第101話 ジョニーは手に入れた

 ラトゥに降ろしてもらい、崩れ落ちたリビングアーマーが魔石へと変わっていくのを見ながらふと気付く。

 俺の手にある、頭部にあった飾り……これが、俺の手に残ったままだった。


「……もしかして、これ……魔具なのか?」

「恐らくそうですわね……苦労をして正攻法で倒す事が出来た人に対しての報酬だとは思いますわ」

「そうか……体を張った甲斐はあったか……」


 そう言いながら、俺は地面に大の字になって転がる。

 ……全身が疲労と痛みで動けない。リビングアーマーを身一つで登るのは予想以上に大変だったようだ。


「はぁ……でも、今度は誰も犠牲にせずに攻略出来た……」

「ですわね。ただ、上の下層に比べてこの階層はなんというか……特殊ですわね」

「そうだな。意図を感じる配置というか……」


 3層目は2層目や1層目とは毛色の違う構造になっていた。

 だが、それは別に難易度が低いというわけではなく……方向性の違いだった。


「3層目は、どちらかと言えば……リスクを取る行動を強要してくる感じだったな」

「ですわね……ちゃんと、どうやって対処をするべきなのか。そして、どこまでの損失を許容するのか……危険に、どこまで飛び混むべきなのか。そういった判断が出来なければ結果的に全てを失う……そんな場所でしたわね」


 だが、理不尽ではなかった。いや、まあ性格は悪いと思うが。

 それでも、間違えなければ切り抜けることは出来る。だが、求められる資質や能力が1層目、2層目、3層目で大きく違いすぎるのが難易度を高く感じさせる要因だ。


「というか、魔力を弾くっていうことは……場合によっちゃ、ここで詰むような冒険者達もいるよな?」

「そうですわね……その場合は、正面から巨大なリビングアーマーを破壊して倒すしかないですわね。とはいえ、あれだけ巨大なモンスターを倒す……それも、魔力対策をしたリビングアーマーだと相当苦労するとは思いますわ」


 なるほど。その場合は魔具も何も手に入らないという訳か。

 ふと、手に持った魔具をみながら全員に聞いてみる。


「なあ、この魔具はどういう能力か分かるか?」

「生憎、私はそういった魔具には詳しくなくて……エリザなら、答えられると思いますけども」

「一応見テミルガ、魔具トナルト詳シクナイ」


 そう言ってグレムリンは魔具を確かめている。

 ……こういった魔具などに詳しいのはアガシオンだった。


(……重ね重ね、俺の判断ミスが原因だな)


 自分の失敗が、こうして回り回って自分の首を絞めていると考えると凹んでしまいそうだ。

 グレムリンが見ている魔具をもう一度見る。リビングアーマーの頭の飾りは、こうしてみると短剣のようにも見える。


「……何か分かったか?」

「ムウ、武器トシテハ出来ハ悪イガ……魔具ナラ、コンナ物ダロウナ。マア、分カラナイトイウノガ確カダ」

「そうか……」


 つまり、何も分からないと言うことなのだろう。

 魔具に関しては、考えても仕方ない。使ってみるまではそれがどんな物かは分からない。爆弾かもしれなければ、何の役にも立たない飾りだって可能性もある。


(考えても仕方ないか……)


 それよりも、次に考えるべきはこのダンジョンの次の階層は何が待ち受けているのかだろう。

 ……一人で考えても仕方ないので、全員に聞いてみる。


「なあ、次の階では何が待ち受けていると思う?」

「次の階層ですか? んー、今度は逆に迷宮みたいな迷路とかですかね? 今回が凄いシンプルな道だったので」

「イヤ、熱カッタ後ハ、トンデモナク寒イ場所ジャナイカ?」

「?」


 三者三様の返答が帰ってくる。どれもありそうだが、しっくりは来ない。


「ラトゥは何が来ると思う?」

「次の階層ですの? そうですわね……」


 何かを考えていたラトゥにそう声をかけると、意外と乗ってくれる


「私は、この先に待っているのはむしろ平和な階層だと思いますわ」

「平和な階層?」

「ええ。そして、最下層が一番難易度が高くなっていて、その落差で冒険者に襲いかかるのだと思いますわ」

「なるほど。それはありそうだな」


 ここまでの経緯を考えるとあり得そうな話だ。

 実際、気を張り続けるのは難しい。平和な階層……言うなら、気を抜けるタイミングと集中するべきタイミングのオンオフをしっかりとしなければ精神的な疲弊は大きくなる。


「とはいえ、平和な階層だとしても油断は出来ないんだけどな」

「ですわね。このダンジョンは本当に難易度だけを見るなら……恐らく、銀等級以上の挑戦するべきダンジョンですわ。もしも、未到達ダンジョンでなければ最悪は難易度と幅の広さから金等級が挑戦するとしてもおかしくないダンジョンですわね」

「だよな。これが銅級相当のダンジョンだって言われたら驚く」


 ラトゥの助けと、自身の成長があった上でなんとかこのダンジョンに挑戦して生き延びてここまで来れている状態だ。

 もしも、ラトゥに出会えなければ。偶然にでも契約状態になって一緒に行動して貰えなければ。迷宮で、スライムが進化してシェイプシフターになっていなければ。グレムリンになっていなければ……考えるほどに、今の状況は幸運の上で成り立っている。


(……だから、この幸運は無駄にしないようにしないとな)


 アガシオンが繋いでくれたのだ。だから、絶対にこのダンジョンを踏破してみせる。


「……絶対に攻略するぞ」

「ええ、勿論ですわ」

「はい! ここまで来たら最後まで行きましょう!」


 バンシーとラトゥの言葉を聞きながら、俺は次の階層に挑むために体力を回復させるため、眠りにつくのだった。



 ――そして、目が覚めた俺は準備を整える。

 慣れたもので、すぐにラトゥ達も準備を整える……そういえばだ。


「ラトゥ、調子は大丈夫か? 俺の血を吸って暴走したから影響があるんじゃないかと思ったんだけど……」

「だ、大丈夫ですわ! むしろ、いつもよりも元気なくらいで……」


 顔を赤くしながらも、確かに言葉に嘘はなさそうだ。

 俺のせいで無理をさせたのなら、もうちょっと休んでも良いと思ったのだ。


「なら良かった。無理をさせたから心配だったんだ。それじゃあシェイプシフター。次の階層も頼むぞ」

「!」

「うぅ……気にされないのも反応に困りますわ……」


 ……ラトゥの言葉は聞かなかったことにして、シェイプシフターに先導して貰う。

 シェイプシフターは階段を降りていって……すぐさま戻ってきて、困惑した表情を俺に向ける。


「ん? どうした?」

「?」

「……何もない?」


 そう言われて、俺達も階段の先を見て……そこには、ただただ広い空間が広がっていた。


「私の予想があたりましたのかしら? 平和に行けたら嬉しいですわね」

「ああ、それなら嬉しい所だが……」


 ――ラトゥの言葉は、意識して鼓舞しているような物だ。

 何せ、俺達は感じていた……まだ見えぬ奥から、圧倒的な何かの存在を。


「――行くぞ」


 俺の言葉に、無言で従いながら進んでいく。

 そして、広い空間を進んだ先に、それは居た。


『やっときたか。待ち望んだ来訪者達よ』


 ――この世界における様々な種族の中でも、最上位に属する存在がいる。それは、ドラゴン人族。ドラゴンの血を引き継いだといわれる種族。吸血種も確かに強い種族だが、それでもドラゴン人族に比べれば純粋なスペックでは一歩劣る。

 そして――その、ドラゴン人族の祖とも言える存在。お伽噺や伝承に出てくるこの世界の絶対者。


『さて、冒険者達よ……まずは、語り合いでもするとしよう』


 ――このダンジョンの最下層で待っていたのは……ドラゴンだった。

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