第111話 ジョニーと予想外と
屋敷に戻ると、そこには既にイチノさんが待っていた。
今まで呼ぶまで待ってくれていなかったイチノさんがで迎えてくれることに、ちょっと嬉しさを感じる。
「ただいま帰りました、イチノさ……」
「――アレイ様、そちらは?」
「む、我か?」
そして視線を向けたのはジャバウォック。イチノさんは既に、ジャバウォックを見た瞬間に臨戦態勢に入っていた……そういえば、ラトゥの時ですら警戒をしていたのだ。ジャバウォックのことを、ラトゥ以上に警戒していたとしても何もおかしくはないのか。
一方のジャバウォックは……興味が無いとばかりに屋敷の周囲を眺めているのだが。
「ええっと、俺の契約した新しい仲間です。ジャックって言うんですけど」
「竜人種ですか……吸血種といい。何故そうも魔種の中でもトップクラスの存在ばかり連れてくるのですか」
「……成り行きというか、偶然というか……」
その言葉に、なんとも言えない視線を向けてくるイチノさん。
……俺だって別に狙ってるわけじゃないのだが。
「それで、次にダンジョンに挑んだら何を連れてくるのですか? エルフや鬼種を連れてくるつもりですか」
「いや、そんなことは……いや、アリか……?」
エルフというのは、斥候能力に優れている森で生きる存在だ。魔法にも優れていると聞く。鬼種は、肉体的に優れているらしい。どちらも、今の手持ちと組み合わせることを考えても確かに……
「……いえ、失礼しました。アレイ様に行っても詮無きことではありましたね。とはいえ、そろそろ追加人員も検討しなくてはなりませんね」
「追加人員……?」
その言葉に、イチノさんは頷く。
表情は変わらないが、それは親しげなものではなく借金取りの部下としての態度だ。
「もはや、私一人で制圧を出来るラインを超えたからです。こうなるとは思いも致しませんでした。こうなったのは、アレイ様が優秀なのか……まず、猶予を持たせたのが悪かったのか……はたまた、運が悪いのか……それとも、全てですかね」
「制圧って……」
「私としても、一人で事足りない事に自分の無力を感じています。ですが、フェレス様も言っておりますが……現実を正しく認識できなければなりません。では、ジャック様のお部屋の準備をして参ります」
ため息を吐いて、屋敷の中へと戻っていくイチノさん……なんだか、哀愁が背中に漂っている。
どうやら、相当に追加人員を呼ばなければならないことがショックなようだ。
「……俺、悪いことをした気になるな」
「気にしなくても良いと思いますわ。元より立場が違いますのよ。そういう相手と、絶対にわかり合えると言うことはありませんもの」
そう言いつつ、ちょっと嬉しそうな声色のラトゥ。多分、犬猿の仲だったのが原因だろう。
……そういえば、気になってジャバウォックに聞いてみる。
「そういえば、イチノさんには反応しないんだな? かなり警戒されてたのに。あの人、凄く強いはずらしいけど」
「確かに実力はあった。そこらの凡夫では一方的に狩られるだけだろう。だが、竜は殺せん。賢しすぎる。竜に挑む愚かさがないものに、興味は引かれん」
そういってのけるジャバウォック。
……ただ強いだけではダメだというわけか。まあ、確かに竜に挑もうなどと考えるのは蛮勇だと言われて否定は出来ないが。そんなことを考えながら屋敷の中に入ると、帰ってきたという安心感がある。だが、物足りない。
「……ティータは大丈夫かな」
「ふむ、ティータというのは誰だ?」
「俺の妹だよ」
妹という言葉に興味を引かれたという表情を見せるジャバウォック。
「妹というのは、血の繋がった同族のことだな。ふむ、アレイの同族か。興味が引かれるな」
「……とは言っても、寝てるだけだと思うぞ。お前はショックが大きいかも知れないから、あんまり合わせたくない」
「あ、それなら私も一緒に付いていってもよろしくて? アレイさんの妹さんには興味がありますわ」
「……ラトゥならいいか。まあ、起きて無い可能性が高いけど……折角なら、色々と話をしてあげたいから行くか」
そう言って、部屋に案内する前にラトゥ達を連れてティータの部屋まで行く。
ティータの部屋は、扉が閉められていて鍵がかかっている。部屋の前でノックをするが反応はない。
「……やっぱり起きてないのか」
「アレイ様。部屋の準備が出来ましたが……ティータ様はお休み中です」
と、イチノさんが背後からやってくる。
……そこで、俺は気になっていたことをイチノさんに聞いてみる。
「医者はなんて言ってるんですか? 流石に、一月経過してもまだ体調が戻らないのは大丈夫じゃないですよね。俺も、家族だから教えて欲しいんですけど」
「……詳しい話をするのは禁じられています。ティータ様の容態に関して、詳しい話は決してアレイ様が知ることはありません」
「なっ!? ……それは、借金取りの命令なんですか?」
「あの……」
イチノさんは俺の質問に対して肯定もしないが、否定もしない。つまり、口止めをしているのは借金取りというわけか。
だが、その言葉はあまりにも酷いではないか。俺には、ティータの事を知る権利もないのか。
「ティータは俺の家族だから、せめて病状くらいは教えてくれてもいいんじゃないですか!? 俺だって、ティータが一刻も早く治って欲しいのは一緒ですよね!?」
「ティータ様につきましては、こちらの管轄です。アレイ様にはご自身でやることがあります」
「だからって、教えないのはおかしいでしょう!」
「あの! お二人とも!」
と、大きな声を出すラトゥ。
熱くなりすぎて、ラトゥの声が聞こえて無かった。
「えっと、どうしました?」
「聞こえていましたから、大きな声を出さないでください」
「……その、ジャックが部屋に入ったんですが……いいんですの?」
その言葉に、俺とイチノさんは思わず扉を見る。
……確かに、空いていた。鍵が掛かっているはずなのに、ねじ切られていた。それを見て、イチノさんは驚きの表情を浮かべる。
「なっ……! 魔具での防護までしていたのに!?」
「おい、ジャック! 何してるんだ! 鍵掛かってる扉を壊したらダメなんだぞ!」
「おお、そうなのか」
部屋の中で、興味深そうにティータを見ているジャバウォック。
俺も久々に入って……ティータの顔を見て、思わず息を呑んだ。
「……ティータ」
「これが、アレイさんの妹ですのね……?」
呼吸は浅い。今にも、溶け出して消えてしまいそうなほどに顔色は悪い。
思わず手を取ってみるが、体温が存在しないかのように低い。このまま、消えてしまうのではないかと思う程に。
「……ティータ」
「……お、にい……さま……?」
「ティータ! 大丈夫か!? 帰ってきたからな!」
「……よかった……ごぶじで……また、おはなし……」
しかし、言い切ることも出来ずに眠りについてしまう。
……今の惨状を目の当たりにして、思わず天を仰いだ。
「……どうして」
「ふむ、アレイよ。質問があるのだが」
「……なんだ?」
変な事を言ったら、怒るぞとばかりの視線を向ける。
そんな、ジャバウォックは俺とティータを見比べて質問をする。
「妖精種の妹とは珍しいが、種族が違っても血縁関係というのは成り立つものなのか?」
「……は?」
――突然、俺に対して爆弾発言をぶち込んでくるのだった。
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