第100話 ジョニー達は3層の守護者と戦う

「……重ね重ね、申し訳ありませんわ……」

「いや、俺も疲れてなかったらすぐ言ってたから俺の責任だ。助けてくれてありがとうな」


 ようやくお姫様抱っこ状態から解放されて、俺は立ち上がり……扉の中で待ち構えていた守護者を見る。

 巨大な角の生えた兜を被った鎧の体をしたモンスターだ。恐らく、リビングアーマーだろう。今までに比べて確かに変わった所のないモンスターだが……その特徴はシンプルなまでに巨大であることだ。恐らく、サイズはサーペントと大差ない程に大きい。


「……動き出しては来ないな」

「一定距離で動き出すタイプのモンスターですわね。特にリビングアーマーやガーゴイルのような縄張りを守っているタイプだと多く見られますわ」


 ――さて、呼び出すのはバンシーにシェイプシフター。そして、グレムリンだ。


「ム、守護者カ」

「わわ、大丈夫でしたか!?」

「!」


 三者三様の反応が返ってくる。

 今回のメンバー選出理由は……まあ、当然ながらザントマンの砂が効果的ではない相手だからだ。


「ああ、大丈夫だった……まあ、死にそうになったが今までよりはまだ安全だったぞ」

「でも、召喚術士さんボロボロですよ? 真っ黒になってますし、なんだか髪の毛も短くなってます」

「……そんなに焼かれたのか?」


 自分の頭髪を触ってみる……うーん、分からないが確かに焦げてちょっとだけ髪型が変わっている。

 まあ、別に困ることはないのだが。


「まあいい。とりあえず、あのボスを倒すぞ」

「……また大きい相手ですね。とにかく、大きくすれば良いとか思ってるんですかね」

「まあ、やはり大きさは強さですもの。どうしても、その傾向は出ますわ」


 バンシーの直球な言い分に、ラトゥが苦笑しながらフォローを入れる。


「ですが、体を構築する魔力が大きい程に、その歪みとなる場所……弱点が生まれますわ。あの巨大なリビングアーマーもおそらくは、そういった弱点がきっと存在しているはずですわ」

「二層目の守護者と同じって訳か。なら……」

「ナラ、弱点ヲ探スノハ俺ニ任セテクレ」


 そういうのは、グレムリンだ。


「確かに、グレムリンなら鍛冶もしてきた。そういう部分を見つけるのは得意か」

「アア。俺ガ適任ダト思ウ」

「なら、任せた。少なくとも、リビングアーマーというモンスターだと生半可な攻撃やダメージじゃ意味が無いな……」


 と、そこでラトゥに気づいて聞いてみる。


「そういえば、俺の血を吸った影響は……どのくらい続くんだ?」

「あ、そ、そうですわね……後、数分ほどで効果は切れますわ。過剰な魔力による暴走ですので、発散させれば元に戻りますの。実を言えば、今も緩やかに減退していますわ」

「なるほど。なら、突然暴走状態が切れてギャップから危険になる……って状況はないか」

「ええ。そこは安心してくださいまし」

「なら、行くか」


 シンプルな相手だ。だからこそ、俺達がやるべきは時間を作ってグレムリンに弱点ヲ見つけ出して貰うことだ。

 俺達が感知範囲に来たからか、リビングアーマーも起動して立ち上がる。


「シェイプシフター!」


 俺の言葉に、模倣をするシェイプシフター。

 今回の模倣先は、あの巨大なリビングアーマーに対抗出来る存在……そして、その時間を作り出す事の出来る存在。

 それは、かつて見たメイルスライムだ。


(――模倣先としては、そこまで強い方じゃない方だが――)


 メイルスライムの体に対して、シェイプシフターは馴染んでいるかのように動きのキレが違う。

 やはり、予想が当たっていたか。


(自分の模倣先が、元のスライムに近いと精度が上がるみたいだな)


 ここに来て新しいシェイプシフターの仕様に関して把握できたのは大きい。どうにも、模倣対象次第で精度の変化があるのではないかと考えたが……ヒルデになってもらうよりも、こちらの方が安定するはずだ。

 シェイプシフターに前線を張って貰うには、破壊されて戻れなくなるようなリスクがある。だが、スライムメイルのほぼ完璧な性能の模倣が出来ているのであれば前線で攻撃を受ける役目を任せることが出来る。

 ――そして、リビングアーマーとの戦いが始まった。



「――分カッタゾ!」


 戦い始めてから数分後、グレムリンはそう叫ぶ。

 ――やはり、今までに比べると圧倒的に早い。専門分野であれば、こうした場面で俺達がやるよりも見極めは当然ながらスムーズに進む。


「奴ノ、兜ニツイテイル、角ノ部分ヲ抜ケバ良イ!」

「抜く!?」

「アア。恐ラク、意図的ニ作ラレタ弱点ダ。ダカラ、破壊ノ対策ガサレテイルハズダ」


 ……なるほど。

 巨体故に弱点が生まれるならば、最初から弱点になる部分を作り、そこに対策の加工をする。生物であれば、意図的な弱点を作る事は出来ないが、無機物のモンスターであればだからこそというわけか。


「では、私が行きますわっ!」


 そして、リビングアーマーの体の上を器用に飛び回ってから、頭の飾りに触れようとして……


「きゃあっ!?」

「ラトゥ!?」


 弾かれたラトゥは、まるで猫のように宙空で体勢を立て直して着地する。


「大丈夫ですわ……でも、あの頭部の飾りの周囲では魔力が弾かるみたいですわ」

「……それはつまり、魔力を持っている存在は触れられないって事だよな?」

「そうなりますわね」


 ……つまりは。


「俺か」

「アレイさんですわね」

「召喚術士さんですね」


 全員が俺を見ていた。

 ……ならば、やるしかないか。


「よし、シェイプシフター!」

「!」

「全員、フォローは頼んだぞ!」


 そう言い残して、シェイプシフターはブラドを模倣して、俺を担いで空を飛んでいく。

 重たそうにしながらも、ちゃんと指示通りに動いてくれるシェイプシフターは本当に頼れる存在だ。


「助かる……それじゃあ、適当に落としてくれ」

「?」

「大丈夫だ。そのくらいはなんとかする」


 心配する言葉を、大丈夫だと抑えて俺はそのままリビングアーマーの上へと落下していく。

 このまま落ちれば頭に……


「まずっ!」


 ――当然ながら、止まったままで居てくれるはずがなく、体を動かすリビングアーマー。

 このままだと、地面に叩き付けられて――


「――【破壊の咆哮デストロハウル】!」


 バンシーの咆哮によって、リビングアーマーの上体が逸れた。

 そして、俺はかろうじてなんとか鎧の一部を掴むことが出来た。


「助かった!」

「アレイさん、頑張って……けほっ!」


 バンシーの頑張りを無駄にしないためにも、俺はクライミングでもするように鎧を登っていく。

 ――シェイプシフターは近寄れない。というよりも、近寄ろうとすればリビングアーマーが大きく動いて俺が振り落とされる可能性が高いからだ。


(くう……どっかで、クライミングでも経験しておけば良かった……!)


 巨大な鎧に張り付きながら、必死に登り続ける。

 無機物だからこそ、体の感覚が弱いから助かっている。必死にとっかかりを探しながら俺は頭を目指していく。

 一手。二手。三手。落ちるかも知れない恐怖を捨てて、ただ上へ。


(……よし!)


 登っていくうちに、ようやく頭に辿り着いた。

 関節部分を足場にしながら、どうにかして頭の飾りの部分まで辿り着かなくては。


(こういう時、ラトゥみたいな身体能力が羨ましくなるな……)


 だが、無いものをねだっても仕方ない。

 だから俺に出来るのは、ひたすら命をかける事だけだ……


「うおっ、くそ……!」


 ラトゥ達との戦闘で、ドンドン揺れていく。必死に張り付きながら下を見ると全員心配そうな表情を浮かべている。

 俺を気遣いながら戦っているのだろう。それを考えれば、俺が止まる訳にはいかない――


「……よし!」


 頭上の飾りまで辿り着いた。そして引き抜こうと触れて……


「うおおおおおおお!?」


 突如として、リビングアーマーが暴れ出す。

 考えて見れば当然だ。弱点に触れられて抜かれようとしているのに気付かないわけがない。


「抜けば……堅いな!? クソ!」


 全力て持ちながら引き抜こうとするが、びくともしない。

 必死に俺を振り落とそうとするリビングアーマーから、なんとかこの手だけは離さないようにする。


「アレイさん!」

「召喚術士さん!」


 声が聞こえる。

 ――クソ、ちょっとくらい思い通りになってくれてもいいだろ! そして、体を動かして暴れるリビングアーマーに危うく落とされそうになったとき、ほんの少しだけ飾りが動いた。


「……動いた!?」


 ……もしや。


「全員、リビングアーマーに総攻撃!」

「えっ!?」

「多分だけど、攻撃をしてコイツを暴れさせて抜くんだ!」


 ただ、張り付いて抜くだけは無理だと言うことだ。

 このダンジョンは本当に性格が悪い。


「だから、遠慮無くやれ!」

「――分かりましたわ」


 そして、バンシーやグレムリン、ラトゥにシェイプシフターの攻撃音が聞こえてくる。

 それを喰らったリビングアーマーは暴れ、徐々に飾りが抜けていく。


「あと、少し――」


 ――そして、ついにその時が来る。


「抜けたっ!」


 頭部の飾りが外れ……そして、リビングアーマーは動きを止めた。

 そして、体の維持も出来なくなったのか……そのまま、鎧は崩れて地面に転がり落ちていく。


「……あ」


 ……当然ながら、俺も飾りと一緒に支えが無くなって弾き飛ばされて落ちていく。

 地面に叩き付けられるよりも先に――


「――大丈夫でして?」

「……ありがとう、助かった」


 ラトゥが俺を抱きかかえて助けてくれた。

 三層目のボスを倒し、安心した俺は……また、お姫様抱っこされている事実から目を背けるのだった。

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