠が起動したかどうかは分かるだろう。
……と、そこで俺はフタミに感謝を伝える。
「罠に関して、本当にありがとうな。相手も引っかかってくれたからすぐに侵入してきたことが分かって、こっちも心の準備が出来た。相手も、正面から来るしかなかったせいか思った以上に楽に追い返せたよ」
「いえ。同ぎょ……暗殺者相手なら、癖や動き方などは分かりますので簡単でした。むしろ、ティータ様の部屋に直接入ろうとすればお手間をかけるまでもなかったのですが」
……同業と言いかけたのは気にしないでおこう。
伏せたという事は、隠したいというわけだろう。例え推察出来るような内容だったとしても、指摘しないのがマナーだろう。
「フタミが予想してた通り、二人組で襲撃してきた。とはいえ、片方は慣れていないようだったからバンシー一人でなんとかなったんだが……ただ、気になる事はある」
「気になる事ですか?」
「ジャックが、手練れの方を攻撃して腕を折ったんだ。もしかしたら、暗殺者達から相当な戦力が送り込まれるか……人海戦術なんて可能性もあるかと思ってな」
「そうですね。人海戦術は確かに可能性だけならありますが……恐らくは大丈夫かと」
恐らくと前置きをしてから答えるフタミだが、その表情からは間違いないという自信が見て取れる。
「どうしてだ?」
「暗殺者ギルドの手の物であれば、基本的に大人数による依頼の達成は禁じられていますので。暗殺者ギルドというものにも厳格なルールがあります。そして、ルールを超えるような相手に対しては暗殺者ギルドではなく別の組織に頼るべきであると暗殺者ギルドは考えていますので」
「……なんでまたそんな掟を?」
「暗殺者ギルドは、人を殺す技術でしか生きられない人間の受け入れ先であり、そしてそういった人間が人を殺さない選択で生きる時に助けになるための組織なのです。そして、人を殺せるような種族が揃った組織が形振りを構わなくなれば、それは危険で排除すべきだと判断されます。だからこそ、暗殺者ギルドは厳格なルールの中で生きることで自衛をしているのです」
……なるほど。納得した。形振り構わない手段を取らないというのは、自分たちはルールに従って動く存在だからこそ危険ではないと示すためか。
確かに、暗殺という目標のために形振り構わない存在というのはどこまで信用できるか分からない。暗殺という手段を取れるなら寝首を掻かれるかも知れないのだ。そんな集団が自衛をするために掟を定めているなら国の依頼といえど俺達に集団で襲う事はないと考えて良いだろう。
「とはいえ、戦力は予想よりも強い相手が来るでしょうね。ルールはあってもメンツという物があります。依頼を達成できないというだけで自分達の実力や信用を疑われてしまいますから。なので、警戒してください。今度の相手はしつこい可能性があります」
「しつこい……つまり、夜闇に紛れて暗殺じゃなくて隙を見て狙う可能性があるのか」
「理解が早くて助かります。屋敷に居る時間であれば、私も動けますので任せてください」
心強い言葉だ。
罠もそうだが、こうして屋敷に居る間はフタミが守ってくれているという心強さで十分に休めている。だからこそ、感謝を告げる。
「助かるよ、フタミ。本当にイチノさんに負けないくらい優秀だ。頼りにしてる」
「……ご期待に添えるよう頑張ります」
と、ちょっと顔を背けてそう答えるフタミ……多分、笑みを浮かべそうになっているのを隠そうとしているのだろう。
なんというか、可愛らしい反応に思わず笑みがこぼれるのだった。
――そして、夜。
再度鳴る警報。どうやら、今度も相手は引っかかったようだ。
(……いや、違うな。同じ手に引っかかるようなマヌケだと考えていれば足下をすくわれるはずだ。相手だって、こっちが罠を仕掛けているのは知っている。つまり、わざと警報を鳴らしてこちらに存在を伝えたんだ)
思わず油断しそうになる自分へ、自問自答してその考えを否定して気を引き締める。
油断をして良いことはない。ダンジョンでもゲームでも、簡単だと油断をしていると足下をすくわれるものだ。
「ジャバウォック。警戒を頼む。バンシーも、ティータは任せるぞ」
「はい!」
「うむ」
昨日と少しだけ立ち位置を変えて警戒をする。
そして、襲撃を待つ。
「――」
「……来ませんね」
「だな」
音が鳴ってから反応がない。誰かが来ている気配もない。
……そして、結局その日は警報は鳴ったものの、襲撃は起きなかったのだった。
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