第124話 ジョニーと襲撃者と

 日中の話が終わってから、気力を整えるために自室へ戻り仮眠を取って目覚めると深夜となっていた。

 すでに仕事を終えたらしいフタミも帰宅していて、屋敷には俺とジャバウォック以外は誰もいない。ティータを守る存在は俺達だけになった。

 ……ふと、何処からともなくまるで笛の音のような音が聞こえてくる。


「――早速来たか」


 それは、屋敷の周囲に設置している魔具によるものだ。

 侵入者の魔力を感知したときに、音を鳴らすという魔具だ。小さな動物などでも反応するが今回に備えて動作確認や誤作動などは無いようにしてある。つまり、この時間に音で反応があるというのは襲撃者だろう。


「さてと……呼んでないお客様には、お帰り頂くか」


 そういって、俺は立ち上がり侵入者を追い返すために準備をするのだった。



 ――屋敷の外では二人組が話をしていた。


「……引っかかったな。どうやら、襲撃がバレたらしい」

「せ、先輩! すいません!」

「気にするな……どちらにしろ、予想していた展開だ。ターゲットを守るための罠の一部だろう……とはいえ、警報なら私が察知することが出来る。不意打ちなどがなければ、この程度の罠に意味は無い」


 その二人は黒い覆面に黒装束。闇に身を紛れるような格好をして自分の正体が明かされないようにしていた。

 警報の音を聞いて動きを止めて説明した黒装束と、そちらを見ながら戸惑い混乱している後輩らしき黒装束は謝罪をする。


「自分が気をつけてたら、まず鳴らすことはなかったのに……本当にすいません……」

「だから気にするなと言っている。どうせ、二重三重に罠を張っている。それに、この罠を見るに暗殺者の動きを熟知した人間が仕掛けた可能性が高い。私でも、油断をしていたら引っかかっていた可能性がある。いいか。起こしたことは仕方ない。なら、どう対処をするべきかを考えろ」


 先輩と呼ばれた黒装束は、後輩らしき男へアドバイスとも忠告とも言える言葉を伝えながらも、足を止めず屋敷に向かっていく。


「……そんな人間が、この屋敷を守ってるなんて聞いてませんよ」

「仕方ないと諦めろ。全ての情報が揃う状況など、そこまで多くはない……ただ、この罠は私たちのような暗殺者の癖を知っている人間だな……面倒だ」

「……同業者ですか?」

「もしくは、元か関係者だな。別に暗殺者ギルドは一度入ったら抜けられない組織というわけでもないから……まあ、この話はいずれしよう。今からやることに変わりは無い」


 そして黒装束は屋敷の近くに辿り着いてから、壁を叩いて音を聞く。

 音の反響をさせるときに魔力を込める。そして、その音の流れや動きによって内部の動きを完全に読むことが出来る黒装束の腕。


「……1階に魔力を持つ存在が2体。2階へ1体。1階の二人は間違いなく、護衛だろうな……ただ、この屋敷の目標は二階で眠っていると聞いている。近くでの警護がないなら外から侵入するべきか? お前はどう判断する」


 後輩の黒装束にそう聞くと、緊張したような顔をしながらも答える。


「……い、いえ。ここまでに罠があったんで……外から侵入されても良いと考えていると思います。罠にわざわざ飛び込む危険を考えるなら、直接忍び込んで掻い潜る方がマシです」

「――私もそう考える。いい判断だ」


 先輩の言葉にホッとした表情を見せる後輩の黒装束。


「……そんな風に感情を見せている分はマイナスだがな」

「えっ!?」

「暗殺中に動揺などを表に出さない方が良い。それだけ、相手に情報を与えることになる」

「わ、分かりました」


 そんな後輩に対して、黒装束は厳しい言葉を投げかける。

 真面目に反応する後輩に対して頷きながら、指示を飛ばす黒装束。


「私が囮になる。お前は目標の所まで行け。目標を殺せば仕事は終わりだ」

「了解です」

「では、行くぞ」


 そして、黒装束の二人は直接扉を開ける。


「……うわっ!? 正面から!?」

「――」


 突然の侵入者に驚くアレイへ、無言で黒装束がクナイのような暗器を投げつける。それを見て、一瞬で片割れが駆け上がっていく。

 その攻撃を、ジャバウォックはアレイに届く前に受け止める。


「――こうも簡単に受け止められるか。竜人種とは厄介な」

「ふむ、こうした技術とは面白いものだな。技術で、この薄っペらな金属で人を殺すか」

「……人間は大抵死ぬぞ。脆いんだから」

「そうか。覚えておこう」


 そんなやり取りをする二人に、相手は手練れだと判断した黒装束は何かを投げつける。

 爆発したそれは粉塵をまき散らして煙幕となる。


(――狙うは、人の方)


 一瞬で受け止めた竜人種は厄介だと考え、狙いをアレイに変える黒装束。

 そして、煙幕に紛れながら舌を弾いて鳴らす。その反響を利用してアレイの位置を把握し――


(一瞬で、る)


 短刀を取り出し、アレイの首筋へと刃を突き立て――

 その一撃は、空ぶった。


「なっ!?」


 想定外を超えて、あり得ない出来事に歴戦の暗殺者である黒装束の思考が止まる。

 そして、その一瞬の油断の瞬間に――


「この程度か?」

「ぐっ!?」


 まるで、巨大な鉄塊が突撃したかのような衝撃。

 それを受けた黒装束は壁に叩き付けられて、立ち上がることすらできなくなる。

 そして、片割れが暗殺に行った二階では――


「アレイさーん! 捕まえましたよー!」

「ああ、よくやった!」


 そこには、ぐったりとした暗殺者が縄で縛られて捕まっているのだった。



 ――予想外に上手くいった。

 暗殺者の二人組は、見事に俺達の術中にハマってくれたのだった。


(……まあ、運が良かったのもあるけどな)


 暗殺者の片割れで熟練の方が音を使って索敵などをしているタイプだったのが功を奏した。

 待っているとき、召喚したバンシーが相手が音を使って部屋を索敵している事に気づいたので、逆にそれを利用して貰ったのだ。


「ありがとうな、バンシー」

「いえいえ! お役に立てました!」

「ジャバウォック、殺してないよな?」

「相当加減した。死んでは居まい」


 ……念のために近寄って確認する。息はしているので死んではいないだろうが……軽く殴ったというが腕があらぬ方向に折れていた。竜人種……というか、ジャバウォックのとんでもなさを物語っていた。

 さて、捕まえた二人だが……


(……どうするか)


 結局の所、暗殺者ギルドの存在をどうこうすることは出来ない。つまり、このまま帰って貰うべきなのだが……


(こういうのって、倒した後にどうするべきかって分からないな)


 変な悩みが生まれていた。

 というのも、このまま放置しても再度殺しに来る可能性はある。下手に表に放置するのも良くないだろうから……


「……まあ、ジャバウォック。一緒に外に運んでいくか。人目のつかない所に放置するぞ」

「うむ。了解した」


 そして、ジャバウォックは片手で担ぎ、俺は背中に一人背負って外に運んでいく。

 ……知らない人間が俺達が捨てる現場を見たら勘違いされそうだな。そんな風に思うのだった。

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