第106話 ジョニー達と決着と
ドラゴンの攻撃を俺とグレムリンは必死に回避をする。ドラゴンは自分が幻惑を見せられていると理解してから攻撃のパターンを変化させていた。
当たらないのであれば、範囲で巻き込むように攻撃すれば良いという方法。広範囲をなぎ払うような攻撃を連発していた。
「とっ、危ねえ!」
「シェイプシフターさん! こちらですわ!」
「!」
威力と速度に優れたブレスではなく、魔力を吐き出して広範囲をなぎ払うようにしていた。それに加え、魔法陣から魔力によるレーザーを放ち、自身の周囲を無差別に攻撃している。
ラトゥやシェイプシフターからの攻撃を食らった時には、反撃とばかりにその巨体とを凶器としてがむしゃらに振り回し、なぎ払っていく。大雑把とも言える対処法だが、それが何よりも効果的な戦い方になるのがドラゴンなのだ。その余波だけで、目の前で戦っているラトゥやシェイプシフターだけではなく、近寄ろうとしている俺やグレムリンですら危うく持って行かれそうになるほどだ
(直撃所か、掠っただけでも死ぬ! クソ、これだけ動かれたらマトモに弱点を探すために観察すらできない! 弱点を見つけるにはどうするべきだ!?)
俺とグレムリンで、お互いに弱点になる可能性のある逆鱗を探しているが……当然ながら、そう簡単に見つかるわけがない。さらに、詳しく観察するには余裕が足りなさすぎる。
少しでも、観察を深めようと足を止めれば――
「クソ、マズい!」
「シェイプシフターさん!」
「!」
俺の動きが止まった瞬間に、ブレスを構えるドラゴン。ラトゥとシェイプシフターは、俺に当たりそうだと判断した瞬間に連携してドラゴンの口を蹴り上げて攻撃を止める。
魔法と違って、ブレスは口を開いて魔力を吐き出す。だから、発射口を強制的に潰せばブレスは止められる。しかし、それだけラトゥ達の時間を無駄にしてしまう。
『やはり、司令塔はその男か。守るという意思が統一されているな。だが、それは弱点でもある』
「――クソ! 目を付けられてるよな!!」
ドラゴンの周囲に魔法陣が幾つも現れて、そこから魔力のレーザーが放たれる。更に、ドラゴンは翼をはためかせながら高速旋回。縦横無尽に破壊をまき散らす。
認識がずれても、完全に幻覚を見ているわけでないのなら全て破壊すれば良い。シンプルだからこそ、対処が難しい。俺は必死に攻撃から逃げる。
「くっ、おおおおお!」
「――召喚術士! ソロソロ攻撃ガ終ワルゾ! 頑張レ!」
「もう、頑張ってんだよ!」
必死に叫びながら逃げ回って、ようやくドラゴンの攻撃が止まった。
……こちらが、なんとかしようと打った手を全て圧倒的なまでの種族による暴力で押し返してくる。全くもって理不尽だ。
『ああ、楽しいな。全くもって、楽しい時間だ。さあ、もっと見せてみよ。まだ、あるのだろう?』
ドラゴンは、そう叫びながら哄笑する。それは、この戦いを心底楽しんでいると言う声だ。
楽しいと言う言葉に、俺は思わず何も楽しくないと言い返したいくらいの気分だ。もう、何もかもを出し切ってなんとか誤魔化してやっているというのに。
(ザントマンの時間はあと少し。ラトゥとシェイプシフターも耐えているが、徐々に動きに疲れが見えている。それに、ラトゥの暴走状態も残り少ない)
何かしらのヒントが欲しい。
今の状態では、リスクを取る以前の問題だ。だからせめて何かしらの予兆を……待てよ? そこで、先程の違和感に気づいた。
「――グレムリン、なんでドラゴンの攻撃の終わりが分かったんだ?」
「ン?」
「あの時、攻撃が終わるって叫んだだろ? 何をヒントにして判断したんだ?」
「ドラゴンノ、魔法陣ヲ出シタ後ニ徐々ニ端ノ魔法陣カラ消エテイクンダ。ソレヲ見テ、終ワルタイミングヲ計ッタ」
「――それだ!」
それは、値千金の情報だった。
俺は回避に必死でそこまで見る余裕はなかった。だが、魔法陣の消える順番があるというのはつまり――
「最後に消えた魔法陣はどこだ!? グレムリン!」
「最後ニカ!? ……喉ダッタ気ガスルゾ」
――つまり、魔法を使う際に魔力の集中する場所は喉だ。
魔法陣を意図的に消しているなどはありえない。いわば、それは生存するための創意工夫だ……そんな工夫をする必要が無いほどに、ドラゴンという存在は格が違うのだ。
「――ラトゥ、シェイプシフター! 見つけたぞ!」
「!」
「――分かりましたわ!」
俺の意図が伝わり、二人は俺達をサポートする動きに切り替えるだろう。
――ドラゴンの喉。そこに、逆鱗があるはずだ……そこを狙えばチャンスがある。
『ほう、目の色が変わったな。何か、良い案でも思いついたか?』
「ええ、貴方を倒す方法ですわ!」
「!」
その言葉を聞いて、嬉しそうな咆哮を上げるドラゴン。
『それは面白い。さあ、見せてみろ。我を倒す方法とやらを』
――倒すために必要なのは、ドラゴンの体を吹き飛ばすような火力だろう。
であれば……
「グレムリン!」
「アア、用意シテアル!」
最初にバーサーカーの長を吹き飛ばした爆弾はないが……残った爆弾は、まだある。
威力自体は低いかも知れない。だが……
「アリッタケノ爆弾ヲ、詰メ込ンダ!」
そう言ってみせるのは、ズタ袋。残った全ての爆弾を一つに纏めたのだ。
威力は魔法によって起爆したときに想像を超える火力を出していた。魔力に反応するのであれば……
(ドラゴンの魔力と相まって、大爆発を起こすはずだ!)
――そして、俺とグレムリンは駆け出す。
ドラゴンに意図を読まれてはいけない。
『ふむ、何を考えているかは分からんが……人間共を我の側に近寄らせなければいいのだろう?』
もう一度、魔法陣を周囲へと展開していき、無差別爆撃をしようとするドラゴン。
向いている方向は……当然ながら俺とグレムリンの方向だ。
「クソ、アレをもう一度やられるのは――」
「私が、ここで食い止めますわっ!」
ラトゥはそういうと自身の手のひらに爪を立てて血を流す。
ラトゥから流れ出る血液は……まるで、生きているかのようにラトゥの手に収まり、それは一本の剣になった。
「くっ……【魔血剣】。本当の、私の切り札ですわ」
禍々しい血で出来た剣をラトゥは握り……ドラゴンに向かって振るった。
一閃したその剣は、血の斬撃を飛ばし――魔法陣に触れ、それを切り裂いた。さらに、その背後のドラゴンの肉体に触れると、まるでバターでも解かすかのように切り裂き、地面をドラゴンの血で濡らした。思わず、呆気にとられそうになる。
ドラゴンは冷静に自身の傷を見て面白そうに呟く。
『なるほど。魔力を切るか。面白いが……吸血種が血を流しているのならいつまでそれを保てる? それに、切り裂くだけで呪詛も振りまくものではあるまい。』
「貴方を倒すまでは、保たせれますわ……!」
切り札という言葉通りの威力だが……振るうラトゥは、もはや顔色は死人のように青く血色が悪くなっている。恐らく、短時間……そして、最悪の場合に命に関わるほどの切り札なのだ。
そして、切り裂かれたドラゴンの体は既に傷が塞がり完治している……どこまでも、反則な性能をしている。だが、それでもあの剣を持ったラトゥに対してドラゴンは集中せざるを得ない。
「グレムリン!」
「ワカッタ!」
グレムリンは俺にズタ袋を投げ渡す。この中に、爆弾が詰まっているのだ。
そして、俺からもバッグの中に入れていた水筒を投げてグレムリンに渡した。一瞬だけ視線を向けたドラゴンは認識してしまった。そのまま、俺達は二手に分かれてドラゴンに向かって特攻をしていく。
(……相手からすれば、どっちが本命かは分かっていないはずだ。だから、攻撃をするときに迷いが生まれる)
一瞬でも良い。相手が迷えば時間は作れる。
そんな俺達の戦略と決死の覚悟に、どこまでも嬉しそうに笑っているドラゴン。
『く、はは、ははは! さあ、届かせてみよ! 力無き物の牙を!』
そう叫ぶドラゴンは、ラトゥの妨害を無視して魔法陣を起動し、破壊をばら撒く。
俺達は一歩間違えれば消し飛び、跡形も残らないような攻撃の中を走り抜ける。ラトゥは、致命的になりそうな魔法陣を切り裂き全力でサポートしてくれる――だがその時、俺の目の前にドラゴンの尾が迫っていた。
「ナッ!?」
「――嘘だろ」
感覚を狂わされているドラゴンの攻撃が俺達に向かったのは偶然だろう。今はただ、ひたすらに攻撃をばら撒いているだけだ。
だがらこそ、予想外の出来事に回避の態勢すら取れない。死を覚悟する。
(ここまでなのか――)
「!!」
――だが、覚悟をしていた俺は浮遊感を感じて……気付けば、空中に浮かんでいた。それと共に、繋がっていた魔力の感覚が一つ消える。
消えたのは……シェイプシフターとの繋がり。そして、何が起きたのかを理解する。俺を助けるために、無理矢理攻撃に割り込んでシェイプシフターが弾き飛ばしたのだ。だが、その代わりシェイプシフターはドラゴンの尾による一撃を食らった。
(……足を止めるな!)
地面に不格好に落下して転ける。痛みも無視をして立ち上がる。
代償は、大きい。それでも、次に繋がったのだ。それを、どうして俺が無駄に出来る。そして、正面を見れば――
『――さて、吸血種よ。見事だった』
「げほっ……」
ドラゴンの目の前で戦っていたラトゥは膝を突き、血で作られた剣は崩れ去っていた。
ついに、ラトゥの限界が訪れたのだろう。そして、ドラゴンの目はこちらを向いた。――ドラゴンはブレスを吐こうと魔力を込めている。
『くはは! さあ、人間よ! どうする!? まだあるのか!?』
(このタイミングは、間に合わな――)
その瞬間、ドラゴンは驚いたかのように視線をずらした。
『――何だと?』
だが、そこには何もなく……そして、気付いたかのようにドラゴンは叫んだ。
『……幻覚か!』
背後から、また俺と繋がっていた魔力が切れる感覚。
――ザントマンが、消滅した。体が崩壊しながらも、幻惑の魔法を維持し続けていたザントマンは何も言わず、ただ黙してサポートに専念してそのまま倒れたのだ。
――繋げられ続けたバトンを受け取り、俺は背負っていたズタ袋を投げようとする。
「くっ、おおおおお!」
『だが、遅い』
たった一瞬の隙。それでも、俺が行動を起こすよりもドラゴンの反応の方が早かった。こちらを向いて、ブレスを吐き出そうとする。
「――間ニ、合ッタ!」
その瞬間。俺よりも、ドラゴンのブレスよりも早く飛び混んだ姿を目にする。
それは、グレムリンだった。だが、爆弾は俺の手元に……
「悪イナ、召喚術士」
グレムリンは、俺に向かって叫んだ。
「……まさか、お前」
「コウシナイト、ドラゴンヲ騙セナイト思ッテナ」
――ダンジョンに来たばかりの言葉を思い出す。
「モシモノ時ニハ自爆モ出来ルゾ」という、グレムリンの言葉。そして、俺には取る事の出来ない確実な方法。
「コレガ一番、確実ダロウ!」
グレムリンはそう言って、ブレスを吐こうとする口の中へと自ら飛び混んでいった。投げた爆弾など、回避される可能性もあれば弾き飛ばされる可能性も高い。何よりも……外部からの爆発は、致命傷になるかどうかも怪しい。だが、内部からであれば? それを、グレムリンは実践しようとしていた。
――あの爆弾は、魔力に反応する。だから、アガシオンが魔法を使って起爆したときはグレムリンの予想を大きく超える規模の爆発をしたのだ。そして、ドラゴンのブレスというアガシオンの魔法をも超える魔力に触れれば――
『――く、ははははは! 見事だ! 見事だ!!』
哄笑。既にドラゴンのブレスは止まらない。大量の爆弾を抱えたグレムリンと、ブレスの魔力が反応する。
部屋の中の魔力が、一カ所に吸い寄せられるような感覚。
――そして、次の瞬間に……世界は真っ白に染まったのだった。
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