第98話 ジョニー達は3層へと向かう
最後の一撃を与えたサーペントは、そのまま消滅していく。
残ったのは魔石と……そして、一本の小さな光る何かが落ちていた。
「……あれは……」
「魔具ですわね。こうした守護者は、倒したときに一部が魔具となって落ちますのよ……というよりも、見たことがないのでして?」
「ないな」
「……相当に運が悪いと思いますわ。大抵の守護者は、倒されると魔具を落としますのに」
拾ってきたラトゥが、俺にその光る何かを渡しながらそういう。
見れば、それは小さな光る木の葉だった。サーペントの魔具というよりも、あの大木からドロップした魔具のようだ。それを、俺は自分の懐にしまってもう一度息を吐く。
「アレイさん、お疲れ様でしたわ……とはいえ、大きな被害はありましたけども」
「そうだな。アガシオンはしばらく呼び出せない。俺のミスだった」
俺の送還も出来ないままに、潰されて破壊されたアガシオン。そのダメージは深刻だろう。召喚獣は戦闘や事故でも、どんな状況であれ致命的なダメージを受けて破壊されてしまえば、その時のショックで自分の形を忘れてしまう。
確かに召喚獣であれば死ぬことはない。だが、戦闘によって破壊されて強制的に送還されてしまったモンスターは自我を一時的に失ってしまうのだ。だから、魔力を使って形を作っても意思を持って自分の体として再構築することが出来ない。自我が再構築されるまでは時間の経過で徐々に思い出して貰うしかないのだ。
アガシオンは自分の入れ物を壊されて粉々になった。少なくとも、そこまで致命的なダメージであれば……このダンジョンから帰るまでは間違いなく召喚することは出来ないだろう。
(……クソ、アレは俺の油断したせいだ)
間違いなく、俺のミスだった。敵を前にして、勝った喜びで息をついてしまうとは。
アガシオンの咄嗟の判断がなければ、間違いなく俺は死んでいただろう。そこで、バンシーがおずおずと声をかける。
「……召喚術士さん、どうしますか? 今からなら、安全に引き返せますから諦めても良いと思いますよ?」
「――いや、このまま行くつもりだ。休んだら下層に挑む」
「えっ!? あ、アガシオンも居ないのにですか?」
「ああ。ここで引いても良いんだが……ここで引く選択を取るべきじゃない気がするんだよ」
……言葉にしづらい。確かに、このダンジョンで今から引き返すことは可能だ。
再度、このダンジョンに言って挑戦するというのもいいだろう。この魔具やサーペントの魔石。手に入れた報酬を考えれば十分にプラスと考えられる。
だが、このダンジョンで今から引き返すという選択肢を取れば……もう、このダンジョンを攻略する事など出来ない。そんな予感がしているのだ。だが、少しだけ不安になる。
「……いや、俺が冷静じゃないだけか? もう一度挑戦すれば、先が分かっているから楽にダンジョンを攻略出来る気もするが……」
「いえ、直感であればそれに従うべきですわ」
と、諫めると思っていたラトゥは俺の決断に対してむしろその選択を選ぶように言葉を告げた。
「冒険者がダンジョンに潜っている時に感じた直感は、決して間違いではありませんわ」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ。濃度の濃い魔力というのは、良くも悪くも影響を与えますの。それは、モンスターだけではなくあらゆる生物に。ダンジョンを潜る中で感じた直感というのは、魔力を取り込んだことで察知した物の可能性が高いのですわ」
ラトゥの言葉に、俺の直感はこのダンジョンがここで引くと危険だと言うことを示しているのだろうか?
「ラトゥ、最下層に行かず引き返すと危険なダンジョンってあるのか?」
「過去に事例はありますわ。一定階層に辿り着くまでに引き返すと、逃さないように大量のモンスターが襲いかかり最下層に行かざるを得ないようにするようなダンジョンがありましたわ。このダンジョンが、そこと同じような仕組みをしているかは分かりませんけども」
「なるほど……あり得ないわけじゃないと」
「……ラトゥさんはどうなんですか? アレイさんよりも経験がある冒険者なんですよね?」
バンシーの質問。確かに、ラトゥ自信は冒険者としての勘は……いや、待てよ?
「……もしかして、今の状態のラトゥは魔力を吸収出来ないのか?」
「そうですわね。私は契約の関係なのか、ダンジョンの魔力を体が取り込むことなく弾いていますの……だから、正直に言えば今の私は、冒険者としての直感などは一切働いていませんわ。迷宮では、途中から契約した関係で気付きませんでしたけども……このダンジョンに入ってそれが分かりましたわ」
「なるほど……だから、俺の勘が頼りってわけか」
「ええ。どのような選択でも、このダンジョンに挑むリーダーはアレイさんですもの。その勘が、本当に直感なのか、魔力によって感じた危機意識なのか……どちらかは、本人にしか分かりませんわ。だから、決断をするのはアレイさんですわ」
その言葉は俺の意思の最終確認なのだろう……だから、考える。
危険を承知で進むか、それとも不確定な勘は考えずにそのまま行くべきか。
――心は決まった。
「行こう。俺は直感を信じる」
「ええ、分かりましたわ」
「!」
シェイプシフターとラトゥは快く返事をしてくれる。
しかし、バンシーだけは悩ましげな表情だ。
「バンシーは反対か?」
「……そうですね。ただでさえ、戦力が減ったのに。もっと危険な場所に飛び込んでいくのは反対です。ですけども、行くんですよね?」
「ああ」
「なら、反対しても仕方ないです。ただ、無理だと思ったら帰りましょう。それが一番ですからね! 無理だと思ったら絶対止めますよ!」
「分かった」
バンシーの言うことも最もだ。
今から俺は、俺の判断で万全でないままに危険な場所へと踏み込んでいく。もしもを考えれば、今すぐにでも帰る判断の方が良かったと思ってしまいそうだ
(それでもだ)
危険も、無謀も承知の上で進む選択肢を覆すつもりはない。
――そう考えて、ちょっとはいっぱしの冒険者らしくなったのではないかと思うのだった。
……そして、一層目よりも言葉少なく。それでも、食事と睡眠を簡単にとってから休憩を終える。
「それじゃあ、行くか」
「!」
シェイプシフターも張り切って、次の階層に繋がる階段を下っていく。
そして、見えた光景は――
「……いや、正気か?」
「い、今からでも帰りません? ほら、これは流石に……」
それは、奥に見えるボスらしき部屋まで一本道のダンジョンだ。最奥を見れば、そこは加工された扉になって分かりやすい守護者の部屋となっている。それだけを見れば、簡単で楽な道だろう。
――だが、その周囲に溶岩が流れ出ており、そこら中にサラマンダーが居なければの話だが。1層目に居たサラマンダーは、ここから流れ着いてきたモンスターだったのだろう。
「これは……熱気がこちらまで伝わってきますわね。間違いなく、落ちれば灰すら残りませんわね」
「だな……まあ、サラマンダーが相手ならザントマンだな」
呼び出すのは、ザントマン。
砂が有効だからこそ、この状況で呼び出す適任だ。
「やあ、出番なのかな……わぁ。帰っていい?」
「ダメだ」
いつものように軽口を言おうとしていたザントマンが状況を見て思わず黙る。
一本道だからこそ、もしも途中で襲われたサラマンダーに対処していれば他のサラマンダーが群がって死ぬ。サラマンダーに見つからないように、脇道に逸れる事も溶岩のせいで出来ない。
創意工夫の方法がない一本道であれば……
「よし、覚悟は良いか?」
「どうするんだい?」
「走って、突っ切る」
シンプルかつ、危険と隣り合わせな方法を選ぶのだった。
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