屋敷防衛編

第109話 ジョニー達は帰還する

 契約をして、自身の体が竜人種に変化したジャバウォックは面白そうに竜人種としての肉体を観察していた。

 見た目はどちらかと言えば俺達に近い方だろう。竜人種は、個体差が大きい。頭部が完全に竜族なパターンもあれば、他の種族と同じような見た目になる場合もあるのだが……


「ふむ、こうなるのか。面白い物だな」

「……ドラゴンのままよりはいいんだが、なんでわざわざ竜人種になったんだ? それに、見た目も竜よりも俺達に近い姿になったのかも気になる。契約したモンスターの見た目は本人の性質に併せて変化するけど、ジャバウォックはそういうわけじゃないだろう?」

「そうだな。恐らくだが、アレイの魔力量に併せて適切な形に変化したのだろう。我としても、別に体に拘りはない故に、この姿になった可能性が高いな」


 ……そう言われると納得だ。恐らく、竜人種の姿……そして、俺達に近しい姿の方が魔力の消費量が少ないのだ。だから、ジャバウォックは俺の魔力に見合った姿になったというわけか。

 俺の魔力がとんでもなく多かった場合、竜の姿のままで仲間になったのか。


「こうしてみると、竜とは思えませんわね。男性と女性、どちらですの?」

「性別はない。元より、竜は発生するものだ。子供を産むという事は無いからな」

「……そう聞くと、本当に不思議な存在ですわね」

「送還は無理か……まあ、元々は竜としての肉体を持ってるからな。それが変化したわけだから……うん、やっぱり俺達の常識外だな」


 見た目だけで言えば、人間に角や鱗、竜の特徴が増えた程度にしか見えないので一見すれば違いなど分からないだろう。ドラゴンという存在は、畏敬の念を持って扱われるが……正直、災害としての側面もある。つまり、存在するだけで騒動が起きると言っても過言ではない。肉体を持つジャバウォックを送還出来ない以上は、こうして竜人種の姿になったのは今後を考えても助かる。

 しかし、ジャバウォックとの契約を出来たことはいいのだが……問題がある。


「なあ、このダンジョンの最下層のボスはどうなるんだ? ジャバウォックが、そのままダンジョンのボスを続けるって事なら色々と問題があるんだが……」

「そういえば、冒険者ギルドへの報告もありましたわね……」


 ラトゥの言うとおり、ダンジョンに関して帰還した後に冒険者ギルドへ報告をする必要があるのだが……正直に伝えるつもりはない。今回のダンジョンで起きたことに関してのギルドへの報告は必要だが、正確に全て報告した場合には魔具だの手に入れた物などは全ていったん没収をされる。そして、その中で危険すぎると判断された物をギルドに没収されるのだ。なので、冒険者達は自分たちで使う魔具や没収されたくない場合には隠して報告するのが常だ。

 だから、可能ならドラゴンのことは伏せたままで冒険者ギルドには情報を伝えたい。場合によっては、ドラゴンと契約をした召喚符を回収される危険すらあるからだ。だが、ボスが不在となれば報告に虚偽があると認定される。そういう考えから聞いた疑問に対して、ジャバウォックは納得したように頷いた。


「ふむ。確かに我がいない間もここに挑戦者が来るわけか。報酬もなく、返すのも不義理であろうな。では、こうするとしよう」


 ちょっと意図とは違うが、理解してくれたジャバウォックが指を鳴らすと背後に突如として巨大な何かが現れた。

 それは巨大な骨で作られたドラゴンだった。

 

「……骨のドラゴン?」

「我の本体の魔力を使って創り上げた代えの守護者だ。竜というには、少々弱いだろうが上の階層にいる守護者よりは多少は戦える性能はしているであろう。これで問題は無いだろうか?」

「多分、それで大丈夫だと思うぞ。ありがとうな」

「……本当に、規格外ですわ……まさか、魔力の残滓を使う事で擬似的なモンスターを作り出すなんて……」


 ラトゥは、感心したように骨のドラゴンに触れている。今は戦う態勢ではないのか、好き勝手にされているようだ。

 ……冒険者ギルドには、骨で出来たドラゴンを相手に大立ち周りをしたという説明をするとしよう。実際に確認されても話の筋が通らないと言うことはない。後は、帰還するだけだ。


「……そういえば、帰り道はまた戦わないとダメなのか?」

「我がいれば襲ってくることはない。元より、我に挑む資格を試すための道中だ。最下層からの帰還者に対しては、小物共以外は手出しをしてくることはない」

「なるほど……なら、少し休んでから帰還するための準備をすれば良いか」


 制限時間も無ければ、別に戦いが待っているわけではない。

 今度こそ、本当の意味で一息ついた。ふと気になり、もう一つジャバウォックに質問をする。


「……そういえば、ジャバウォック。どこまで力を使えるんだ?」

「どこまでというのは?」

「制限だったり、本来の力を使えないとか……」

「別にあるまい。我の力の制限など、契約にはなかったであろう」


 ……その一言は予想外だ。

 ドラゴンの力を、敵にしていた時と変わらずに使う事が出来る? 脳裏に、あれだけの被害を及ぼしたドラゴンの力を思い返して震えそうになる。


「……ちょっと、試しに竜の力を使って貰っていいか?」

「構わんぞ」


 そして、ジャバウォックは竜人種の姿からドラゴンの体へと変貌し――


「あ」

「アレイさん!?」


 ラトゥの悲鳴が最後に聞こえ……目の前が真っ暗になるのだった。



 ……光を感じる。

 まるで、頭を万力で締め付けられているかのような激痛を感じながら意識を取り戻した。しかし、痛みのあまり目を開けられない。


「――うぐ……いてえ……」


 だが、このままで居るわけには行かないと目を覚ます。

 すると、ラトゥが心配そうに俺の顔をのぞき込んでいる。どうやら、気絶している俺をしっかりとした寝袋で寝かせた上で看病してくれていたようだ。


「アレイさん……良かった、目を覚ましましたのね」

「……気絶してたのか。ありがとうな……ラトゥ……あー、頭が痛い……」


 この気絶したときの感覚は覚えている。最初のダンジョンで魔力を使い切ったときと同じだ。

 どうやら、ドラゴンの力を使う際に俺の魔力を全部吸い上げたらしい。そのせいで、俺は魔力が欠乏して気絶した……というわけらしい。普通に契約して問題が無かったので油断していた。


「もう! 心配をさせないでくださいまし! このまま起きなかったらと思うと……!」

「……本当に悪い……」

「ふむ、どうやら竜の姿に戻るだけでもアレイには荷が重いようだな。少々、力の使い方も我の方で考えるか」

「……すまないな、ジャバウォック……」


 ……これは、いずれ元気なときにどこまで無理を出来るのか確認する必要がありそうだ。

 色々と課題は多いが……まあ、帰ってから考えるとしよう。


「じゃあ、帰るか……先に帰還するために魔具を起動しておかないとな」


 そして、バッグの中を見て……頭痛を忘れそうになるほどの衝撃が走る。


「……ラトゥ、俺が眠ってからどのくらい経過したか分かるか?」

「少なくとも、二四時間以上は眠っていましたわ。私も、アレイさんの看病をしながら眠りましたもの……その、もしかして……」

「……いつの間にか、呼ぶための魔具が起動してる……しかも、いつ起動したのかも分からない……」


 つまり、既に馬車はここに来ている可能性もある。

 ――それに思い当たった俺とラトゥは顔を見合わせて全力で支度をして走り始めるのだった。

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