第113話 ジョニーと隠されていた物
そして、話を終えたとき……バンシーは、怒れば良いのかショックを受ければ良いのか笑えば良いのか分からないとい言いたげな顔になっていた。
「……その、色々と呆れそうというか相変わらず召喚術士さんなんだなぁって思うことも多いですけど……ティータちゃんが妖精だったなんて初めて知ってビックリしました……うう、正直私も混乱しそうです」
「気持ちは分かるよ……そういえば、バンシーは何か違和感というかティータが普通と違うって感じはしなかったのか?」
「……ええっと、正直にいうと人間の違いとかは全然分からなくて……吸血種と人間種でも、正直あんまり見分け付かないというか。あ、でも竜人種ならわかりますよ! 角と尻尾がありますから!」
……なるほど。確かに純粋なモンスターだったバンシーからしてみれば人間の違いなんて分からないのは納得だ。
俺達ですら、見た目が動物に近い獣人種などの違いを理解するのは難しい。そういう意味では違いが分からないのも仕方ないだろう。
「でも、ティータちゃんのことは好きですよ! 妖精でも、人間でもそれは変わりません!」
「……ああ、分かってるさ」
そのバンシーの言葉は、ほんの少しだけだが俺は間違っていないと肯定してくれているようだ。
「でも、何か問題があるんですか? ティータちゃんが妖精種で」
「……まあ、色々と驚くことやら問題が多くて混乱してるのはあるんだよ。俺が、このままで居られるかも分からないからさ」
自分の血の繋がった妹ではなかったこと。そして、俺の隠されていた妖精種という事実。
何よりも、それは俺の両親達が知らないと言うことはないだろうと言う事実……ティータは、俺の元を去るかも知れない可能性。どうしようもない可能性が俺を苛むのだ。
「大丈夫ですよ! だって、ティータちゃんも召喚術士さんの事が大好きですから!」
「……バンシーは脳天気で良いな」
「ちょっとなんですか! 失礼な事をいいますね!」
怒っているバンシーだが……その言葉は、俺の気持ちを軽くしてくれた。
そうだな……別に、どんな事情があろうと最初に決めたティータという家族を守るという気持ちに嘘はない。ならば、それを守れば良いのだ。
「聞いてくれて助かった。それじゃあ、俺はちょっと眠る」
「……はい、お休みなさい」
俺の顔を見たバンシーは、笑顔を浮かべて何も言わずそういう。
そして見守られながら、俺は今度こそ夢の世界に旅立っていくのだった。
――次の日。目が覚めると既に朝日は高く登っている。
起きて体を伸ばしていると、俺の部屋にノックの音が響く。
「……はい?」
「アレイ様。フェレス様がお待ちです」
「行きましょう、召喚術士さん!」
バンシーに促されて部屋を出る……いよいよ、全てが分かるときが来たのか。
覚悟を決めて、俺は部屋を出る。そこには、いつもと変わらない様子のイチノさんが佇んでいた。
「イチノさん。案内をお願いします」
「畏まりました」
客室では、既に借金取りとラトゥ……ジャバウォックも既に揃って待っていた。
「……ラトゥ達もか?」
「あの場に居た人間は、全て集めております」
「なるほど」
そして、空いている席に座り久々に借金取りと対面する。
……相変わらず、胡散臭い笑顔を浮かべている。
「いやー、お久しぶりですね。アレイさん。それと、他の方々もお噂は兼々。私はフェレスと申します。金品の貸し借りを主に扱っているわけですので、ご入り用の際には私にお声がけをして頂ければ語融通致しますよ」
「ラトゥですわ。グランガーデン家の末席として、覚えて頂ければと思いますわ」
「ええ、勿論存じております。冒険者として活躍をしていますが、吸血種の名家であるグランガーデン家の次期当主としても同族の間で名高いラトゥ様ですからね。こうして出会えて光栄です」
「……そんな事実はありませんわ」
厳しい顔をして否定するラトゥだが、恐らく実際に吸血種達の間では噂になっているのだろう。
……そこまで知って居るぞと言うアピールか。
「そして、そちらの竜人種の方は……」
「ジャックだ」
「ジャック様ですね。アレイ様の新しい仲間の方と言うことで」
流石にジャバウォックに関しては分からなかったのか、あまり深くは触れなかった。
……さて、そろそろ本題だ。俺は借金取りを真っ直ぐに見つめる。
「それじゃあ……そろそろ教えてください。ティータのこと」
「――分かりました。では、お話をしましょうか」
そして、一息ついてから話始める。
「まず、最初に……アレイさんとティータさんには血縁関係はありません」
「……やっぱりか」
「おや、驚かないのですね」
「そのくらいの事実は覚悟してたんで」
種族が違うのだ。血縁関係程度は今更だ。
……ただ、まだまだ他にも驚くような事実があるのだろう。
「そして、血縁関係が無いということはご理解頂けると思いますが……ティータさんを連れてきたのはアレイさんのご両親ですね。そして、その後両親が何をしようとしたのかというと……」
「――」
「国家転覆を狙ったクーデターを起こそうとしたんですよ」
「……はぁ!? 嘘だろ!?」
流石に、それは予想してなかった。
あまりにもあまりな事実に、思わず立ち上がってしまうほどに驚く。
「嘘じゃありませんよ。ちゃんと説明しますので、落ち着いて」
そういう借金取り。今にも平静を失いそうな気持ちを落ち着けながら俺は座る。
「さて、まずはアレイさんのご両親はアレイさんが不在の間に各所へ借金を重ねてどうしようもなくなった……というのに嘘はありません。そのせいで、彼らは金策だの踏み倒す手段だのを探すのに躍起になっていたようですね」
(そこは嘘であって欲しかったな……)
「まあ、借金を返済するために借金をする……というにっちもさっちもいかない状況になって、彼らに転機が訪れます。裏社会に繋がりがあったらしく、かなりの上客だったようで……そこに持ちかけられたのが、人身売買組織からの貴重な魔種の子供を買わないかという話です」
……それが、ティータだというのか。
だが、それでもおかしい。それは、国家転覆に繋がるような要素ではない。
「妖精種は謎が多いのですが、その中に……取り替え子というのがあるのは知っていますか?」
「ああ、昨日聞いたばっかりだ」
「ええ。そして、とある魔法使いの方が提唱したのですが……妖精種とは、人の営みに憧れた妖精が望みを叶えた姿だという話です。つまり、妖精種は精神的な生物であり、肉体がそれに合わせて変質をするというもの」
……嫌な想像が駆け巡る。
「例えばですが……妖精種を育ててる上で自分のことを正当な王家の後継者だと信じさせて育成すれば、肉体がそれに合わせて変化をするという可能性がある。どうやら、アレイさんのご両親はそれを考えついたらしいですね」
「……馬鹿馬鹿しいですわ」
「ですが、否定は出来ないでしょう? それほどまでの妖精種というのは常識から外れた存在ですから。ただ、妖精種である事を隠す必要がありますので無理が生じる。そのため、肉体と精神の齟齬によって異常なまでに脆く不安定になってしまうわけです」
ティータは病弱というわけではなく、無理をしている状態が続いて肉体が悲鳴を上げていたのだ。
「医者って言うのは、その事情を知って手伝っていた奴がいるのか」
「ええ。妖精種だと自己認識させずに延命をして、肉体と精神のバランスが取れるように色々と手を尽くしていた医者がいましてね。まあ、医者と言うよりも学者寄りの魔法使いと言う方が正しいですが」
……なら、俺が医者に会ったことがないのも当然か。
俺が違和感を持ちすぎないように。両親の借金や様々な都合に関しては仕方ないだろう。だが、ティータに関する事での違和感は俺は見過ごす事が出来なかった。
「そして、その実験は実は半分以上成功していたのですよ」
「成功しかけていたって……本当ですの?」
「ええ。隔離した環境で、妖精種と言うことを隠して情報を制限。そして、父親と母親は自分たちこそが本当の王と王妃だと印象づけるためにめかし込んで、出会う時は舞台役者顔負けの演技をしていたそうですよ。さらに、治療の一環という名目で極秘に入手した王族の血を輸血していたとも」
「でも、失敗したんだよな?」
その言葉に、頷く借金取り。
「そうですね……それが、アレイさん。全ての始まりなのですよ」
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