第114話 ジョニーと語られる事実
真面目な表情をした借金取りは、言葉を続ける。
「さて、実は私もアレイさんのご両親に金を貸していましてね。その時には、私のような良心的な金貸しでなければ借りれない程に困窮していた訳です。まあ、妖精種を手に入れる前から常に困窮はしていましたがね。ですが、前以上に無理をして借金を借金で返しながら家財も売り払いながら計画を進めていたわけですね」
「……それが、どうしてバレたんだ?」
良心的な金貸しなどという妄言を無視しつつ、それを聞いてみる。
「まあ、恐らく私が思うに彼らは本気で王家の簒奪だなんて考えては居なかったと思いますがね。ですが、自分たちの育てた娘が王家の血を濃く継いだ隔世遺伝だったという事実を利用して、王家に潜り込ませて借金もチャラにした上で悠々自適な生活を送ろう……その程度の事しか考えていなかったと思いますよ」
「……呆れましたわね。貴族としての誇りや責務を考えていない身勝手な行動ですわ」
辛辣なラトゥだが、貴族としての誇りを持つ彼女からすれば当然の反応だろう。
身内の俺ですら、馬鹿だとしか思えない。だが、そんな馬鹿げた夢に縋らないと現実が耐えれない段階まで来ていて……そして、なまじ成功しそうになったのが大きな間違いだったのだろう。
「ですが、貸している我々からすればそれはとんでもないわけです。真っ当に返すつもりはないという事ですからね。実際、そこまでの試算では全てを絞り尽くして彼ら自身も売り払う事が出来れば返済のアテは出来ていたのでそれで良かったんですよ」
「……」
……なんとなく、俺もその返済のアテという一部に入ってそうな気がする。
まあ、これを掘り下げても悲しい気分になるだけなのでスルーをしておく。
「ですが、こんな計画を立てていると判明すれば借金の返済どころかもっと恐ろしい事になります。私も、調査を進めてこの答えに行き着いたのですが……最初は妄言だと笑い飛ばしそうになりましたよ。ですが、更に調べを進めてそれが可能であり……今現在進行形で、成功しかけている話だと分かった時には顔を青くしましたがね」
「あんたでもそんなことになるのか」
「それはもう。竜が街を襲うだなんていうホラ吹きのホラが現実になるかもしれないと分かった瞬間でしたからね」
この借金取りですら、動揺を隠せないほどの事実。
……まあ、あり得ない空想が現実になると分かったらそりゃ心臓が止まるほど恐ろしいだろう。
「最初は、どうするか悩みましたよ。私の手駒で何とかしようとしても、彼ら自身が起こした話の規模が大きすぎるので問題が色々と生まれてしまいますからね……なので、仕方なく包み隠さず報告をしたわけですよ」
「報告……それは、王家にか?」
「正確に言えば、暗部ですね。彼らに対して嘘偽り無く伝えました。そしてその事実の裏取りの後に……すぐさま人材が派遣され、この屋敷で行われていた事が明るみに出る前に闇に葬り去ったというわけです。その際に、アレイさんのご両親は当然ながら処分されています。これが、国家転覆罪をかけられたご両親の末路というわけですね」
「……」
悲しみはない。ただ、何も言う間もなく死んだことを伝えられてほんの少しだけ寂しい気持ちは生まれた。
まあ、生きていたとしても一発殴る事はしていただろうが。
……ここまでの話で分かった事はあるが、まだ幾つか気になる部分が残っている。ラトゥから、借金取りへと質問が飛んだ。
「アレイさんと、ティータさん。そして貴方の話が抜けていますわね。ここまでの情報だと、アレイさんのご両親の犠牲でこの話が終わったように聞こえますわ……とはいえ、この話はそれで終わる話では成とは思いますけども」
「ええ、当然ながらそれで終わるわけがありません。次に問題になったのはティータさんですよ」
争点は、やはりティータか。
妖精種であれば、血筋すらもでっち上げることが出来るという恐ろしい事実を実証したのだ。
「成功してしまっていたのが本当に問題でした。その段階での彼女の血は恐ろしいほどに純度が高かった。王家の中で、もし彼女が正当な血筋を持つ後継者であると名乗り上げたときに国を二分して争う可能性があるほどに。もしも、彼女自身に自分が王家の血を強く引き継いだ王女であるなんて間違った情報を覚えさせられていたらと思うと恐ろしい物ですよ」
「……でも、俺が会ったときのティータは普通の子だったぞ? 病弱で、物語が好きな女の子だった」
「苦労して彼女の認識を徐々に戻したんですよ。それまでに彼女は半分妄想と現実が混ざっている状態でしたので」
今の状態になる前のティータは、どうやら今では考えられない状態だったらしい。
とはいえ……
「でも、普通の子になったなら問題はないんじゃないか?」
「そんなわけがありませんよ。彼女の存在自体が爆弾ですから。妖精種の子供を育て、自分が望む存在をでっち上げることが出来る……それが事実として知れ渡ってしまえば、この世は大混乱になるでしょうね。あらゆる血筋の人間は妖精種ではないという証明をする必要がある。更に、この話が広まれば人攫いの間で子供狩りが横行します。妖精種の子供を確実に見分ける方法などありませんし、人攫いからすれば一攫千金のチャンスが増えたと様々な子供が無差別に浚われる事になるでしょうね」
……想像するだけで恐ろしい地獄の光景だ。
しかし、疑問がある。ラトゥとジャバウォックは妖精種だと一目で見分けることが出来たのだ。
「魔種が見れば一瞬で見分けれるなら、成り代わりなんて無理じゃないか?」
「それが面倒な話の一つでして……まず、彼女は不安定になっているので妖精種と分かりましたが安定している時は全く判別が付かなくなるんですよ。それは保証されています」
「……そうなのか?」
ジャバウォックとラトゥを見て聞いてみる。
「……実際に妖精種だと分かったのは、乱れて溢れる魔力を感じたからですわ。あれが、押さえつけられていたら……見分ける方法はありませんわね」
「まず、あの状態になって生きている妖精種という物を初めて見たからな。シェイプシフターという例がある以上は見分けれなくなる可能性は高いな」
……シェイプシフターも、魔力によって完全に模倣が出来る。それを考えれば、確かに見分けられなくなる可能性は高い。
「だから、扱いに困っているわけです。彼女を処分するという選択肢も難しい。王の血を引いている事実も含めて暗部よりも上で相当に揉めたそうですよ」
「思った以上に大事なんだな……ティータの存在っていうのは」
「ええ。妖精種が他種族に混じって育ったサンプルとして欲しいという研究所もあれば、血を引いている以上は王家の物であると主張する政治屋。不安定な存在など処分しろという人まで居ましたからね」
それはそうだろう。どの意見だって理解は出来る。
「ですから、揉めている彼らに私から提案したのですよ。もしかしたら穏便に済む方法があるかもしれないと。私も、ちゃんと情報を提供したと言う実績から信用度はありましたので」
(……裏社会の金貸しが信用されるってどうなんだ?)
「その穏便に済むかも知れない方法が認められて、こうして私にここで一任されたわけです」
その作戦はつい最近まで上手くいっていたという訳か。
色々と分かったのだが……問題が生まれる。
「上手くはいってたけど……ティータが妖精種だと俺が知った事に問題があるんだな?」
「まあ、計算外が積み重なりましたね。そして、更に最悪なことがあります。それは、ラトゥ様の存在ですよ」
「私ですの……?」
突然名指しをされたラトゥが驚いたような表情を浮かべる。
「そうですね……ここから先の話をするとしましょうか」
そう言って、借金取りは初めて俺の前でにこやかな表情を崩し……真面目で冷徹な表情を浮かべた。
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