第81話 ジョニーと成長と

「それで、同士は何か良い魔具との出会いはあったかな?」

「あ、今回はそこまで……ダンジョンでの色々とが忙しくて……」

「なるほど、そういう時もあるだろうね。こちらは意外と面白い出会いがあってだね――」


 そうして、アガシオンとストスは二人で魔具好きとしての交流を始める。

 徐々に熱量が上がってヒートアップしていく。その間、会話に混ざれない俺はどうしても暇になるので、店の魔具を色々と見て回ることにした。こうして魔具をちゃんと見る機会は無かったので楽しめるだろう。魔具に関して詳しいストスとアガシオンには、下手に話を聞いたら捕まって逃げれなくなるだろうと思って聞いたことはない。


(……魔具の中に治癒系の魔具なんてのもあるらしいけど、ここにあるか?)


 病弱な体を元気にすることが出来るような……いやまあ、それは叶わない望みではあるが。

 魔具は万能な道具ではない。魔力というエネルギーを通して普通ではあり得ない結果を生み出すことは出来る。しかし、それにはリスクがある。例えば、ストスの義眼ですらリスクはある。本来の肉体に出来ないような物が見えてしまう。そういった見えすぎるということは時には自分の身を危険にさらすこともあるのだ。


(まあ、肉体に作用するタイプの魔具は事故も多いからな……あったとしても、ティータに使うのは本当に最後のなんともならない時くらいだな……)


 そんなことを考えながら魔具を見てみる。

 しかし、並んでいる商品は俺に向いているかどうか悩ましい魔具ばかりだ。商品を見ているだけでも面白いのは面白いのだが……


(雷を起こす魔具。ただし、対象を選べないから起こした雷は自分自身にも襲いかかる……体を隠す魔具。しかし、呼吸をすると解除される……面白いけど、使い勝手が悪いな。それと、こっちは魔力によって周囲に浮かんで自動的に動く魔具か……前世で見たロボットアニメみたいだな。面白いけど……うわ、値段ヤバいな)


 魔具というのは、こういった実用性に関しては首を捻る様な物も多かったり、値段は天文学的……というか、本当に売る気があるかと思うような道具もある。

 だが、魔具というのはそれだけの価値があるのだ。


(俺も魔具が見つかると良いな……とはいえ、自分にぴったりな魔具なんてそう簡単には見つからないんだけど)


 自分が使いこなせるような魔具に出会えるかどうかは運次第だ。だが、自分に合う魔具を見つければ自分の実力を何倍にも跳ね上げることが出来る。

 だからこそ、魔具の価値は高くあらゆる冒険者が求めるわけだ……そういえば、ラトゥはそういった魔具を持っているのだろうか?


(……帰ったら聞いてみるか?)


 今まではどうしても関わりを持てなかった冒険者同士の交流だ。それも、現役の銀等級冒険者となれば金を払ってでも聞きたいという人間が多いだろう。

 確かに命の危機やら様々なトラブルはあれど、今回の迷宮探索でラトゥとの繋がりを手に入れた事が一番の収穫だったのかもしれない。

 そんなことを考えながら、そろそろ時間も遅くなるのでアガシオンを呼びに……


「――やはり、身をもって体験しないと義肢系の素晴らしさは分からないね。視覚的な物よりも実利性だから、使ってみてこの機能美が分かるものだよ。実際に使わないと分からないものだよ。そういえば、魔力体だと義肢系の魔具は使えないんだったかな?」

「そうですね……まず、肉体的に魔具で補う意味が無いので……」

「なら、そういう時には身近に居る人間にそれとなく勧めるのだよ。冒険者である以上は取り返しの付かない怪我もある。そんなときに義肢としてこれを提供すればいいんだよ」

「そ、そんなチャンスありますかね……?」

「ふむ。チャンスがないなら逆に売り込む手もありじゃないかな? 正常な肉体をわざと義肢に入れ替える冒険者も過去には存在したそうだ。合法的な手段でも義肢を使って貰うことは――」


 ……俺を改造人間にでもしようかと思っているのか。アイツは。

 そして話を中断させるために割り込む。


「な、なるほど……! 確かに合法的なら……」

「なるほどじゃねえよ。人をなんだと思ってんだ」

「しょ、召喚術士さん!? き、聞いていたんですか!?」

「まあ、そりゃ盛り上がってたら聞こえるよ。それで、俺は生憎だけど五体満足じゃないと死ぬような立場だからそれは無理だぞ。ストスも分かってんだろ」

「ああ、そういえばそうだったね。残念」


 どこまで本気か分からない顔でそう言いのけるストス。

 ため息を吐いて、店を出る準備をする。


「それじゃあ、今度のダンジョンで見つけたら持ち込みますよ」

「ああ。期待しているよ。それで、良い魔具は見つかったかな?」

「……生憎、まだ俺には早そうでした」


 どうやら抜け目なく俺を見ていたらしいストスにそんな返答を返す。


「なら、仕方ないね。君に合いそうな魔具があれば見繕ってあげようか?」

「……後が怖いんで、今は遠慮しておきますよ」

「ははは、それなら今後に期待しておこう」


 今後も、迂闊に頼らないように気をつけようと思いながらストスの店を後にする。

 ……さて、切り替えて帰ったらラトゥと相談をするとしよう。



「私の使っている魔具がないか……ですの?」

「ああ。ラトゥも銀等級冒険者だから魔具を使っているのかと思ってさ」


 帰ってからラトゥの宿泊している部屋にやってきた。部屋の中で優雅にお茶をしているラトゥにそう質問をしてみた。その質問に考えながら答えるラトゥ。


「私は魔具は使っていませんわね。吸血種……というよりも、魔種というのは魔具と相性が悪い場合が多いのですわ。肉体の維持に魔力を消費するので場合によっては自死をする可能性がありますもの。ただ、エリザは魔具を好んで使っていましたけども。それも、あくまで補助程度ですわね」

「なるほど……確かに、エリザが使っているイメージは付くな」


 リスクとか気にせず色々と使って楽しんでそうだ。


「それで、どうしましたの? 魔具の使用はリスクも高いですわよ?」

「いや、未到達ダンジョンに挑戦するから、お互いにある程度は意思を併せて何を出来るか把握した方が良いかと思ったのと自分の手を増やしたいと思ってさ」

「その認識は正しいですわね。考え方は間違っていませんわ……では、アレイさん。私の【血の花園】での役割は分かりますこと?」


 楽しそうに質問するラトゥ。多分だが、こういう冒険者としての心得を教師として教えるのが楽しいのかもしれない。

 前に見たエリザとブラド、ラトゥの戦い方を思い出して……


「ラトゥはもしかして壁役か?」

「ええ、そうですわね。私が最前線で敵の攻撃を捌きながら戦って、ブラドはそのサポート。そして、作り上げた時間でエリザが大規模な攻撃によって敵を殲滅するのが【血の花園】としての戦い方ですわね」

「結構意外だな。ラトゥが矢面に立つの、ブラド当たりが反対しそうだけど」

「吸血種というのは、個性による違いが大きいんですの。私の吸血種としての力は二人よりも強いんですの。だから、正面切った戦いでいうなら一番私が強いんですのよ」


 そういってドヤ顔をしながら自分の実力をアピールするラトゥ。

 吸血種の力が強ければ自己治癒能力も高くなるわけだ。


「でも、私の役割をどうするのかはアレイさんにお任せ致しますわ。最善の立ち位置はそれぞれの冒険者のスタイルによって違いますもの」

「そうだな……俺はむしろ、前衛役が少なかったからラトゥに任せたい。いいか?」

「ええ。分かりましたわ」

「それじゃあ、召喚獣達との連携を……あー、そういえばまだ全員と顔合わせしてないな」


 すっかり忘れていた……特に、バンシーとザントマンはあれから召喚していないのでヘソを曲げているかもしれない。


「それじゃあ、今から俺の召喚術を紹介するよ」

「分かりましたわ」


 そして、俺は召喚をしながらあんまりラトゥの前で怒られるような羽目にならなければいいなぁ……と思うのだった。

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