第103話 ジョニー達と挑戦
――ドラゴンの咆哮は、世界を揺るがす。
そんな言葉をお伽噺で聞いた。そして、何故そう言われているのかを俺達はその身で味わっていた。先程の挨拶のような咆哮とは違う……本気で、攻撃をする意図を持った咆哮はもはや兵器も同然だった。
『――――』
その振動で、転がっていた石が砕ける。魔力が振動し、突如として空中で爆発する。
恐らく、生物が咆哮の先に存在していれば粉微塵になって死ぬだろう。だが、そんな竜の咆哮をバンシーは能力によって防いでいてくれた。
「――っ! ぐっ、ううう! げほっ!」
「バンシー! 無理はするな!」
「――だ、い、じょう……ぶ、ですっ……! ――っ!」
まるで、ミサイルでも降り注ぐかのような攻撃をバンシーは声によって俺達の周囲に壁を作り、防御して防いでいる。しかし、その攻撃に耐えるためには声量を出す必要があり、バンシーは声を出しながらも苦しそうになっている。
だが、咄嗟に咆哮を防ぐために作ったバンシーの壁は俺達に時間を作ってくれた。無駄にしないためにも、まずはドラゴンを相手にどうするかを考えるしかない。
(ドラゴン……クソ、情報が少なすぎる。お伽噺に伝わるような有名な存在って言っても、あくまでもお伽噺レベルだ。戦ったなんていうのは酒場の与太話ですら出てこないくらいあり得ない話だぞ。まず、ドラゴン自体がお伽噺によってあまりにも生態だの結末だのが違いすぎるんだよ!)
ドラゴンスレイヤーの称号を持った戦士や冒険者が冒険や旅の末に、ドラゴンと出会って戦い実力を示す物語は幾つもある。だが、それは当然ながらお伽噺や物語でしかない。
……もしも、本気でドラゴンについて調べようと思うのなら竜人族の伝承やら文献を漁ってそこから推察を立てる位しか出来ないだろう。こういう時に頼れるのは――
「ラトゥ! 何かドラゴンに関する情報は無いか!?」
「申し訳ありませんわ! ドラゴンというのは、吸血種ですら噂でしか聞いたことがありませんの! もしも、あのドラゴンがドラゴンを騙る偽物であれば、まだ手はありますけども――」
だが、それはお互いにあり得ないと分かっている。
バンシーやグレムリン。まず、そう言っているラトゥ自身が相対したことで恐怖してしまうほどの存在なのだ。それが偽物なのはあり得ないだろう。
だが、逃げる事は出来ない。そして、諦めるなんて選択肢もあり得ない。ならば、持てる全てを使って勝ちを狙いに行くしかないのだ。だから、俺は提案をする。
「ラトゥ、俺の血を飲んでもう一度あの状態になれるか?」
「……ええ、この状況なら……手段は選んでいられませんわね」
意図的な暴走状態。吸血種としての力を引き出す事でドラゴンと渡り合うことは出来るはずだ。ラトゥもその提案に納得し、俺の首筋に歯を立てて血を飲んだ。
瞬間、ラトゥは暴走状態へと変貌する。その爛々と輝く目は、魔力を感じ取る能力が少ない人間からすればドラゴンよりも恐怖を感じさせる。そして、バンシーに向けて笑みを向けるラトゥ。
「――けほっ!」
「バンシーさん、ご苦労様ですわ。後は、私めに任せてくださいまし」
バンシーが限界を迎えて声が途切れた瞬間にラトゥが飛び出してドラゴンへと向かっていく。
大きさこそ、大した事は無い。だが、近寄るだけでも大気中の魔力が爆発し牙をむき続けるドラゴンに対して魔力を読み切り、ステップを刻みながら一瞬で距離を詰めていく。
ラトゥも気になるが、それよりもバンシーだ。
「バンシー、大丈夫か? 今から送還するぞ」
「けほっ、こほっ……」
もはや、それを断るような言葉を出すことは出来ない程に限界を迎えている。
……再召喚をしたとしても、この戦闘中にバンシーがもう一度戦えるだろうか? もはやここで諦める覚悟を持って俺は送還した。悲しそうな顔を浮かべて送還されたバンシーの代わりに、ザントマンを呼び出す。
「おっと、出番かな……いやあ、凄いね。僕の想像を毎回超えてくる。ドラゴンって」
「余裕がない。バンシーはもう限界だ。頼む」
「……了解だよ、我が主。僕も出来る限りで頑張らせて貰うよ」
グレムリン、ザントマン、シェイプシフター。
そして、ラトゥと俺でドラゴンとの戦い方に挑む事になる。ラトゥを見れば、既に戦闘が始まっていた。
『ふむ、吸血種か。初めて出会うな。中々に面白い』
「私も、竜人種は出会ってもその始祖に出会うのは初めてですわ」
――ラトゥは、致命の一撃を自身の爪を使って逸らしている。叩き付ける尾の攻撃や、竜の爪を決して力任せに弾き飛ばすわけではない。武術の達人がやるように、動きを呼んで丁寧に逸らしている。そのまま、反撃へと転じて竜の肌を切り裂いた。
「くっ……堅い!」
『ほう、傷を付けるか。褒美だ』
想像以上の堅さに、ラトゥに一瞬の隙が出来たのを見逃さずに竜は己の爪を叩き付ける。
回避することも逸らすことも出来ずに直撃したかのように見えたラトゥだが……直撃したと思った瞬間に、霧が舞う。そして、爪の上にラトゥが再び現れた。
『ほう、体を変化させるのか。器用な物だな』
「――っ!」
俺の血を吸ったことで、吸血種としての力を普段以上に使えているからこそだろう。苦しそうな顔をしながらもラトゥは己の体を変化させて、そのまま一度仕切り直した。
……先程のラトゥの一撃は、希望の一撃だ。致命的な一撃ではないとは言え、それでもダメージを与えたという事実は大きい。ドラゴンといえど、ダメージは入るのだ。
(だが、有効的な一撃とは言えない。まず、ドラゴンというモンスターを倒すために必要なのはなんだ? 火力もそうだが、まだあのドラゴンは手を見せていない。つまり、奴が本気で俺達を潰す前に致命的なダメージを与える必要がある)
ラトゥも制限時間がある。この状態で俺達が競り合っているのを眺めているだけでは負ける未来しかあり得ないだろう。
だから、俺達がドラゴンを倒すための手を考え出すしかない。
(考えろ。まず、ドラゴンに関するお伽噺だ。俺の知っているお伽噺の中で、ドラゴンを倒すために何をしている?)
子供の頃に聞いた話や、ティータと話をした内容。昔呼んだ本や、どこかで聞いた冒険譚。その中に出てくるドラゴンに挑んだ冒険者の話はゼロではない。
頼りになるかどうかすら分からない記憶から必死に掘り出していく。ドラゴンを倒すために何をしていた?
(ドラゴンを倒すための特殊な剣を使って打ち倒す……そんな物はないから考慮外。竜に酒を飲まして酔わせてから殺す……一考の価値はありか。酒を飲んで酔うなら、毒や状態異常が有効だということだ。後は……竜に存在する逆鱗に触れると怒り狂って前後不覚になるっていう話もあったな……待てよ? ラトゥはモンスターは体を維持するために弱点が生まれるといってた。そして、今までも巨体のモンスターには弱点が存在している。そのルールに則るなら、逆鱗はその弱点の可能性があるのか?)
あくまでも推察でしかない。だが、それでも何も分からないままに挑むよりは数倍マシだろう。
だから、俺は声をかける。
「グレムリン、シェイプシフター、ザントマン……今からドラゴンの弱点を探しにいく。お前達も全力で力を貸してくれ。ただ……竜にやられたら、何時再召喚出来るかは分からない。あれだけの魔力を持つ怪物にやられたら、年単位で自己を喪失する可能性もある。最悪は、死ぬ。もしも無理だと思ったら言ってくれ」
召喚のためには、契約したモンスター側の自己の認識が必要になる。アガシオンのように破壊されるほど、再度自分の形を認識するのには時間がかかる。
ドラゴンほどの魔力を持った存在に破壊されれば、自分を取り戻せるかどうかすらも分からない。そして、その最中に契約を解除されたり俺が死ぬことになれば……そのモンスターも、消滅する。つまりは、召喚獣も死ぬのだ。そのリスクを説明した上での答えは――
「分カッタ。俺ニ出来ル限リハスルゾ」
「!」
「当然だよ。そういう契約だからね」
全員が、迷い無く答えてくれた。
それに答えるべく、俺も全員を鼓舞するように告げる。
「――行くぞ。俺達の手でドラゴンをぶっ倒してやろう」
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