第95話 ジョニーと突き進む道
「うぅ……もう嫌です……このダンジョン……」
2層の植物の中を抜けてきたが、すでに憔悴してヘロヘロになっているバンシー。
何せ、ここまでの道中に出てきたマッドプラント。全てがバンシーを狙ってきていたからだ。そのたびに、俺が送還をして再度呼び出すという手順を繰り返してきたのだ。
「とはいえ、本当に楽は出来た。本来なら、もっと面倒なんだろうけどな」
「そうですわね……本来、斥候をしていてもこういったモンスターは魔力に反応するので、気付かないうちに囲まれる事もあるはずですの……そうすれば、被害を覚悟で対応する必要がありますわ。でも、私たちはバンシーさんが優先的に狙われる上に、送還される事で被害なく逃げる事が出来ますものね」
「そう言いますけど、こっちは生きた心地しないんですよ!? もうツタに掴まれたら召喚術士さんがちょっと遅れたら危うくやられちゃうんですから!」
「その、申し訳ありませんわ……バンシーさんの気持ちになれば確かにいい話ではありませんでしたわね」
そんなバンシーの言葉に、ラトゥが申し訳なさそうに謝罪をしている。
俺も、バンシーが頑張ってくれたので労うべきだろう。
「バンシー、助かった。おかげで俺達も大した消耗なく乗り越えれた。お前のおかげだ」
「……それなら良かったです! 苦労した甲斐がありました! はぁ、召喚術士さんがそうやって褒めるの珍しいからビックリしました!」
「あ、それでいいんですのね……あと、アレイさんはもっと褒めてあげるべきだと思いますわ」
「褒めてると思うんだけどな……」
別に褒めてないというわけではないのだが。
とはいえ、最近はバンシーを召喚して活躍する機会自体が少なかった。それに、本人が役立てるシーンも少なかったのもあるだろう。他を褒めていないと言うよりも、バンシーを褒めてやるような機会が少なかったというのが正しい。
まあ、それはそうとだ。
「バンシーのおかげもあるが、1層目よりも個人的には楽に感じたな」
「まあ、僕の仕事はなかったけどね。でも、わざわざ送還して呼び直す必要が無かった事を考えると、確かに上よりも楽だったんじゃないかな?」
「こっちはマッドプラントばっかりだったからな……サラマンダーとバーサーカーに警戒するなんてこともなかったからな」
総称しているが、それぞれが個性を持っている厄介な個体ばかりだった。
酸の液を吐く奴や、トゲの付いたツタを振り回してくるタイプ。中には、花粉によって増殖してくるタイプもいた。だがそれらもバンシーに気を取られている間に、サラマンダーの能力によって燃やされて本来の厄介さを効果的に使う事が出来ずに倒せたが。
「でも、アレイさん。本当にバンシーさんに感謝しないといけませんわ。不意打ちが得意で、更に多様な攻撃手段を持っている事が多い植物型のモンスターに、本来なら負傷どころか大きな消耗もなく攻略する事は不可能にちかいですもの。私も、この手段を執れるのは偶然とは言え召喚術士だからこそですわね」
「確かにな……実際、本来ならバンシーがいなけりゃ斥候をしてても気付かないうちに背後から忍び寄ったマッドプラントに囲まれて……って場合もあるのか。こっちはまた別種の面倒さだね」
「ええ。まず斥候能力が低ければ自然の罠によって全滅もありますわ。上の階層で必要だった直接的な吹き飛ばすような火力よりも、斥候として先を見通す能力。敵に対して適応した戦術を取る能力が必要というわけですわね……シェイプシフターさんの模倣と模倣先が優秀だからこそ、そういった面でも恵まれていますわね」
ラトゥの優秀という言葉に、どうだと言わんばかりに胸を張るシェイプシフター。そんなシェイプシフターの頭を撫でてやると嬉しそうにする……見た目がルイだからちょっと複雑な気分になるな。
しかし、こうして俺達が安全に進めるのもルイが優秀な斥候だからこそ、ここまで楽に進めている分もある。8割程度の再現率で、この実力だというのならルイはそれこそ銀等級の実力は十分にあるのだろう。友達として、ちょっと嬉しい。
(……まあ、それにしても)
1階層目と2階層目の違いを感じた事で、色々と思考が巡っていく。
それは、このダンジョンについてだ。
(もしや、バーサーカー達が焚き火をしていたのはサラマンダーを自分達の護衛として使うためもあるのか? 階層にサラマンダーと植物が共存していたら食い合う事になる。だが、そんな争い合うような魔境ではバーサーカー達が生存するための猶予は存在出来ない。なら、まだ植物の影響の少ない場所を自分たちの住みやすいように変化させた?)
だからこそ、一階層目と二階層目で大きく違うのだろうか? だが、なんとなくそれが正解とも言い切れない。
……ふと感じた事。それを言葉に出してみる。
「なんだろうな……まるで、冒険者としての実力を試されてるみたいなダンジョンだな」
「……そうですわね。確かに、普通のダンジョンも冒険者としての実力を試される場所ではありますわ。ただ、なんというか……このダンジョンはまるで、試練とでも言うかのように冒険者としての技量を求めてくるダンジョンですわね」
ラトゥも俺の意見に同意する。
全くもって俺達の認識の外にあるようなダンジョンだ。階層の守護者が居る以上はダンジョンではある。だが、それでも本来のダンジョンという形からはズレている。だからこそ、嫌な予感とは違うが俺は当然ながら一つの結論に辿り着く。
「……ラトゥ。このダンジョン、核はどうなってると思う?」
「そうですわね……間違いなく、変化していますわ。迷宮の時のように」
「だよな」
先日挑戦したダンジョンである迷宮は、魔力を十分に蓄えた事でダンジョンの核が変化。コレクターというモンスターとなり、迷宮と呼ばれるダンジョンの裏ではあらゆる貴重な物を蒐集し、飾り付ける博物館となっていた。
そう考えれば、俺達の居るダンジョンもその例に漏れずダンジョンの核が変化しているのは間違いない。
「コレクターみたいなモンスターになってると思うか?」
「……いえ、モンスターになるのはあくまでも一例ですわ。魔力を必要としなくなり、ダンジョン自体の構造を魔力を必要としない形に変化させるダンジョンもありますし、中には成熟した核は消えて新たな核を作るダンジョンもありますの」
「消えるって……どこに?」
「肉体を得て、外に出たというのが通説ですわ。中には、魔種の中にはそうした存在が始祖として定着した種族もあるのではないかと言われていますの」
……様々な可能性が上がる。
そして、俺に出せる結論は一つだけだ。
「つまり、何も分からないって事だな」
「ええ。実際にこの目で見るまでこのダンジョンの核がどうなっているのか……それは判断は出来ませんわ」
「それだけ分かれば十分だ。なら、行くしかない」
「ええ。冒険者ですものね」
ラトゥの言葉に笑みで答えて、ボスの待つ部屋に入っていく。
――答えが分からなければ、自分の目で見て自分の足で踏み込んでいく。それが冒険者というものなのだから。
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