第104話 ジョニー達と激戦と

 最初にシェイプシフターの模倣先をどうするかだ。生半可な模倣ではいけない。あれだけの魔力が荒ぶる場所では、シェイプシフターの模倣が完全でなければそこから破壊されてしまう可能性もある。

 だが、ドラゴンの咆哮を考えればスライムメイルにするわけには行かない。以前にも迷宮で戦った時に音による内部への攻撃は明確な弱点だった。だから、それ以外の選択肢でルイの姿になっているシェイプシフターをどの姿にさせるか……いや、違うな。


「シェイプシフター、お前が出来る一番良い模倣先を選んでくれ」

「……!」


 俺が責任を持って決めるべきかもしれない……だが、この状況では死力を尽くす以外に選択肢は存在しない。

 ならば、シェイプシフター自身が一番自分の事を分かっているはずだ。死力を尽くす事が出来る模倣先に任せるしかない。そして、シェイプシフターの見た目は変化していく。


「――!」

「……なるほど、そうか。そういう手があったか」


 その変身した姿を見て、思わず自分の頭が固かったと感じてしまった。

 ――シェイプシフターは、ラトゥを模倣していた。過去にやっていたというのに、自分でも発想が抜けていた。だが、暴走状態のラトゥの模倣は出来なかったようで、通常状態のラトゥのままだ。

 だが、それでもラトゥが二人居るという状況は


(――ラトゥが二人いるとなれば……やりようはある。ただし、問題は俺もザントマンも運動能力が低い。ドラゴンに近寄るまでに、どこまで出来る?)


 ドラゴンは決して素早い動きというわけではない。だが、その竜の鱗は生半可な武器よりも堅く鋭い。さらに、高い知性と圧倒的な魔力を持っている。それを相手にするときに、ラトゥ程の身体能力が無ければ避けるのは難しい。

 ……だが、方法がないのなら残るのは自分次第だ。


「ザントマン、お前はドラゴンに対して能力を使って貰う。いったん送還して、俺が近づいてから召喚する。いいか?」

「はいはい、了解だよ。まあ、召喚術士くんも無理はしないようにね」


 ザントマンに心配されながらも、送還していく。ザントマンの幻惑の砂……これは、ある意味では通用するか不明だがこれ次第で随分と話が変わるだろう。

 眠らせる砂が効果的かどうかで考えれば、通用する可能性は薄い。サラマンダーには通用したが、サラマンダー自体は格の高いモンスターではない。竜のような魔力の塊のようなモンスターには通用しない可能性が高いだろう。だが、幻惑の砂であれば魔法であり固有の能力である以上、効果は見込むことが出来る。


「ソレデ、ドウヤッテ近寄ル?」

「……すまん。ここから頼り切りになるが……シェイプシフター、頼んで良いか?」

「――ッ!」


 シェイプシフターは俺の指示を聞いて、頷いた。

 ラトゥの能力を使うことが出来る……それも、ラトゥ本人が苦手としていた肉体の変化を本人よりも使いこなせるのだ。それを利用することが出来れば……


「――まずは、近寄るぞ!」

「無理ハシナイヨウニナ!」


 俺とグレムリンは一緒に走り始める。そして、シェイプシフターは俺達に先行して道を切り開く。

 ――ラトゥは、ドラゴンと戦い俺達のために時間を作っている。だからこそ、この時間を無駄にすることは出来ない。


『ほう、そちらも来るか』

「――!」

『ふむ、その姿は……模倣か。完璧とは言えないが、面白い物だな。そして、力無き人間も来るか。いいだろう!』


 嬉しそうな竜の声が聞こえたと同時に、目の前を焼き尽くすような閃光。それは、竜の口の中に収束する魔力の光だ。

 そして、その照準は俺に向けられている――


「スマン、召喚術士!」

「ぐぅう!?」


 突如として、爆発と共に俺は弾き飛ばされた。

 そして、俺が先程まで居た場所を竜のブレス……いや、それは吐息と呼んで良いのだろうか。通った道を全て焼き尽くす閃光だ。

 グレムリンは、咄嗟の判断で威力の低い爆弾によって俺を弾き飛ばした。爆発の直撃で無事など当然あるわけもなく、俺の右腕は肉が抉れて体は痛みで悲鳴を上げている。それでも、爆発によって強制的に弾き飛ばさなければ命が失われていただろう。


(……死ぬほど痛いが、命に比べて安いもんだ)

『躱したか。しかし、面白い避け方をするものだ』


 余裕のある言葉。ラトゥを正面切って相手にしながら、一切余裕は消えていない。恐らく、竜という種族からすれば人間のひ弱さなど想像外だろう。

 油断をしているわけではない。違いすぎて、理解出来ないのだ。だからこそ、それは付け入るための隙になる可能性はある。


(だが、もう一回狙われるとなると……どうなるか分からないぞ)


 気付いた瞬間には、閃光が放たれてその射線上を消し炭に変えるレーザーのような攻撃。

 予兆は見えたが、その瞬間には既に回避は遅いのだ。グレムリンの咄嗟の判断で、放たれる前に爆弾を投げて吹き飛ばしてなんとかした。

 だが、何度も使える手ではない。だが、これ以上近寄りながら回避をするというのは難しい。


(……クソ、俺が足を引っ張ってるな)


 運動性能において、どうしても他のモンスターなどに比べて低い。

 だからこそ、どうにかして誤魔化す方法を考えなければ……


(シェイプシフターに他の模倣をして貰うのは無理だ。まず、俺を抱えたりして高機動で動けるわけじゃない。今のラトゥの状態がベストなはずだ。今で競っている状態だっていうのに、重荷を増やせば意味が無い)


 ――ふと、思いついた事がある。


「グレムリン!」

「ナンダ!?」

「お前の持っている爆弾を……には、出来ないか!?」

「……今カラ、手持チノ爆弾ヲ加工スレバ、スグニ出来ル」

「なら、今すぐ作ってくれ!」


 その言葉に、グレムリンはポーチから爆弾の一つを取り出すとすぐさま、作業に取りかかる。

 だが、当然ながらそれを見逃すような事はしてくれない。


『――ふむ、隙を見せるのは愚かだとは思わないか?』


 ブレスは、グレムリンを向いている……だが、それは織り込んでいる。


「ウオッ!?」

『ほう? なるほど、契約によって魔力による仮初めの肉体を形成しているのか』


 狙われた瞬間にグレムリンを送還して、再召喚する。爆弾は置いて行かれたが、攻撃は外れた。

 何が起きたのかを理解したグレムリンは、すぐさま新たな爆弾を取り出して作業を続けている。


『では、狙うべきは――』

「手元が、お留守ですわよ!」


 もう一度狙おうとブレスを構えたドラゴンの口を蹴り上げるラトゥ。

 ブレスが口の中で爆発してダメージ……と言うわけには行かないようだ。不発に終わる。


『ふむ、視界を外したのは失敗か』

「はぁ、はぁ……私を、無視するのは許しませんわよ」

『これは失礼をしたな』


 そのまま、またラトゥとドラゴンの激突が始まる。だが、ラトゥの目の色は徐々に薄くなっている。恐らく、血によるブーストが切れてきているのだろう。

 急がねばならない。そこで、グレムリンが叫ぶ。


「出来タゾ!」

「よくやった!」


 ――ここから竜に届かせるため、考えた作戦を実行する。

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