第121話 ジョニーと冒険者達と

「――で、俺は気付いたらゴブリン達の宴会の中にいたんだ。正直、ベロベロに酔ってたせいで俺はゴブリン達の宴会に紛れ込んだことに全然気付かないままで、ゴブリン達はゴブリン達で俺のことに気づかないまま宴会で騒ぎまくってだな……」

「あれー、召喚術士さんじゃないですか」

「あ、受付嬢さん」


 その場にいた冒険者達の、面白い話を聞いていると受付嬢さんが戻ってきたらしく声をかけられる。

 先程の話の続きが少々気になるが、それでも先に話を終わらせるべきだろう。


「それじゃあ、ありがとうな。話を聞かせてくれ」

「えー、良い所だったのにー」

「悪い。次の機会に聞かせて貰う」


 その言葉に、冒険者達がキョトンとした表情をする。

 その反応に俺が首をかしげると、全員が笑い始める。


「次があるんだな!」

「よし、その時までに面白い冒険譚でも作るか!」

「ボトルキープしておくか!」


 ……どうやら、俺が次といったのが予想外だったらしい。

 自分でも、次の機会があれば参加するつもりだったことに気付いて笑ってしまう。

 

「ああ、次の機会だ」

「分かった! んじゃ、その時にはまた面白え話でもしてやるよ!」

「声かけろよ!」

「お前ばっかり美人と一緒でズルいぞ!」

「俺達にも美人紹介しろ!」


 ……なんか後半はやっかみ半分の罵倒が飛んできた。後ろで睨んでいる女性冒険者達に酷い目に遭わされても知らない振りをしよう。

 そうして、集まっていた冒険者達に手を振ってから受付嬢さんの元へ……と、受付嬢さんはカウンターでニヤニヤと笑っている。


「……なんです?」

「いえー? なんだか、囲まれて楽しそうだなーって思いまして。召喚術士さんも、ついに他人と交流出来るようになったと思うと嬉しいなーって思ってただけですよー?」


 そんな風に言う受付嬢さん……いや、待って欲しい。


「俺は借金で必死だったから交流できなかっただけで、別に人嫌いで交流してなかったわけじゃないですからね?」

「そういうことにしておきますねー」

「その返しされたら、どうあがいても俺が人嫌いだったことになるでしょ」


 そこまで言うと、クスクスと笑う受付嬢さん。

 ……まあ、やっぱりからかわれていたらしい。


「これは冗談でなく思うんですけどもー。前に比べると随分と表情が柔らかくなりましたねー。いつだって、来る時はどこか追い詰められてましたけども、最近は余裕が生まれてますよー」

「……あー、まあ。悩み事も解決したのもありますからね」

「まあ、苦労が滲み出てますけどね」


 ……まあ、そりゃそうだろう。何せ苦労は現在進行形だから。


「それで、召喚術士さん。本日はどうされたんですかー?」

「まあ、今更ですけどアレイです。あんまり冒険とは関係ないんですけど、ちょっとした頼みがありまして……」

「頼みですかー?」


 首を捻る受付嬢さん。

 まあ、確かに俺が受付嬢さんに冒険に関係しない頼み事など初めてだろう。正直、断られるとしても仕方ないとは思って聞いているが。


「俺がしばらく、ちょっと個人的な事情でこっちに来れなくなりまして」

「はぁ」

「それで、家のゴタゴタで巻き込みたくないんでルイに伝言頼まれてくれませんか?」


 ……それを言った瞬間、冒険者ギルド中が静かになる。

 それはもう、まるで沈黙の魔法でも喰らったのかと思うほどだ。そして、目の前の受付嬢さんはニヤニヤとしている。何だというのだろうか。


「えーっと、それじゃあちょっとこっちへどうぞ」

「え? 分かりました」


 何故か、奥の部屋の部屋へ通される。

 ……防音が効いているようだ。どうやら、気を利かせてくれたらしい。部屋の扉を閉めて、受付嬢さんも席について聞く。


「それで、ルイさんになんて伝言をー?」

「まあ、勘が良いですし多分厄介な事情だと分かると絶対に首を突っ込むタイプだと思うんで……俺がしばらく、近隣の街に出てる事にしてくれません?」

「いいんですかー? 家を知っているなら、顔を出すかも知れませんよー?」

「まあ、その時はその時だとして……ルイもそこまで首を突っ込むタイプじゃ無いと思うんですよね。ただ、迷宮の時に色々あったのと、俺がダンジョンを攻略したことも含めて気にしてる部分もあるだろうと思って」


 俺の言葉に深く頷いている受付嬢さん。


「なるほどなるほど……ルイさんのことをよーく知っているんですねー」

「まあ、付き合いも短いって程じゃないですし、友達ですからね。あんまり俺の家庭の事情に巻き込みたくないんですよ」

「分かりましたー。そのくらいなら、むしろアレイさんの働きを考えるとお安いご用ですよー」

「俺の働き?」


 首をかしげる俺に、呆れたようにいう受付嬢さん。


「もー、何を言ってるんですかー。銀等級以上のダンジョンを攻略して情報を持ち帰っただけでも凄いんですよー? 本来、ここで帰ってこない場合は実力を見た上で同等級の冒険者に依頼を持ちかけて、そこから更に難易度の把握と言う流れになるんですよー? 今回のダンジョンなら、アレイさんが死んだ場合には多分あと10名くらいは死者が膨れ上がった可能性はありますからねー」

「……そこまでですか?」

「そこまでですよー。忘れてるかも知れませんが、冒険者ってすぐに死んじゃうんですよー?」


 ……恐ろしい事をいうが、確かにそうだ。

 俺だって死にかけたと言うが、何度もちょっとしたミスや噛み合わなかっただけで死んでいたのだ。


(……ラトゥ達にも感謝しないとな)


 運だけではない。人にも恵まれた。だからこそ生きているのだ。

 だからこそ、今回の騒動はこれ以上巻き込まないように頑張ろう。


「それじゃあ、お願いします。俺もしばらく顔を出せないんで一段落したら冒険者ギルドに来ます」

「分かりましたー。では、色々と依頼をためてお待ちしていますねー」

「こっちこそ、今後も頼みます」


 そう言って笑顔で頭を下げる受付嬢さんに、そう答える。

 そして部屋を出ると……何故か、冒険者達が全員席を移動していた。俺達の話していた部屋の近くに。


「……どうした?」

「いや、なんでもない」

「そうそう、気にするなです」

「日当たりが良い場所に来たかったんだ」


 ……思いっきり窓が無い席なんだが。

 まあいいか。


「じゃあ、俺は帰るからまた飲もう」

「ああ、待ってるからなー!」


 そして俺は冒険者ギルドを出て、屋敷へと帰るのだった。



「さて、それでは……第185回の賭けですよー! 今回はアレイさんの伝言に対するルイさんの反応でーす!」

「俺は顔を赤くするに1万!」

「私は、しょうがないって顔をするのに4万!」

「ここはバカって怒るのに3万で!」


 ――アレイの居なくなった冒険者ギルドでは、アレイの迂闊な発言でとんでもない賭けが始まり……いずれ、それが露見してアレイにルイが怒られるであろう未来が決まっていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る