第96話 ジョニー達と2層の守護者
「――階層の守護者は、マッドプラントの巨大な奴でも出てくるかと思ったんだが……」
ボスの待つ部屋に入ると、植物によって床まで全て覆われている。まるで、ジャングルにでも迷い込んだかのようだ。この階層の植物による侵食が、守護者の部屋にまで及んでいるとは驚きだ。
そして、何よりも目立つのは……圧倒されるほどに巨大な大木。そして、その木に巻き付いている巨大な蛇の姿だった。
「あれは……サーペントですわね。噂に聞いて、とても巨大な蛇のモンスターとは聞きましたけども……想像以上ですわね」
「確かに、知識のあるモンスターなのは救いだが……あのサイズの敵ってだけで厄介だな」
巨大すぎる大蛇。過去に見たワームよりは小さいが、それも殆ど誤差のような物だ。言わば、前世の列車が意思を持って襲いかかってくるようなものである。
ワームに比べれば、暴走はしてこない。だが、それはつまり奴の行動には理屈があるということだ。
「……ここまでの道中みたいに囮作戦なんて使えなさそうだ。あの化け物と直接的な勝負になりそうだな」
「そうですわね。ただ、サーペント自体は再生力は大した事はありませんわ。バーサーカーの長に比べると、通用する手段は多いはずですわよ」
「だな……悪い、ザントマン。申し訳ないが、今回の敵を倒すのに眠りの砂がどこまで有効か分からない。必要なときに呼び出す」
「うん、了解だよ。適材適所だからね。無事に勝つ事を僕は祈っているよ」
そう言って送還されるザントマン。
……さて、残りの一枠に誰を使うべきか。あのサーペントを倒すのに、最初の選出も重要だ。
(バンシーは、サーペントに対しても火力として通用する。必要だ。シェイプシフターは……悩ましい所だが、最初に相手の行動を見極めるまでは模倣で時間を稼げる。だから、呼ぶとして……残っている戦力としてアガシオンかグレムリンのどちらかになるわけだ……さて、俺はどっちを選ぶべきか。)
脳裏に浮かぶのか、過去の様々な経験……そして、この先のサーペントとどうやって戦うのか。
(……よし)
俺は誰を呼び出すのかを決めた。
召喚符に魔力を込めて、呼び出す。
「アガシオン」
「ひゃわっ!? え、ええ? 出番ですか?」
呼び出されたアガシオンは、驚きながらも反応する。
ここでアガシオンを呼び出した理由は簡単だ。
「アガシオンとは、以前にダンジョンでワームと戦った経験がある。大型のモンスターを相手にする経験がないグレムリンよりも落ち着いて行動出来ると思ってな。まず、あのサイズの巨体を相手するのにグレムリンは最初からの戦力として数えるべきじゃないからな」
「え……ええええ!? あの化け物みたいな奴に挑むんですか!? 本気ですか!?」
「ああ。ワームだってもっと弱かったときに倒したんだ。なら、今回はもっと楽だと思わないか?」
「ぜ、絶対そんな事はないですよね!?」
「召喚術士さん、私もそう思います……」
思いっきりアガシオンから否定されて、さらにバンシーまで同意する。
だが、俺の判断は間違っていないはずだ。ワームという明らかに身の丈を超えた戦いを経験した事は無駄にならない。
「で、でも、あんなに大きい相手に私の魔法なんて絶対に効かないです。私なんて、お荷物になります――」
「魔法ばかりが仕事じゃないからな。それに、俺が必要だと思って呼んだんだ。だから、お荷物なんていうな」
「ううっ……」
そう、確かに通用しない可能性は高いだろう。だが、それなら俺の判断ミスだ。
自己評価の低いアガシオンだ。何時だって自分に自信はないのだろう……だが、アガシオンは俺の頼れる仲間なのだ。
「俺の仕事は、お前達を使いこなす事。そして、お前達は俺と一緒に戦う事だ。だから、お前は気にせずやれる事を頑張ってくれ。お前はお荷物だなんて、俺は一度も思ってない。お前が必要なんだ」
「う、ううううう……」
唸りながらも、目の色が変わっていく。動揺して、弱々しい目から覚悟が決まった目へと。
そして、俺を真っ直ぐにアガシオンは見つめる。
「……ど、どこまで役に立てるか分かりません……でも、必要だって言われたら……が、頑張ります!」
「ああ、期待してる」
「召喚術士さん! 召喚術士さん! 私は? 私は?」
「お前も必要だから頑張れ」
「ちょっと! なんだか扱いが雑な気がしますけど!」
バンシーはもう同じようなやり取りをした気がするんだが……
「ああ、お前にだって期待してる。お前次第で、奴の動きが変わるんだ。だから頼んだぞ」
「……うー、まあいいです。頑張ります」
何故か不満そうな表情をしながらも、納得はしたようだ。
……よし、これで気合いは十分だろう。
「ふふ……あんな巨大な相手でも、いつも通りで心強いですわ」
「まあ、緊張感はもっとあってもいいかもな」
ラトゥの言葉に、そんな軽口を返す。
そして、サーペントに視線を向けて一歩踏み出す。
「それじゃあ、2階層の攻略といくか!」
踏み出すと、サーペントは俺達に視線を向けてズルズルと這いずって木から上体を起こす。
……こうしてみれば、先程の巻き付いた状態よりも大きく、威圧的に見える。
「――流石に、目の当たりにするとちょっとばかり緊張するな」
「き、ききき緊張というか怖くて帰りたくなります……!」
「そういうことを言うと、私まで緊張しちゃいますから!」
バンシーとアガシオンが俺の言葉に弱気になったようで、そんな言葉を言う。
サーペントはというと、まだ俺達を発見できていないようで鎌首をもたげながら、舌を出して周囲を探し回っている。
「ラトゥ、どうやって戦うのが良いと思う?」
「……そうですわね」
その巨体を前にして、どのような攻撃手段が有効なのか。そのきっかけすらも掴めないような気持ちになってしまう。
だが、俺の悩みを見抜いたかのようにラトゥは解答を示してくれた。
「まず、ダンジョンに存在するモンスターがあれだけの巨体を維持するのは困難ですわ、魔力の体は大きい程に消費する魔力量も多くなる……だから、その魔力の体を維持するために何かしらの無理をしているはずですわ。だから、巨体のモンスターには弱点が生まれますの」
「弱点か……」
「ええ。私たちが来るまでに不活性の……いわば、眠っていた事自体が階層の守護者としては不自然な行動ですわ。眠って動かないと言う事は、余計な魔力の消費をしないようにしていたという事ですわね。だからこそ、弱点があるはずですわ」
なるほど……巨大なモンスターがそこまで存在しないのは、そういった理由があるのか。
体を大きくするメリットと、それのリスク。しかし、魔力の消費量が多いのだとすれば……
「それ、ひたすら耐え続けて相手の消耗を待つのは無理なのか?」
「不可能ではありませんわ……ただ、それを耐えきるよりは攻勢に出た方がまだ勝算はあると思いますわ。あのサイズの蛇の攻撃を、終わりが見えないまま耐え続けるのは出来まして?」
「無理だな」
ワームの時を思い出し、一瞬でその考えは諦める。
死を目前にして終わりの見えない消耗戦をすれば、俺達の方が先に音を上げるのは目に見えている。巨体に襲われ続ける恐怖と危険さは過去に嫌というほど学んだ。
「だから、弱点を探すのが早いんだな」
「ええ。ですが、直接戦う私達には見つけるまでの余裕はありませんわ。だから――」
その言葉を言い切る前に、サーペントの首が動きを止めて目玉が俺達を見る。
……どうやら、これ以上は待つつもりはないようだ。
「――では、生きて勝ちますわよ」
「ああ」
サーペントは、俺達に向かって威嚇をするように咆哮する。
さあ、守護者との戦いの始まりだ――
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