第120話 ジョニーは絡まれる

 屋敷に帰ってきた俺は、屋敷に様々な仕掛けを作る準備をしていた。

 ジャバウォックに関しては、好きにさせている。やる気になって自分で出来る事を試している以上、邪魔をする必要も無い。


「……こんなもんか?」

「召喚術士さん、これでいいですかー?」

「ん? 見に行く」


 バンシーに呼ばれて見に行く。

 屋敷に戻って手持ち無沙汰らしいバンシーから手伝わせて欲しいと言われて、俺の作業を手伝って貰っていた。口で説明するのも難しいので、紙に書いて指示を出したのだが……


「ああ、問題ない。指示通りだな。手伝ってくれて助かるよ」

「えへへ、役に立てて良かったです! まだまだ、やれることがあったら言ってください!」


 思った以上に丁寧な作業をしてくれていたバンシーを褒めると嬉しそうに答える

 この張り切り方に、なんとなく予想は付く。


(……ジャバウォックと戦った時に、最後まで一緒に戦えなかったことを気にしてるんだろうな)


 俺としては、他の召喚獣がしばらく復活すら出来ない状態の中でも健在であるだけでも嬉しい。

 だが、本人からすれば自分の力足らずで他のメンバーに負担をかけて自分だけ残ったような状況だ。元々、役に立ちたいという仲間意識の強かったバンシーなら気にして当然だろう。


(まあ、バンシーに色々と任せてるのが一番だろう。それに、いずれもっと大きな出番があるからな)


 あくまでこれは前準備でしかない。無駄になる可能性だって高いのだ。

 だとしても、やれることはやるしかない。時間だけはあるのだ。


「ああそうだ。バンシー、気をつけろよ。罠を仕掛けた後は、自分が引っかかるとどうなるか分からないぞ」

「えっ!? は、はい! 気をつけます!」


 俺の注意で、バンシーは恐る恐る歩き始める。あまりにも素直な反応に思わず笑ってしまう。


「まだ何も仕掛けてないから大丈夫だよ。いずれの話だ」

「ほ、本当ですか? 早く言ってくださいよ!」

「悪い悪い……それじゃあ、ちょっと俺は今から冒険者ギルドに顔出してくるから、バンシーは作業の残りを頼んでいいか?」

「分かりました! 任せてください! ちゃんと召喚術士さんの指示書もありますからね!」


 そういって、俺の書いた手順書とにらめっこをしながら作業を続けるバンシー。

 ……素直に頑張るバンシーを見ながら、俺は少しだけ気分が軽くなる。ティータも倒れ、ラトゥも居ない今、昔から頼れる仲間だったバンシーの存在は俺の中で心強い存在になっていた。


(……だから、俺も頑張らないとな)


 仲間に誇れる召喚術士であるために。



 冒険者ギルドへと顔を出すと、そこにはいつも通りにダンジョンに行く前の冒険者達がたむろしているた。

 酒を飲んでいるもの、依頼を探しているもの、暇そうにしているもの。いつ来ても変わらない光景は、安心するものだ。


(それで、受付嬢さんは……いないな。休憩か?)


 受付嬢さんに話があったのだが……普段から良く出会うので、すぐに見つかると思ったが今回は珍しく行き違いだったようだ。

 仕方ない。外を散策して時間を潰すかと考えていると……突然、俺の肩を誰かが叩く。


「ん?」

「よう、アレイよぉ。ちょっといいか?」


 それは……この前の強面な冒険者だった。

 相変わらずガラの悪い見た目をしているが、人となりを多少知ったので気圧される事もない。どうやら、俺に用事があるらしい。


「ああ、構わないけど……そうだ。この前は大丈夫だったのか? 裏に連れて行かれて――」

「やめろ。やめてくれ。その話は聞かないでくれ」


 冒険者ギルドの女の子達に裏に連れて行かれた記憶があったので聞いてみたが、ガタガタと震えて泣きそうな目で止められた。

 ……余程酷い目に遭ったのだろう。俺も、それ以上聞かないくらいの情けは存在していた。


「ああ、そうか。それでどうしたんだ?」

「いや、お前の所の受付嬢さんを探してるんだろ? ただ、あの人は忙しいみたいでしばらく帰ってこねえようだからな。そんで、折角なら酒でも奢るからアレイの話でも聞かせてくれねえか?」

「俺の?」

「おうよ。未到達ダンジョンを踏破したんだろ? 折角なら聞きてえじゃねえか。どんなダンジョンなのかっての」


 そう言って笑う男に、どうするか悩む。

 ……しばらくは、殺伐とした時間を過ごす事になる。それなら、今のうちにこうした交流を楽しもう。


「ああ、分かった。俺に答えられる範囲なら」

「おっ、いいな! おおい、お前ら! アレイが今回のダンジョンを攻略したを話してくれるってよ!」

「受付嬢さんが戻ってくるまでだけどな」


 その言葉に、笑いながら男は答える。


「いいさいいさ! よし、それじゃあ注文頼むぞ! 今日は俺の奢りだ!」

「よっしゃ! 俺も追加注文頼むか!」

「お前は別だ! 自分で頼め!」


 男の奢りというフレーズでザワザワと騒ぎながら集まってくる。今までなら、敬遠していたかもしれない。

 しかし、こんな状況だからこそこの空気がありがたく感じて、俺は中心に座って冒険の話をするのだった。



「……で、3層目に関しては本当に工夫もなく走り抜けたな。ただ、問題はサラマンダーが数え切れないくらい居る溶岩地帯って所だな。下手に対処するとサラマンダーに囲まれるから、走り抜けて守護者の前に扉があるからそこを超える。ただ、守護者の扉には開くまで時間がかかるから上手くやらないと厳しくてな。そこを超えたボスはデカいリビングアーマーで……ん?」


 三層目の道中に関する話をしている当たりで、周囲にいる冒険者達の反応がないことに気づいた。

 顔を見てみると、周囲の冒険者達はなんとも言えない表情をしていた。その反応に、俺も思わず聞いてしまう。


「どうした? もしかして、なんか話し方を間違えたか? あんまり経験がなくてな……」

「いや、そうじゃなくてだな……言っちゃなんだが、俺達の想像していたダンジョンと違ったというか」

「何の参考にもならない……それ、上の等級の奴らが行くようなダンジョンだろ……」

「こう、良い感じに酒の肴になる程度の話かと思ったら、想像以上に大きい話だったから反応に困ってるのです」


 ガラの悪い冒険者だけでなく、目つきの鋭いエルフやらハーフリング族までそんな風に答える。どうやら、集まった奴らが酒飲みの席で聞こうとしていた以上にダンジョンが壮絶だったらしい。

 ……確かに、普通のダンジョンとは違う竜の試練が待ち受ける危険地帯だったからな。ラトゥも、銀等級以上が挑むようなダンジョンになる可能性が高いと言っていた。そんな俺にハーフリングの人が訊ねる。


「アレイさん、もしかして、今までのダンジョンもそんな感じだったんです?」

「流石にここまではないかな……いや、でも挑んだダンジョンって全部死にかけてるな」

「普通、死にかける事はねえよ……命が幾つあっても足りないだろ」


 話を聞いていたエルフの言葉に、その場にいた冒険者全員が頷いた。

 ……明日も知れない身だからこそ、リスクをひたすらに賭けてダンジョンに潜ってきた俺の今までの冒険は、当然だが普通とは大きくかけ離れていたのだと実感させられる。


「こうなると俺も逆に聞きたいんだけど、普通の冒険ってどんな感じなんだ?」

「俺達なら、まずダンジョンを選ぶ事がスタートだな。自分たちの実力と見合うダンジョンを受付嬢と打ち合わせて情報を集める」

「こっちもそんな感じだね。場合によっては、ダンジョンを攻略した冒険者達に話を聞いてどんな敵が出るかとか、どんな魔具や鉱石を見つけたかも聞くね。報酬面でどのくらい儲かるかっていうのも重要な情報だし」

「こっちもそんな感じです。あと、撤退の判断も早めにするです。攻略なんて、しなくても稼げるですから」


 ……俺が思っている以上に普通の冒険者というのはちゃんとしているようだ。普段が一人なのでどんぶり勘定でなんとかなってきたが普通はもっとちゃんと計算するらしい。

 もしかして、俺の方法は無謀と紙一重なのでは? と思ったが考えないことにする。うん、必要だった。

 しかし、俺の反応を見てかは分からないが冒険者達はフォローするように続ける。


「とはいえ、リスクを低くするほどに名をあげるってのは難しいからな。そんで、上に挑戦する機会ってのはドンドン失われるんだよな」

「です。結局、私たちってそういう意味だと銀等級なんて夢になってしまうです。かといって無理をして死んだら元も子もないです」

「そういう意味じゃ、お前とかリート達の存在は俺達の希望なんだよ。上を目指す後輩ってのは、勇気になるからな」

「なるほど……」


 こうして普通の冒険者としての話を聞くのも面白い物だ。


「他にも教えてくれ。俺もあんまりこういう話をする機会がなかったからさ」

「お、いいぜ。なら俺の外れない失敗談をだな……」

「それ何回目だよ!」

「うるせぇ! アレイさんには一回目だろうが!」


 盛り上がりに、ついつい俺も楽しい気分で話を聞き始める。

 そして、俺はいつの間にか冒険譚を話すのではなく冒険者達との会話を楽しんでいたのだった。

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