第80話 ジョニーと束の間の交流と
「アレイにーちゃん!」
「アレイにーちゃんだー!」
「ルイねーちゃんはー!?」
「おう、久しぶり……待て待て。お前ら止まれ。一気に来られても困るからな! ちょっとルーク、止めてくれ!」
「皆、アレイにーちゃんが困ってるから整列!」
やってきたのは貧民窟。まずは子供たちの所にやってきて……俺の元へとワラワラと集まってくる。制御できなくなったので、慌ててルークに助けを頼むとあっさりと全員を抑えてくれた。
一ヶ月ぶりだが、どの子も別に痩せ細っていたり減っているわけではなさそうだ。むしろ元気そうで、安心した。元気すぎる気もするが子供はそのくらいが良いだろう。
「よし! それで、アレイにーちゃん。久しぶり! ダンジョンはどうだった?」
「助かった、ルーク。ダンジョンはいい話があるぞ。そういえば、ちょっと背が伸びたか?」
「そうかな?」
そう言いながらも嬉しそうにするルーク。
やはり、子供はちょっと見ない間に成長をするものだ……体の弱いティータは小さいので、貧民窟の子供たちでそういったことを実感する。
「へへ、俺はにーちゃんより大きくなるからな! それで、ルイねーちゃんは帰ってきてないの?」
「ああ。ダンジョンを攻略して実績を認められたから銀等級冒険者になったんだ。それで、今は王都にいってるから帰ってくるのは遅くなる」
「銀等級冒険者!?」
ルークの驚きの声に併せて、他の子供たちも大騒動だ。
それはそうだろう。貧民窟の子供たちでも冒険者の等級に関しては分かっている。銅級冒険者が憧れの職業の人なら、銀等級冒険者はいわばアイドルに近い。それが自分たちの姉のような存在であるルイだというのは、もうお祭り騒ぎだろう。
「すげえ! すげえ! ルイねーちゃんが銀等級冒険者かぁ……!」
「アレイにーちゃんは!?」
「俺はちょっと事情があって辞退した。まだ銅級だよ」
その言葉に、そっかと残念そうな子供たちだが、それでも全員が興奮冷めやらぬといった様子だ。
この貧民窟で、他人のことで喜べるような善性を持っているのは良いことだ。ルイの教育がいいのかもしれない。
「まあ、そういうわけでしばらくルイは帰って来れない。だから、俺が様子を見に来たんだ。どうだ? トラブルとかに巻き込まれてないか?」
「んー、大丈夫かな。最近はストスのおっさんから仕事を貰ってるし皆やることがあるから充実してるよ。スリとかしなくても良いから危なくないし!」
そういえば、借金取りからの仕事をストスを介して貰っているのか。
……どういう仕事をしているのか聞いてみるとしよう。万が一もあるからな。
「普段はどんな事を頼まれるんだ?」
「とりあえず、俺達を浚ってた奴らのアジトから色んな物を探して持っていったり……後は、貧民窟で人とか道具があれば探して欲しいって頼みを聞いたりかな。ちょっと危ない場所にも行くけど、スリをしてた頃に比べたらずっと安全だし最近はちゃんとご飯も食えるんだ!」
「ふむ、そうか。それなら良かった」
そういえば、ストスとの契約を思い出す。
……魔具……魔具かぁ。結局回収しきれないままだった。栄誉はあるが報酬が殆ど無いような冒険になってしまっていた……後でアガシオンに何か拾ってないか聞いてみるか。
「まあ、俺もしばらくしたらまたダンジョンに行くけど、お前達も困ったことがあったら俺を見つけて声をかけてくれ。ルイが帰ってくるまでは代わりになれるつもりだからさ」
「ありがとうな、アレイにーちゃん……俺達にもなんでも言ってよ! アレイにーちゃんの頼みならやるぜ!」
「うん……私たち、頑張る」
「頑張るよー!」
「何やるのー?」
自身ありげな顔でそんな心強い言葉を言ってくれる子供たちに思わず微笑んでしまう。
こうして、笑顔を見せてくれるだけでも頑張った甲斐があるというものだ。
「今は大丈夫かな。でも、今後は頼ることも増えるかも知れない。その時は頼むよ」
「分かった!」
「ああ、そうだ。お土産あるぞ。ほら」
そう言って子供たちに渡したのは……迷宮で売られていた小さなお菓子だ。元々、ティータと食べようかと思ったのだが体調を崩したティータと食べる前に腐るだろうと思って持ってきた。
たいして高い物でもないが、子供たちは大喜びだ。
「わぁ、いいの!」
「お菓子だ!」
「食べる!」
「ああ、仲良く分けろよ。それじゃあ、俺はストスの所に行ってくるから」
そういって、今度はストスの所へ顔を出しに行く。
「ちょっと、取り過ぎ!」
「まって、ちゃんと分けて!」
「食べる!」
「ちょっと、それ俺の!」
……後ろで、半分喧嘩みたいな声が聞こえてくる。
子供たちにお菓子を仲良くなんて普通に聞き分けれるのは難しいかった。慌てて自分の責任で起こした騒動の仲裁に行くのだった。
――さて、お菓子を分け与えてからストスの店の前までやってきた。
そこでアガシオンを呼ぶ。
「わっ……召喚術士さん、お元気ですか?」
「まあ元気だよ。それで聞きたいんだが……迷宮で魔具って回収してたりするか?」
アガシオンに聞いてみる。俺が居ない間に拾っている可能性は高いので、もし良ければ譲って貰おうかと思っていたのだが……
「あ、えっと……その。召喚術士さんを探すのに必死で……忘れていました」
「あー、そうか。なら仕方ない。悪いな」
「い、いえ……こちらこそお役に立てずに……」
仕方ない事ではある。それに、アガシオンが俺のためにそこまで動いていたというのは嬉しさもある。
「まあ、仕方ない。それじゃあ行くか」
「は、はい!」
そして、ストスの店である魔具店の中へと入る。
「いらっしゃい……おや、久しぶりだね」
「どうも、ストスさん」
「聞いたよ。迷宮を攻略したんだってね」
ニコニコとした笑顔で……ん? 違和感がある。
と、そこでアガシオンが俺の感じた違和感を言語化した。
「あれ……ストスさん、その目……魔具ですか?」
「ああ、気付いたかい? ちょっとした事故で目を失ってね。丁度良い魔具を持っていたから義眼として付けているんだ」
その目は金属で出来ている義眼であり、魔力によって動いているようだ。
……様々な義手や義足。義眼などの魔具もあるがその一種だろう。普通に人間の体として機能する物もあれば、本来は生物に備わっていないような特殊な能力を与える物もある。
「そ、その義眼って、どういう能力なんですか……?」
「主に魔力を見る事が出来る魔具だね。視覚的にも今までと変わらない。必要が無ければ機能も切れるからね……もし良ければ、君も試してみるかな? 肉体系の魔具は試すという前提が難しいんだよね。場合によっては普通の人間の体だと耐えられない場合もあるから冒険者の――」
俺を見たストスに無表情で返事をする。
「いえ、遠慮します。それで、この前の話なんですが……」
「ああ、魔具の話だね。良い魔具が手に入ったかな?」
「それが、手に入らなかったんで待って貰いたいっていいたかったんですが……」
「うんうん、構わないよ」
笑顔で答えるストス……いや、怖いな。
ここで妙な優しさを見せるのは裏があると相場は決まっている。俺の顔を見て、ストスは補足するかのように答える。
「君がこれから未到達ダンジョンに行くんだろう? そこで手に入れた物を譲ってくれる方が僕には得だからね。迷宮は潜りやすいダンジョンだからこそ、迷宮産の魔具っていうのはありふれているんだ。だから、君の次のダンジョン探索を心待ちにしているよ」
「……そう、ですか」
……俺はストスにダンジョン探索で迷宮の話も未到達ダンジョンの話も一切していない。
だというのに、どこかで聞きつけているこの男はやはり油断ならないと思うのだった。
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